概要
製造品出荷額等(従業者1人当たり)は、各都道府県の製造業における労働生産性を示す重要な経済指標です。この統計は、製造業事業所における製造品出荷額、加工賃収入額、修理料収入額、製造工事収入額及びその他の収入額の合計を従業者数で除して算出されます。
2022年度のデータを見ると、都道府県間で大きな格差が存在し、最上位の大分県の8,505.0万円から最下位の沖縄県の2,047.4万円まで約4.2倍の差があります。この指標は、各地域の産業構造、技術水準、資本装備率の違いを反映しており、地域経済の競争力や製造業の効率性を測る重要なバロメーターとなっています。
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上位5県の詳細分析
1位:大分県(8,505.0万円、偏差値79.4)
大分県が8,505.0万円(偏差値79.4)で全国1位となっています。大分県の高い数値は、大分コンビナートを中心とした石油化学工業の集積によるものです。新日鉄住金大分製鉄所や昭和電工などの大規模装置産業が立地し、高付加価値製品の生産により従業者1人当たりの出荷額を押し上げています。また、自動車関連産業の誘致も成功しており、ダイハツ九州の本格稼働などが寄与しています。
2位:山口県(7,787.2万円、偏差値74.3)
山口県は7,787.2万円(偏差値74.3)で2位を占めています。周南コンビナートを中心とした化学工業と、宇部・小野田地区のセメント工業などの素材産業が主力となっています。特に、旭化成、東ソー、宇部興産などの大手化学メーカーの主力工場が集積し、高度な技術を要する化学製品の製造により高い労働生産性を実現しています。
3位:千葉県(7,625.1万円、偏差値73.2)
千葉県は7,625.1万円(偏差値73.2)で3位となっています。京葉工業地域における石油精製・石油化学工業の集積が主な要因です。JFEスチール東日本製鉄所や出光興産千葉製油所、住友化学千葉工場などの大規模プラントが立地し、装置産業における高い資本集約度が従業者1人当たりの出荷額を押し上げています。また、東京湾岸の立地優位性により物流コストの削減も寄与しています。
4位:愛媛県(6,639.8万円、偏差値66.3)
愛媛県は6,639.8万円(偏差値66.3)で4位に位置しています。新居浜・西条地区の化学工業と今治地区の造船業、製紙業が中心となっています。住友系企業の発祥地として住友化学、住友金属鉱山などの主力工場が集積し、非鉄金属や化学製品の高付加価値生産が特徴です。また、今治造船をはじめとする造船業も大型船舶の建造により高い付加価値を生み出しています。
5位:岡山県(6,464.6万円、偏差値65.0)
岡山県は6,464.6万円(偏差値65.0)で5位となっています。水島コンビナートを中心とした重化学工業の集積が主な要因です。JFEスチール西日本製鉄所、三菱ケミカル、旭化成などの大規模工場が立地し、鉄鋼業と石油化学工業の連携による高い生産効率を実現しています。瀬戸内海の良港を活用した原料調達と製品出荷の効率性も競争力の源泉となっています。
下位5県の詳細分析
47位:沖縄県(2,047.4万円、偏差値34.0)
沖縄県は2,047.4万円(偏差値34.0)で最下位となっています。製造業の集積が限定的で、食品加工業や伝統工芸品製造が中心となっており、大規模装置産業の立地が少ないことが主な要因です。地理的制約により原材料の調達コストが高く、本土市場への輸送費も負担となっています。観光業やサービス業が主力産業であり、製造業の従業者数自体も少ない状況です。
46位:秋田県(2,598.8万円、偏差値37.9)
秋田県は2,598.8万円(偏差値37.9)で46位となっています。人口減少と高齢化の進行により製造業の規模が縮小傾向にあります。伝統的な鉱業の衰退後、電子部品製造業や自動車部品製造業の誘致を進めていますが、まだ大規模な集積には至っていません。TDKをはじめとする電子部品メーカーの工場はあるものの、全体的な労働生産性の向上には課題が残っています。
45位:高知県(2,702.9万円、偏差値38.6)
高知県は2,702.9万円(偏差値38.6)で45位に位置しています。製紙業や食品加工業が主力ですが、大規模な装置産業の立地は限定的です。地理的に四国の太平洋側に位置し、本州の大消費地や工業地帯からの距離が製造業発展の制約となっています。農林水産物の加工業が中心で、高付加価値製品の製造に向けた産業構造の転換が課題となっています。
44位:鳥取県(2,859.3万円、偏差値39.7)
鳥取県は2,859.3万円(偏差値39.7)で44位となっています。人口規模が小さく、製造業の集積も限定的です。電子部品・デバイス製造業や輸送用機械器具製造業の企業誘致を進めていますが、大規模な産業クラスターの形成には至っていません。三洋電機(現パナソニック)関連の電子部品工場などがありますが、全体的な規模は小さい状況です。
43位:長崎県(2,911.3万円、偏差値40.0)
長崎県は2,911.3万円(偏差値40.0)で43位に位置しています。造船業の長い歴史がありますが、韓国や中国との競争激化により三菱重工長崎造船所の規模縮小が影響しています。離島が多い地理的特性により製造業の立地に制約があり、輸送コストの負担も大きくなっています。新たな産業の誘致と既存産業の高付加価値化が課題となっています。
地域別の特徴分析
九州・沖縄地方
九州地方は大分県(1位)を筆頭に、コンビナート立地県が上位にランクインしています。一方で沖縄県(47位)、長崎県(43位)など下位県も存在し、地域内格差が顕著です。大分県や山口県(中国地方だが九州に隣接)の石油化学工業の集積と、島嶼部や造船業縮小地域との格差が明確に現れています。
中国・四国地方
山口県(2位)、愛媛県(4位)、岡山県(5位)が上位に位置し、瀬戸内海沿岸の重化学工業地帯の優位性が際立っています。一方で高知県(45位)、鳥取県(44位)など太平洋側や日本海側の県は下位に位置し、瀬戸内海工業地域との格差が鮮明です。
関東地方
千葉県(3位)が京葉工業地域の集積により上位に位置していますが、他の関東各県は中位から上位中程度に分布しています。首都圏でありながら千葉県以外は装置産業の集積が限定的で、多様な製造業が展開している特徴があります。
中部地方
自動車産業の集積地である愛知県や、精密機械産業の長野県などが中位から上位に位置していますが、トップ5には入っていません。多品種少量生産型の製造業が多く、装置産業型の高い労働生産性とは異なる産業構造を示しています。
近畿地方
大阪府、兵庫県などが中位に位置しており、多様な製造業の集積はあるものの、装置産業の集中度は瀬戸内海沿岸部ほど高くありません。加工組立型産業が中心で、労働集約的な側面も残しています。
北海道・東北地方
秋田県(46位)をはじめ、多くの県が下位に位置しています。人口減少と産業空洞化の影響により、製造業の集積と高付加価値化が課題となっています。一部で電子部品産業の誘致は進んでいますが、大規模な産業集積には至っていません。
格差や課題の考察
最上位の大分県(8,505.0万円)と最下位の沖縄県(2,047.4万円)の間には約4.2倍の格差が存在します。この格差は主に産業構造の違いに起因しており、石油化学・鉄鋼業などの装置産業が集積する地域と、そうでない地域との差が顕著に現れています。
上位県の多くは1960年代から1970年代にかけて建設された大規模コンビナートを有しており、高度経済成長期に形成された産業基盤が現在でも競争力の源泉となっています。これらの地域では、装置産業における高い資本集約度と技術革新により、継続的に労働生産性を向上させています。
一方、下位県では製造業の集積が限定的で、人口減少や地理的制約などの構造的課題を抱えています。これらの地域では、地域資源を活用した高付加価値製品の開発や、ICT・IoTを活用したスマート製造業への転換、企業誘致による産業集積の形成などが重要な政策課題となっています。
地域間格差の是正には、交通インフラの整備、産学官連携による技術開発支援、人材育成・確保対策、立地環境の改善などの総合的な取り組みが必要です。また、各地域の特性を活かした産業振興戦略の策定と実行が求められています。
統計データの基本情報と分析
統計分析の詳細
平均値と中央値の比較では、上位県の数値が全体平均を押し上げており、データに正の歪みが見られます。装置産業が集積する少数の県が全体の分布に大きな影響を与えている構造となっています。
分布の特徴を見ると、上位10県程度が他県から大きく突出しており、これらは主に石油化学・鉄鋼業などの大規模装置産業を有する地域です。一方、多くの県は3,000万円から5,000万円の範囲に集中しており、標準的な製造業構造を持つ