火災保険の受取保険金額は、各地域の災害発生頻度や被害規模を直接反映する重要な指標です。台風や地震、豪雨などの自然災害が多い地域ほど、保険金の支払いが増加する傾向があります。岩手県が174.2万円で全国1位、愛知県が59.5万円で最下位となっており、約2.9倍の格差が存在しています。各地域の災害リスクの違いを明確に示しています。
概要
火災保険の受取保険金額は、各地域の災害発生頻度や被害規模を直接反映する重要な指標です。台風や地震、豪雨などの自然災害が多い地域ほど、保険金の支払いが増加する傾向があります。地域による受取額の差は、保険料設定や補償内容の妥当性を検証する材料として活用できます。
2016年度の全国平均は約85.4万円となっており、最上位の岩手県と最下位の愛知県の間には2.9倍の格差が存在します。この格差は各地域の災害リスクの違いを明確に示しています。
各地域の特性に応じた防災対策の構築が重要な課題となっており、保険制度の公平化も求められています。
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上位県と下位県の比較
上位5県の詳細分析
岩手県(174.2万円)
岩手県が174.2万円(偏差値92.8)で全国1位となっています。東日本大震災の復興過程で建物被害が継続的に発生している影響が最も大きな要因です。震災復興に伴う建物の修繕・建て替え需要、沿岸部の塩害による建物劣化、地盤沈下による住宅への継続的な影響が複合的に作用しています。全国平均の2倍を超える高い数値は、震災復興という特殊事情を反映した結果です。
栃木県(137.3万円)
栃木県が137.3万円(偏差値75.2)で2位に位置しています。関東平野北部という地理的条件により、竜巻や雹害などの局地的な自然災害が多発している地域特性が反映されています。関東平野の気象条件による竜巻発生、雹害による住宅・車両被害の多発、那須連山周辺での土砂災害リスクが主要な要因となっています。
山梨県(128.8万円)
山梨県が128.8万円(偏差値71.2)で3位となっています。富士山麓という特殊な地理的条件と台風による風害が主な要因です。台風通過時の強風による屋根や外壁の損傷、火山灰による建物への長期的影響、山間部特有の土砂崩れリスクが複合的に作用しています。観光地でもある富士五湖周辺での建物被害も影響しています。
岡山県(108.2万円)
岡山県が108.2万円(偏差値61.3)で4位に位置しています。近年の豪雨災害の前兆的な気象被害が大きく反映されています。平成30年7月豪雨災害に先駆けて発生していた局地的豪雨、瀬戸内海沿岸部での高潮による建物被害、中山間地域での土砂災害による住宅損傷が主要な要因です。
新潟県(107.0万円)
新潟県が107.0万円(偏差値60.8)で5位となっています。豪雪地帯特有の被害と地震リスクが複合的に作用した結果です。豪雪による住宅の屋根損傷や雪害、中越地震・中越沖地震の継続的な影響、日本海特有の強風による建物被害が主要な要因となっています。冬季の厳しい気象条件が建物に与える影響の大きさを示しています。
下位5県の詳細分析
愛知県(59.5万円)
愛知県が59.5万円(偏差値38.1)で最下位となっています。製造業の集積により建築技術が発達し、災害に対する備えが充実していることが主要因です。トヨタ自動車をはじめとする製造業による高い建築技術の普及、都市計画による総合的な防災対策の実施、中京工業地帯での建物品質向上への継続的な取り組みが功を奏しています。全国平均を大きく下回る数値は、先進的な防災対策の効果を示しています。
東京都(65.5万円)
東京都が65.5万円(偏差値41.0)で46位となっています。首都圏特有の厳格な建築基準と充実した防災体制が効果を発揮しています。建築基準法の厳格な運用による災害に強い建物の普及、高層建築の耐震・耐風性能の向上、消防・防災体制の充実による被害軽減効果が主要な要因です。人口密度の高さにも関わらず、相対的に低い受取額を実現しています。
石川県(66.1万円)
石川県が66.1万円(偏差値41.3)で45位となっています。日本海側に位置しながら比較的災害被害が少ない地域特性を示しています。伝統的な木造建築技術の継承による災害に強い住宅建設、地域コミュニティによる高い防災意識の維持、能登半島の地形による台風被害の軽減効果が特徴的です。金沢市を中心とした都市部での計画的な防災対策も寄与しています。
奈良県(66.8万円)
奈良県が66.8万円(偏差値41.6)で44位に位置しています。内陸盆地という地理的条件により大きな自然災害が比較的少ない地域です。奈良盆地の安定した地形による地震リスクの相対的な低さ、歴史的建造物の保護技術を活用した一般住宅の建築、適度に分散した住宅配置による災害リスクの軽減が主要な要因となっています。
滋賀県(67.5万円)
滋賀県が67.5万円(偏差値41.9)で43位となっています。琵琶湖の存在による気候の安定化効果が顕著に現れています。琵琶湖による気温の調節効果で極端な気象現象が少ない、内陸部のため台風による直接的な被害が軽減される、比較的平坦な地形による土砂災害リスクの低さが特徴です。湖国特有の安定した気象条件が建物被害の抑制に寄与しています。
地域別の特徴分析
北海道・東北地方
岩手県(174.2万円)が突出して高い数値を示し、全体的に受取額が高い傾向にあります。東日本大震災の継続的な影響が最大の要因で、他の東北各県も豪雪や地震リスクにより全国平均を上回っています。震災復興過程での建物被害継続、豪雪地帯特有の住宅損傷、沿岸部の塩害・地盤沈下問題が共通の課題となっています。北海道も厳冬期の建物被害により比較的高い水準を示しています。
関東地方
栃木県(137.3万円)、山梨県(128.8万円)が上位にランクインする一方、東京都(65.5万円)は下位となっており、地域内格差が最も大きい地域です。都市部の建築基準向上効果が顕著に現れる一方、山間部や郊外では局地的気象現象の影響が拡大しています。首都圏の厳格な建築基準と防災体制、山間部での自然災害リスク増加、竜巻や雹害などの局地的現象の影響が混在する特徴的な分布を示しています。
中部地方
新潟県(107.0万円)が上位に位置する一方、愛知県(59.5万円)が最下位となり、日本海側と太平洋側で大きな格差を示しています。豪雪地帯での建物被害継続と工業地帯での建築技術向上が対照的な結果を生んでいます。長野県や静岡県などの山間部では地形的要因による災害リスクが見られる一方、平野部の工業地帯では先進的な防災技術の普及により被害が抑制されています。
関西地方
全体的に受取額が低く、奈良県(66.8万円)、滋賀県(67.5万円)が下位にランクインしています。内陸部の安定した気候条件と歴史的な建築技術の継承が効果を発揮しています。大阪湾周辺の都市部では高い建築基準により災害被害が抑制される一方、内陸盆地では地形的な安定性により自然災害リスクが相対的に低くなっています。琵琶湖や奈良盆地などの地理的条件が気象の安定化に寄与しています。
中国・四国地方
岡山県(108.2万円)が上位にランクインする一方、全体的には中位から下位の県が多い地域です。瀬戸内海の温暖な気候により比較的災害が少ないものの、近年の気象変動の影響が現れ始めています。中山間地域での土砂災害リスクと平野部での相対的な安定性が混在しており、地形による格差が顕著です。島嶼部では台風の影響を受けやすい一方、内陸部では比較的安定した状況を維持しています。
九州・沖縄地方
台風の影響を受けやすい地域でありながら、全体的には中位の水準を示しています。長年の台風対策により建物の耐風性能が向上していることが影響しています。沖縄県では台風の常襲地域として建築基準が厳格に運用される一方、九州本土では火山活動や豪雨災害のリスクが存在します。地域特有の気象条件に対応した建築技術の発達により、災害被害の軽減が図られています。
社会的・経済的影響
最上位の岩手県(174.2万円)と最下位の愛知県(59.5万円)の間には2.9倍の格差が存在し、この格差は災害リスクの地域差を明確に示しています。この格差は保険料設定に直結し、災害リスクの高い地域の住民負担増加につながる構造的な問題となっています。
地域格差の要因として、気候条件(乾燥・強風・降水量)、都市構造(建物密度・道路幅員)、防火体制(消防力・予防対策)が挙げられます。
社会的・経済的影響として、住民の安全性に直接影響することや保険料率の地域差要因、企業立地における考慮事項が挙げられます。出動回数が多い地域では消防予算の増大や住民の不安増大が課題となっています。
対策と今後の展望
各地域の特性に応じた効率的で効果的な防火体制の構築が重要な課題となっています。特に、乾燥地域では予防広報と初期消火体制強化、山間部ではアクセス改善と地域防災組織育成、都市部では建物不燃化と避難体制整備が求められています。
効果的な取り組み事例として、大阪府の都市部での総合的防火対策システムや京都府の文化財保護と連携した地域防火体制が挙げられます。
今後は気候変動による乾燥化進行への対応も重要課題です。地域の実情に応じた総合的な防火対策の推進が求められています。
統計データの基本情報と分析
指標 | 値万円 |
---|---|
平均値 | 84.4 |
中央値 | 77 |
最大値 | 174.2(岩手県) |
最小値 | 59.5(愛知県) |
標準偏差 | 21 |
データ数 | 47件 |
2016年度の火災保険住宅物件・一般物件受取保険金額(1年)(保有契約1件当たり)の統計分析では、平均値85.4万円に対し中央値も同程度の水準となっており、分布に大きな歪みは見られません。
標準偏差は比較的大きく、都道府県間のばらつきが大きいことを示しています。これは地域特性による受取額の違いが大きいことを統計的にも裏付けています。
四分位範囲を見ると、上位25%の県は約100万円以上、下位25%の県は約70万円以下となっており、中位50%の県でも大きな幅があることが分かります。
偏差値の分布を見ると、岩手県の92.8から愛知県の38.1まで約55ポイントの幅があり、全国的に見て非常に大きな格差が存在していることが確認できます。特に岩手県、栃木県、山梨県の上位3県は偏差値71以上と高い値を示しており、これらの県が全体の分布を押し上げています。
外れ値として岩手県(174.2万円)が特に突出しており、東日本大震災の復興過程という特殊事情を反映した特異な状況を示しています。また、栃木県(137.3万円)と山梨県(128.8万円)も偏差値71以上と高い値を示しており、地理的条件や地域特性が受取額に大きく影響していることが分かります。
まとめ
2016年度の都道府県別火災保険住宅物件・一般物件受取保険金額(1年)(保有契約1件当たり)ランキングでは、気候条件や都市構造が受取額に大きく影響していることが明らかになりました。岩手県の突出した高さと2.9倍の地域格差、関西地方の優秀な防災体制、内陸部で受取額が多い傾向、都市部での効果的な防災対策事例、地域特性に応じた対策の重要性が確認できました。
この結果は、各地域の特性に応じた防災体制の構築が行われていることを示しており、地方部では広域対応型、都市部では効率重視型の防災力配置が行われていると考えられます。
今後は気候変動対応と地域特性を活かした防災体制構築が重要です。優秀な地域の取り組みを他地域に展開し、全国的な安全性向上を図ることが期待されます。継続的なデータ分析により効果的な政策立案を支援していく必要があります。
順位↓ | 都道府県 | 値 (万円) | 偏差値 | 前回比 |
---|---|---|---|---|
1 | 岩手県 | 174.2 | 92.8 | +35.5% |
2 | 栃木県 | 137.3 | 75.2 | +3.1% |
3 | 山梨県 | 128.8 | 71.2 | -2.2% |
4 | 岡山県 | 108.2 | 61.3 | +47.2% |
5 | 新潟県 | 107.0 | 60.8 | +24.0% |
6 | 長野県 | 106.6 | 60.6 | +5.2% |
7 | 徳島県 | 103.4 | 59.1 | +44.4% |
8 | 熊本県 | 100.9 | 57.9 | -6.4% |
9 | 群馬県 | 98.7 | 56.8 | +18.2% |
10 | 鹿児島県 | 98.4 | 56.7 | -10.0% |
11 | 福島県 | 97.8 | 56.4 | +11.9% |
12 | 青森県 | 90.3 | 52.8 | -20.5% |
13 | 北海道 | 88.5 | 51.9 | -7.0% |
14 | 茨城県 | 88.1 | 51.8 | -54.4% |
15 | 沖縄県 | 86.7 | 51.1 | -18.2% |
16 | 山口県 | 86.6 | 51.0 | +10.0% |
17 | 広島県 | 84.8 | 50.2 | +28.5% |
18 | 京都府 | 83.7 | 49.7 | +6.6% |
19 | 神奈川県 | 81.9 | 48.8 | +33.8% |
20 | 大分県 | 80.2 | 48.0 | +21.7% |
21 | 三重県 | 79.9 | 47.8 | -13.1% |
22 | 愛媛県 | 78.2 | 47.0 | +7.3% |
23 | 高知県 | 77.9 | 46.9 | +2.5% |
24 | 千葉県 | 77.0 | 46.5 | -15.1% |
25 | 和歌山県 | 76.4 | 46.2 | -34.0% |
26 | 鳥取県 | 76.4 | 46.2 | -39.8% |
27 | 宮城県 | 75.8 | 45.9 | -34.9% |
28 | 長崎県 | 75.5 | 45.7 | +6.5% |
29 | 富山県 | 74.5 | 45.3 | +17.1% |
30 | 香川県 | 73.2 | 44.6 | -19.4% |
31 | 岐阜県 | 72.9 | 44.5 | -41.5% |
32 | 埼玉県 | 72.0 | 44.1 | -18.3% |
33 | 佐賀県 | 72.0 | 44.1 | -22.1% |
34 | 秋田県 | 71.8 | 44.0 | -20.8% |
35 | 宮崎県 | 71.4 | 43.8 | +12.3% |
36 | 福井県 | 71.3 | 43.7 | -16.7% |
37 | 静岡県 | 70.2 | 43.2 | -8.4% |
38 | 山形県 | 69.5 | 42.9 | -36.4% |
39 | 島根県 | 69.0 | 42.6 | -24.4% |
40 | 福岡県 | 69.0 | 42.6 | -21.6% |
41 | 兵庫県 | 68.8 | 42.5 | +15.1% |
42 | 大阪府 | 68.1 | 42.2 | +7.1% |
43 | 滋賀県 | 67.5 | 41.9 | -43.8% |
44 | 奈良県 | 66.8 | 41.6 | +11.3% |
45 | 石川県 | 66.1 | 41.3 | -51.2% |
46 | 東京都 | 65.5 | 41.0 | -5.2% |
47 | 愛知県 | 59.5 | 38.1 | -27.0% |