人口集中地区(DID)とは
はじめに
日本の都市計画や統計において重要な役割を果たす「人口集中地区」(Densely Inhabited District、略称DID)。この概念は都市と農村の境界を定義する上で欠かせない指標となっています。本記事では、人口集中地区の定義、歴史的背景、特徴、そして現代における活用方法までを詳しく解説します。
人口集中地区の定義
人口集中地区(じんこうしゅうちゅうちく)とは、日本の国勢調査において設定される統計上の地区です。英語では "Densely Inhabited District" と呼ばれ、略して「DID」とも表記されます。
具体的には、以下の2つの条件を満たす地域が人口集中地区として設定されます:
- 原則として人口密度が1平方キロメートル当たり4,000人以上の基本単位区等が市区町村の境域内で互いに隣接していること
- それらの隣接した地域の人口が国勢調査時に5,000人以上を有すること
これらの条件を満たす地域が「人口集中地区」として指定され、統計や都市計画の基礎データとして活用されています。
人口集中地区誕生の歴史的背景
人口集中地区が誕生した背景には、日本の市町村合併の歴史があります。国勢調査の結果は、従来、都道府県および市区町村という行政区域を単位として集計・利用されており、市および区はまとめて「市部」として、町および村は「郡部」として、それぞれ都市的地域または農漁村的地域を表すものとして慣用されていました。
しかし、昭和28年の町村合併促進法および昭和31年の新市町村建設促進法により、多くの町村が新たに市制を施行したり、既存市に合併されたりしたことで、市部の地域内に農漁村的性格の強い地域が広範囲に含まれるようになりました。この結果、市部の地域は面積が著しく広大になる一方で人口密度は低下し、統計上「都市的地域」としての特質を明確に表さなくなりました。
こうした背景から、総理府統計局(現総務省統計局)は昭和35年国勢調査の際に、「都市的地域」の特質を明らかにする新しい統計上の地域単位として「人口集中地区」を市区町村の境域内に設定し、これらの人口集中地区についても国勢調査結果を集計することにしました。
人口集中地区の特徴と例外規定
人口集中地区の基本的な条件は上記の通りですが、以下のような例外規定も存在します:
空港、港湾、工業地帯、公園など都市的傾向の強い基本単位区は、人口密度が低くても人口集中地区に含めることがあります。 これは都市機能を持つ地域を適切に評価するための措置です。
人口集中地区は「都市的地域」を表す観点から、学校・研究所・神社・仏閣・運動場等の文教レクリエーション施設、工場・倉庫・事務所等の産業施設、官公庁・病院・療養所等の公共および社会福祉施設のある基本単位区等で、それらの施設の面積を除いた残りの区域に人口が密集している基本単位区等、またはそれらの施設の面積が2分の1以上占める基本単位区等が上記の条件を満たす基本単位区等に隣接している場合には、人口集中地区を構成する地域に含められます。
また、「準人口集中地区」という概念も存在します。これは人口集中地区と同様の条件を満たすものの、人口規模が3,000人以上5,000人未満の地域を指します。 準人口集中地区は、人口集中地区ほどの都市的特性は備えていないものの、都市化が進みつつある地域として認識されています。
人口集中地区データの活用
人口集中地区のデータは様々な分野で活用されています:
人口集中地区のデータは、地方交付税算定基準の一つとして利用されているほか、都市計画、地域開発計画、市街地再開発計画、産業立地計画、交通計画、環境衛生対策、防犯・防災対策、その他各種行政施策、学術研究および民間の市場調査などに広く活用されています。
近年では、改正航空法(2015年12月〜)においてドローンの飛行規制にも活用されており、原則的に無人航空機の第三者上空の飛行を禁止しており、第三者上空を飛行する可能性が高い人口集中地区上空で飛行させてはならないとされています。
人口集中地区データの確認方法
人口集中地区のデータは5年ごとに行われる国勢調査の結果に基づいて更新されます。最新の人口集中地区データは、国土地理院が提供している「地理院地図」および政府統計の総合窓口が提供している「地図で見る統計(jSTAT MAP)」で確認することができます。
具体的な確認方法:
- 国土地理院「地理院地図」にアクセス
- 左側のメニューから「人口集中地区」を選択
- 地図上に人口集中地区が表示される
日本の都市化率と人口集中地区
DIDを用いた都市化率の定義は他の主要先進国の都市化率の定義に比べ厳しいことが指摘されています。例えば2005年(平成17年)の国勢調査人口を用いて日本の都市化率を試算すると、日本の定義(DIDを用いた定義)では66.0%ですが、イギリスの定義を日本に適用すれば100%、カナダの定義を適用すれば92.0%まで上昇します。
これは日本の人口集中地区の定義が厳格であり、国際比較の際には注意が必要であることを示しています。
人口集中地区の現状と将来
日本の人口集中地区は、大都市圏への人口集中や地方の過疎化などの影響を受けて変化し続けています。都市計画や地域開発において、人口集中地区の動向を注視することは、持続可能な都市づくりのために重要です。
また、実際の日本の国土は人口集中地区でないエリアのほうが圧倒的に多く、東京・名古屋・大阪・福岡等の大都市圏や駅周辺に人口集中地区が集中しています。 このような人口分布の偏りは、日本の国土利用や都市政策における課題でもあります。
まとめ
人口集中地区(DID)は、日本の都市と農村を区分する重要な統計指標です。昭和35年から国勢調査ごとに設定され、様々な行政施策や計画に活用されています。人口密度4,000人/km²以上、総人口5,000人以上という明確な基準を持ち、日本の都市的地域を客観的に評価する上で欠かせない概念となっています。
今後も国勢調査ごとに更新される人口集中地区のデータは、日本の都市の変遷を知る上で貴重な資料であり続けるでしょう。都市計画に関わる方々だけでなく、様々な分野の研究者や実務者にとって重要な指標であることは間違いありません。