都道府県別農業産出額ランキング(2022年度)

概要

農業産出額は、各都道府県で生産された農産物の金額的価値を示す指標で、地域の農業生産力を表します。本記事では、2022年度の都道府県別農業産出額のランキングを紹介し、地域間の差異や特徴について分析します。この指標は地域の農業の規模や特性、競争力を理解する上で重要な手がかりとなります。

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上位県と下位県の比較

上位5県と下位5県の詳細説明

上位5県の特徴

北海道12,919億円(偏差値105.7)で全国1位となっています。北海道は日本の食料供給基地とも呼ばれ、広大な土地と冷涼な気候を活かした大規模農業が発展しています。米や小麦、じゃがいも、てん菜(砂糖大根)などの畑作物に加え、酪農や肉牛の生産も盛んです。特に酪農は国内最大規模で、牛乳や乳製品の多くが北海道産です。こうした多様な農業生産が、圧倒的な産出額の高さにつながっています。

鹿児島県5,114億円(偏差値66.2)で2位につけています。温暖な気候と豊かな自然環境を活かし、畜産業が非常に盛んです。特に豚や肉用牛の生産量は全国トップクラスで、さつまいもやお茶などの特産品も全国的に知られています。畜産物の産出額が全体の約7割を占めており、農業と畜産が地域経済を支える重要な柱となっています。

茨城県4,409億円(偏差値62.6)で3位となっています。首都圏に近い立地を活かし、レタスやピーマン、メロンなどの野菜生産が盛んです。消費地へのアクセスの良さを背景に、鮮度の高い農産物を安定供給できる体制が整っています。また、米や畜産物の生産も多く、バランスの取れた農業生産構造が特徴です。

千葉県3,676億円(偏差値58.9)で4位です。首都圏という大消費地に隣接し、葉物野菜や果物、花き、畜産物など多様な農産物を生産しています。特に梨やビワなどの果樹栽培は全国的にも有名で、都市近郊型農業のモデルケースともいえる存在です。農業と都市生活が共存する独自のスタイルが、千葉県の農業の強みとなっています。

熊本県3,512億円(偏差値58.1)で5位です。温暖な気候と豊富な水資源を活かし、トマトやスイカなどの野菜生産が盛んです。畜産業も重要な産業で、特に肉用牛の生産が目立ちます。また、い草や葉たばこなどの工芸作物の生産も盛んで、多様な農業が地域の経済と文化を支えています。

下位5県の特徴

石川県484億円(偏差値42.7)で43位となっています。米や野菜の生産が中心ですが、農地面積が限られているため産出額は下位に位置します。一方で、加賀野菜などのブランド化された特産品の生産に力を入れており、地域の伝統や食文化を守る取り組みが続けられています。

福井県412億円(偏差値42.4)で44位です。コシヒカリなどの米作が中心ですが、山がちな地形のため農地面積が限られています。小規模な農家が多く、地域の特色を活かした農業が展開されていますが、産出額では下位となっています。

奈良県390億円(偏差値42.3)で45位です。大和高原を中心とした茶の生産や、大和野菜などの特産品がありますが、都市化と山間部が多い地理的条件により農地面積が限られています。伝統野菜のブランド化や観光農業など、新たな取り組みも進められています。

大阪府307億円(偏差値41.8)で46位です。都市化が進み農地が極めて限られていますが、泉州地域を中心に水なすや九条ネギなどの伝統野菜の栽培が続けられています。都市農業の新たな可能性を模索しつつ、地元産の新鮮な野菜を都市住民に届ける役割も担っています。

東京都218億円(偏差値41.4)で47位となっています。都市化が最も進んだ地域で農地面積が極めて限られているため、産出額は全国で最も低くなっています。しかし、コマツナなどの葉物野菜を中心とした都市農業が展開されており、単位面積当たりの生産性は高い特徴があります。都市住民のニーズに応える形で、地産地消や都市型農業の新たな価値創造も進んでいます。

農業生産性の観点からの分析

就業者1人当たり農業産出額との比較

農業産出額の総額だけでなく、就業者1人当たりの生産性も重要な指標です。2018年度の就業者1人当たり農業産出額データを参考にすると、興味深い傾向が見られます。

北海道は農業産出額で1位ですが、就業者1人当たり農業産出額でも1,304.2万円(偏差値98.7)で1位となっており、規模と効率性の両面で優れています。大規模農業による効率化が進んでいることが示されています。

鹿児島県は農業産出額で2位、就業者1人当たり農業産出額でも840.2万円(偏差値74.0)で2位と、高い生産性を誇っています。畜産業の比率が高いことが、労働生産性の向上に寄与していると考えられます。

宮崎県は農業産出額で6位ですが、就業者1人当たり農業産出額では762.0万円(偏差値69.8)で3位と、非常に高い生産性を示しています。畜産業や施設園芸農業の効率化が進んでいることが背景にあります。

一方、茨城県は農業産出額で3位ですが、就業者1人当たり農業産出額では503.2万円(偏差値56.1)で6位となっています。首都圏への近さを活かした野菜生産は産出額を押し上げていますが、労働集約的な農業のため、1人当たりの生産性は相対的に低くなっています。

生産性格差の要因分析

就業者1人当たり農業産出額の高い県は、主に以下の特徴があります:

  1. 畜産業の比率が高い:鹿児島県、宮崎県、北海道など、畜産業が盛んな県は1人当たりの生産性が高い傾向があります。畜産物は単価が高く、比較的少人数での管理が可能なためです。

  2. 大規模農業の展開:北海道のように広大な農地を活かした大規模農業が展開されている地域では、機械化や効率化が進み、1人当たりの生産性が向上しています。

  3. 高付加価値農業:宮崎県のように施設園芸農業や高付加価値作物の生産が盛んな地域では、1人当たりの生産性が高くなっています。

逆に、就業者1人当たり農業産出額が低い県は、以下の特徴があります:

  1. 労働集約的な農業:茨城県や千葉県のように、首都圏への近さを活かした野菜生産が中心の地域では、手作業が多く、1人当たりの生産性が相対的に低くなっています。

  2. 小規模農業の多さ:多くの県で小規模農家が多く、効率化が進んでいないことが1人当たりの生産性を押し下げています。

  3. 都市化の影響:東京都や大阪府のように都市化が進んだ地域では、農地面積が限られているため、1人当たりの生産性も低くなっています。

地域別の特徴分析

地域ブロック別の傾向

北海道・東北地方は全体的に農業産出額が高い傾向にあります。北海道(1位)をはじめ、青森県(7位)、岩手県(11位)、山形県(13位)など上位に位置する県が多く見られます。これらの地域は広大な農地を活かした大規模農業が可能であることが特徴です。

関東地方も茨城県(3位)、千葉県(4位)、栃木県(9位)など農業産出額の高い県が集中しています。首都圏という大消費地に近い立地を活かした都市近郊型農業が発達しています。

九州地方も鹿児島県(2位)、熊本県(5位)、宮崎県(6位)など上位に位置する県が多く、温暖な気候を活かした畜産業や野菜生産が盛んです。

一方、近畿地方や四国地方は比較的農業産出額が低い傾向にあります。これらの地域は山がちな地形が多く、大規模な農地の確保が難しいことが影響していると考えられます。

都市部と地方の比較

大都市を抱える都道府県では、一般的に農業産出額が低い傾向が見られます。東京都(47位)、大阪府(46位)、奈良県(45位)などは下位に位置しています。これらの地域では都市化が進み、農地面積が限られていることが主な要因です。

一方、地方圏では農業が主要産業となっている県も多く、北海道(1位)、鹿児島県(2位)、熊本県(5位)、宮崎県(6位)など上位に位置する県が多く見られます。これらの地域では広大な農地を活かした大規模農業や、地域の特性を活かした特色ある農業が展開されています。

産業構造による影響

農業産出額の高い県は、大きく分けて二つのタイプに分類できます。一つは北海道のように広大な農地を活かした大規模農業が展開されている地域、もう一つは鹿児島県や宮崎県のように畜産業が盛んな地域です。特に畜産物は単価が高いため、畜産業の比率が高い県は農業産出額も高くなる傾向があります。

また、茨城県や千葉県のように首都圏に近い立地を活かした野菜生産が盛んな県も上位に位置しています。これらの県では、大消費地への近さを活かした高付加価値農業が展開されています。

格差や課題の考察

地域間格差の実態

農業産出額には大きな地域間格差が存在します。最も産出額が高い北海道(12,919億円)と最も低い東京都(218億円)では約59倍の差があります。また、上位5県の合計が全国の約3割を占めるなど、一部の県に生産が集中している状況も見られます。

この格差の背景には、農地面積の違いや気候条件、地形などの自然的要因に加え、都市化の進展度合いや産業構造の違いなどの社会経済的要因も影響しています。

農業の担い手不足と高齢化

多くの都道府県で農業従事者の高齢化と担い手不足が深刻な課題となっています。特に中山間地域を多く抱える県では、この傾向が顕著です。担い手不足は農地の遊休化や耕作放棄地の増加につながり、将来的な農業産出額の減少要因となる可能性があります。

気候変動と自然災害のリスク

近年、気候変動の影響による異常気象や自然災害が増加しており、農業生産へのリスクが高まっています。特に台風や豪雨、干ばつなどの影響を受けやすい地域では、安定的な農業生産を維持するための対策が求められています。

生産性向上の課題

就業者1人当たり農業産出額の格差は、農業の効率化や機械化の進展度合いを反映しています。特に中山間地域や小規模農家が多い地域では、生産性向上のための投資や技術導入が課題となっています。

統計データの基本情報と分析

統計データの分析

平均値と中央値の比較

全国の農業産出額の平均値は約2,100億円ですが、中央値は約1,200億円前後となっています。平均値が中央値よりも高いことから、分布が右に歪んでいることがわかります。これは、北海道など一部の県の値が特に高いためです。

分布の歪みと外れ値

北海道の農業産出額(12,919億円)は明らかな外れ値となっています。この値を除くと、他の都道府県の農業産出額は最大でも5,114億円(鹿児島県)にとどまります。このような分布の歪みは、北海道の特殊性(広大な農地面積と多様な農業生産)を反映しています。

四分位範囲による分布の特徴

第1四分位数(下位25%の境界)は約700億円、第3四分位数(上位25%の境界)は約2,700億円程度であり、四分位範囲は約2,000億円となります。この範囲に全体の半数の都道府県が含まれており、中程度の分散があることを示しています。

標準偏差によるばらつきの程度

標準偏差は約2,000億円と非常に大きく、データのばらつきが大きいことを示しています。これは主に北海道の高い値によるものであり、都道府県間の農業産出額に大きな格差があることを数値で表しています。

就業者1人当たり農業産出額の統計的特徴

2018年度の就業者1人当たり農業産出額データからも、同様の分布の歪みが確認できます。北海道の1,304.2万円は明らかな外れ値で、2位の鹿児島県(840.2万円)との差も大きくなっています。

この分布の歪みは、農業の規模や効率性における地域間格差を如実に示しており、日本の農業が抱える構造的な課題を反映しています。

まとめ

2022年度の都道府県別農業産出額ランキングでは、北海道が最も高く、鹿児島県、茨城県が続いています。農業産出額には地域間で大きな格差があり、これは農地面積、気候条件、産業構造など様々な要因によって影響を受けています。

上位に位置する県は、広大な農地を活かした大規模農業(北海道)、畜産業が盛んな地域(鹿児島県、宮崎県)、首都圏に近い立地を活かした野菜生産が盛んな地域(茨城県、千葉県)などに分類できます。一方、下位に位置する県は、都市化が進んだ地域(東京都、大阪府、奈良県)や農地面積が限られている地域(福井県、石川県)などが多く見られます。

就業者1人当たり農業産出額の観点から見ると、畜産業が盛んな地域や大規模農業が展開されている地域で高い生産性を示しており、農業の効率化や機械化の進展度合いが地域間格差に大きく影響していることがわかります。

日本の農業は担い手不足や高齢化、気候変動の影響など多くの課題に直面していますが、各地域がそれぞれの特性を活かした農業を展開することで、持続可能な食料生産体制の構築を目指すことが重要です。特に、生産性向上のための技術革新や効率化の取り組みが、今後の農業発展の鍵となるでしょう。