自然環境保全地域とは
はじめに
自然環境保全地域は、日本の貴重な自然環境を将来にわたって保全するために設けられた特別な保護区域です。1972 年に制定された自然環境保全法に基づき、人間活動による影響をほとんど受けていない原生的な自然や、特異な生態系を有する地域を厳格に保護することを目的としています。高度経済成長期における自然破壊への危機感を背景に、学術的価値の高い自然環境を永続的に保全する制度として確立されました。
自然環境保全法の基本
法律の目的と歴史
自然環境保全法は 1972 年 6 月に公布され、翌 1973 年に施行されました。この法律は「自然環境を保全することが特に必要な区域等の自然環境の適正な保全を総合的に推進すること」を目的としています。高度経済成長による開発が進む中、貴重な自然環境を保護するという社会的要請に応える形で制定されました。
自然環境保全地域の定義
自然環境保全法において、自然環境保全地域とは「優れた天然林が相当部分を占める森林や優れた状態を維持している河川、湖沼、海岸、湿原、草原などの区域」と定義されています。人為的影響をほとんど受けていない原生的な自然環境や、特異な地形・地質、貴重な動植物の生息・生育地などが対象となります。
自然環境保全地域の種類
原生自然環境保全地域
原生自然環境保全地域は、人の活動によってほとんど影響を受けていない原生状態を保持している地域です。この地域では、学術研究目的以外の立入りが厳しく制限され、最も厳格な保護が行われています。現在、北海道の遠音別岳、南硫黄島など 5 地域が指定されており、合計約 5,631 ヘクタールの面積を有しています。
自然環境保全地域
自然環境保全地域は、環境大臣が指定する地域で、特異な地形・地質、特異な自然現象、優れた自然環境を有する地域が対象です。この地域は特別地区と普通地区に区分され、特別地区ではより厳格な規制が行われています。現在、白神山地早池峰など 10 地域、約 22,542 ヘクタールが指定されています。
都道府県自然環境保全地域
都道府県知事が指定する地域で、国指定の自然環境保全地域に準ずる自然環境を有する地域が対象です。各都道府県の条例に基づき、地域の特性に応じた保全管理が行われています。全国で約 540 地域、約 77,342 ヘクタールが指定されています。
自然環境保全地域面積
面積の定義
自然環境保全地域の面積は、法令で指定された区域の水平投影面積として定義されます。山岳地域などの傾斜地においても、地図上で水平に投影した面積が公式面積として採用されています。
特別地区と普通地区の違い
自然環境保全地域は、保全の必要性に応じて特別地区と普通地区に区分されます。特別地区では建築物の新築や木竹の伐採、鉱物の採掘など多くの行為が規制されますが、普通地区では特別地区ほど厳しい規制はありません。面積計算においては、両地区を合わせた総面積が当該保全地域の面積となります。
面積計測の方法と課題
面積計測は主に GIS(地理情報システム)技術を用いて行われ、高精度の地形図データや航空写真を基に算出されています。しかし、山岳地域や離島などでは正確な計測が難しい場合もあり、測量技術の向上に伴って過去の面積データが修正されることもあります。
自然環境保全地域の規制と管理
厳格な保護の内容
自然環境保全地域では、自然環境の保全のために様々な行為が規制されています。特に原生自然環境保全地域では、学術研究以外の目的での立入りや、工作物の新築、木竹の伐採、動植物の捕獲・採取などが原則禁止されています。自然環境保全地域の特別地区でも同様の規制がありますが、地域の特性に応じて一部の行為は許可制となっています。
学術調査の位置づけ
自然環境保全地域における学術調査は、地域の自然環境を把握し、適切な保全措置を講じるために重要な役割を担っています。ただし、原生自然環境保全地域での調査活動も環境大臣の許可が必要であり、生態系への影響を最小限に抑える配慮が求められます。
日本の自然環境保全地域の現状
最新の面積データ
現在、日本全国で原生自然環境保全地域が 5 ヶ所(約 5,631 ヘクタール)、自然環境保全地域が 10 ヶ所(約 22,542 ヘクタール)、都道府県自然環境保全地域が約 540 ヶ所(約 77,342 ヘクタール)指定されています。国土面積に対する割合は小さいものの、学術的価値の高い自然環境が厳格に保護されています。
近年の動向と課題
気候変動による生態系への影響や、外来種の侵入、周辺地域の開発圧力など、自然環境保全地域を取り巻く課題は複雑化しています。また、過疎化による管理体制の弱体化や、モニタリング調査の継続性の確保なども課題となっています。一方で、生物多様性保全の重要性が国際的に高まる中、自然環境保全地域の価値再評価や新たな指定の検討も進められています。
まとめ
自然環境保全地域は、日本の貴重な自然環境を将来世代に引き継ぐための重要な制度です。厳格な保護規制によって原生的な自然環境や特異な生態系が守られています。自然環境保全地域の面積は国土全体からすれば限られていますが、その学術的・生態学的価値は計り知れません。今後は気候変動や社会構造の変化に対応しながら、持続可能な保全管理体制の構築と、保全地域のネットワーク化による生態系サービスの維持・向上が期待されています。自然環境保全地域は単なる保護区としてだけでなく、自然と人間の関係を再構築するための重要な場としての役割も担っていくでしょう。