2023年度の自然環境保全地域面積において、神奈川県が11,236haで全国1位、山口県と滋賀県が0haで最下位となり、大きな地域格差が存在しています。上位県では北海道(9,561ha)、宮城県(8,574ha)が続き、自然環境保全への取り組みに大きな差が見られます。
概要
自然環境保全地域とは、優れた自然環境を保全するために指定される地域です。自然環境保全法に基づき、国や都道府県が指定し、開発行為や土地の形状変更などが制限されています。この制度は、貴重な自然環境や生態系、希少な野生動植物の生息・生育地を将来にわたって保全することを目的としています。
自然環境保全地域は、原生的な自然や特異な地形・地質、貴重な動植物の生息・生育地など、学術的価値の高い自然環境を有する地域が指定されます。この指標は、各都道府県における自然環境保全への取り組みや、保全価値の高い自然環境の存在を示す重要な指標となります。
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上位5県の詳細分析
神奈川県(1位)
神奈川県は11,236ヘクタール(偏差値83.7)で全国1位となりました。面積自体はそれほど広くない県ですが、丹沢山地や箱根山など貴重な自然環境を多く有しており、これらの地域を積極的に保全地域に指定していることが特徴です。
県面積が全国43位と小規模ながら、都市部近郊の貴重な自然環境を積極的に保全しています。水源地域としても重要な森林地帯を多く指定しており、神奈川県の地域事情を反映した保全政策が特徴です。
北海道(2位)
北海道は9,561ヘクタール(偏差値77.6)で2位となりました。日本最大の面積を持つ都道府県であり、原生的な自然環境が多く残されていることから、保全地域の面積も広くなっています。
県面積が全国1位と広大で、原生的な自然環境が豊富に残されています。亜寒帯の生態系や希少な動植物の生息地が多く、自然環境保全の価値が高い地域が多数存在します。
宮城県(3位)
宮城県は8,574ヘクタール(偏差値74.0)で3位となりました。蔵王連峰や栗駒山などの山岳地帯に貴重な自然環境が残されており、保全の取り組みが進んでいます。
県面積が全国16位と中規模で、山岳地帯を中心とした保全が特徴です。温泉地域や高山植物の生育地など、学術的価値の高い自然環境を多く保有しています。
群馬県(4位)
群馬県は7,645ヘクタール(偏差値70.6)で4位となりました。県面積が全国21位と中規模で、山岳地帯を中心とした自然環境保全が進んでいます。
尾瀬国立公園に隣接する地域や上毛三山周辺など、貴重な高山植物や湿原生態系を保全しています。温泉地域との調和を図った保全政策が特徴です。
静岡県(5位)
静岡県は6,405ヘクタール(偏差値66.2)で5位となりました。富士山周辺や伊豆半島など、多様な自然環境を有する地域で積極的な保全が行われています。
県面積が全国13位と中規模で、富士山麓の森林生態系や伊豆半島の海岸生態系など、多様な自然環境を保全しています。観光地との調和を図った保全政策が特徴です。
下位5県の詳細分析
山口県(46位)
山口県は0ヘクタール(偏差値42.9)で46位となりました。自然環境保全地域の指定がありませんが、これは必ずしも自然環境が乏しいということではなく、国立公園や国定公園など他の保護制度によって自然環境が保全されている可能性があります。
県面積が全国23位と中規模ですが、瀬戸内海国立公園や西中国山地国定公園など、他の保護制度で自然環境が保全されています。
滋賀県(46位)
滋賀県は0ヘクタール(偏差値42.9)で46位となりました。琵琶湖を中心とした自然環境は重要ですが、自然環境保全地域としての指定はありません。
県面積が全国38位と小規模で、琵琶湖国定公園など他の保護制度で自然環境が保全されています。水源地域としての重要性が高い地域です。
大分県(45位)
大分県は16ヘクタール(偏差値43.0)で45位となりました。県面積が全国22位と中規模ですが、自然環境保全地域の指定は限定的です。
阿蘇くじゅう国立公園や耶馬日田英彦山国定公園など、他の保護制度で自然環境が保全されています。温泉地域との調和が課題となっています。
徳島県(43位)
徳島県は39ヘクタール(偏差値43.1)で43位となりました。県面積が全国36位と小規模で、自然環境保全地域の指定は限定的です。
剣山国定公園や室戸阿南海岸国定公園など、他の保護制度で自然環境が保全されています。四国山地の生態系保全が重要です。
大阪府(44位)
大阪府は38ヘクタール(偏差値43.1)で44位となりました。都市化が進んだ地域が多く、保全すべき原生的な自然環境が限られていることが影響していると考えられます。
県面積が全国46位と最小規模で、都市化の進展により自然環境保全地域の確保が困難な状況です。金剛生駒紀泉国定公園など、他の保護制度で自然環境が保全されています。
地域別の特徴分析
関東地方
神奈川県(11,236ha)と群馬県(7,645ha)が上位にランクインし、地域全体で高い水準を示しています。都市部近郊でありながら貴重な自然環境を積極的に保全する政策が特徴です。栃木県(5,281ha)も上位に入り、関東地方全体で自然環境保全への取り組みが進んでいます。
都市部に近い立地でありながら、水源地域や山岳地帯の重要性を認識した保全政策が展開されています。人口密度が高い地域での自然環境保全のモデル的な取り組みが見られます。
東北地方
宮城県(8,574ha)、岩手県(4,956ha)、山形県(5,105ha)、福島県(4,867ha)で積極的な指定が行われています。山岳地帯を中心とした豊富な自然環境を活かした保全政策が特徴です。
蔵王連峰や栗駒山などの山岳地帯に貴重な自然環境が残されており、温泉地域や高山植物の生育地の保全が進んでいます。
中部地方
静岡県(6,405ha)や岐阜県(2,956ha)で指定面積が広くなっています。富士山周辺や中央アルプス、南アルプスなど、多様な山岳環境を活かした保全が特徴です。
観光地との調和を図りながら、多様な自然環境を保全する政策が展開されています。
北海道
9,561ヘクタールと単独で見ると非常に広い面積を有しています。原生的な自然環境が豊富に残されており、亜寒帯の生態系や希少な動植物の生息地が多数存在します。
近畿地方
滋賀県では指定がなく、大阪府(38ha)や奈良県(92ha)など他の府県でも指定面積は限られています。都市化の進展や他の保護制度との関係で、自然環境保全地域の指定は限定的です。
琵琶湖国定公園や金剛生駒紀泉国定公園など、他の保護制度で自然環境が保全されています。
中国・四国地方
広島県(2,054ha)を除いて指定面積は少ない傾向にあります。山口県では指定が全くなく、他の保護制度による自然環境保全が中心となっています。
瀬戸内海国立公園や剣山国定公園など、国立・国定公園による保全が主流です。
九州・沖縄地方
沖縄県(2,027ha)や鹿児島県(1,825ha)で比較的広い面積が指定されています。亜熱帯の生態系や島嶼生態系の保全が特徴です。
固有種や希少種の生息地として重要な自然環境を多く保有しています。
社会的・経済的影響
自然環境保全地域の指定面積には地域によって大きな差があります。これは各地域の自然環境の特性や、保全への取り組みの違いを反映しています。山岳地帯や原生的な自然が残る地域では指定面積が広い傾向にありますが、都市化が進んだ地域や、他の保護制度(国立公園など)によって既に保全されている地域では指定面積が限られる傾向があります。
神奈川県(11,236ヘクタール)と指定のない山口県・滋賀県(0ヘクタール)の間には大きな開きがあります。この格差は、自然環境の地域差だけでなく、各都道府県の保全政策の違いも反映しています。
特に注目すべきは、県土面積が比較的小さい神奈川県が最も広い保全地域面積を持っていることです。これは、神奈川県が限られた土地資源の中で自然環境保全に高い優先度を置いていることを示しています。
自然環境保全地域と他の保護制度との関係
自然環境保全地域は、日本の自然保護制度の一つですが、他にも国立公園、国定公園、都道府県立自然公園、鳥獣保護区など様々な保護区域があります。
自然環境保全地域は、他の保護区域では十分にカバーされていない貴重な自然環境を保全する役割を担っています。そのため、国立公園などが多く指定されている地域では、自然環境保全地域の指定が少ない傾向があります。
自然環境保全地域は、国立公園などと比較して開発規制がより厳しい傾向があります。特に原生自然環境保全地域は、人為的影響をほとんど受けていない地域を厳正に保護するものです。
各都道府県の自然環境保全地域の指定状況は、その地域の自然環境の特性や保全の優先度を反映しています。例えば、神奈川県では丹沢山地など水源地域としても重要な森林地帯を多く指定していますが、これは神奈川県の地域事情を反映しています。
対策と今後の展望
自然環境保全地域の指定だけでは、生物多様性の保全や生態系サービスの維持には不十分な面もあります。日本全体の自然環境保全地域の面積は限られており、生物多様性保全の国際目標(例:30by30目標)からすると不十分です。
保全地域が分断されていると、生物の移動や遺伝的交流が制限され、生態系の健全性が損なわれる可能性があります。指定後の適切な管理や監視が不十分な場合、保全の効果が低下する恐れがあります。
気候変動によって生態系が変化する中、固定的な保護区域だけでは対応が難しくなっています。今後は生態系の連続性や質の確保、地域住民との協働による保全など、より効果的な自然環境保全の取り組みが重要となります。
指標 | 値ha |
---|---|
平均値 | 1,949.9 |
中央値 | 645.2 |
最大値 | 11,236.4(神奈川県) |
最小値 | 0(滋賀県) |
標準偏差 | 2,758.2 |
データ数 | 47件 |
統計データの分析
自然環境保全地域面積の全国平均は約1,809ヘクタール、中央値は518ヘクタールとなっています。平均値が中央値を大きく上回っていることから、分布は強く右に歪んでいることがわかります。これは、神奈川県(11,236ha)や北海道(9,561ha)、宮城県(8,574ha)など一部の都道府県で特に広い面積が指定されていることが影響しています。
標準偏差は約2,734ヘクタールと非常に大きく、都道府県間のばらつきが極めて大きいことを示しています。四分位範囲(第3四分位数 - 第1四分位数)は約1,736ヘクタールで、中央付近の都道府県でも保全地域面積にかなりの差があることがわかります。
最大値(神奈川県の11,236ヘクタール)と最小値(山口県・滋賀県の0ヘクタール)の差は11,236ヘクタールと非常に大きく、都道府県による保全への取り組みの差を反映しています。
統計的に見ると、神奈川県(11,236ヘクタール)、北海道(9,561ヘクタール)、宮城県(8,574ヘクタール)、群馬県(7,645ヘクタール)は上方への顕著な外れ値と考えられます。これらの都道府県は、全国平均を大きく上回る面積を自然環境保全地域に指定しています。
特に神奈川県は、県土面積自体はそれほど広くないにもかかわらず、自然環境保全地域の指定面積が最も広いという特徴があります。これは、丹沢大山や箱根など貴重な自然環境を積極的に保全する政策が反映されていると考えられます。
まとめ
2023年度の自然環境保全地域面積分析から、以下の重要な知見が得られました。
神奈川県(11,236ha)が全国1位で、北海道(9,561ha)、宮城県(8,574ha)が続いています。一方、山口県や滋賀県では指定がなく、都道府県間で大きな差があることがわかりました。
この差は、各地域の自然環境の特性だけでなく、保全政策の違いや他の保護制度との関係も反映しています。自然環境保全地域は、国立公園などの他の保護区域と補完し合いながら、日本の貴重な自然環境を守る重要な役割を担っています。
今後は、生物多様性の保全や気候変動への対応など、新たな課題に対応するために、自然環境保全地域の拡充や管理の強化、他の保護区域との連携強化などが求められています。また、単に面積を拡大するだけでなく、生態系の連続性や質の確保、地域住民との協働による保全など、より効果的な自然環境保全の取り組みが重要となります。
順位↓ | 都道府県 | 値 (ha) | 偏差値 | 前回比 |
---|---|---|---|---|
1 | 神奈川県 | 11,236.40 | 83.7 | - |
2 | 北海道 | 9,561.83 | 77.6 | - |
3 | 宮城県 | 8,574.17 | 74.0 | - |
4 | 群馬県 | 7,645.21 | 70.6 | - |
5 | 静岡県 | 6,405.47 | 66.2 | +1.6% |
6 | 栃木県 | 5,281.61 | 62.1 | - |
7 | 山形県 | 5,105.96 | 61.4 | - |
8 | 岩手県 | 4,956.45 | 60.9 | - |
9 | 福島県 | 4,867.41 | 60.6 | - |
10 | 岐阜県 | 2,956.87 | 53.7 | - |
11 | 山梨県 | 2,143.98 | 50.7 | - |
12 | 広島県 | 2,054.12 | 50.4 | - |
13 | 沖縄県 | 2,027.79 | 50.3 | - |
14 | 新潟県 | 2,008.42 | 50.2 | - |
15 | 愛媛県 | 1,947.37 | 50.0 | - |
16 | 鹿児島県 | 1,825.00 | 49.5 | - |
17 | 千葉県 | 1,773.75 | 49.4 | - |
18 | 青森県 | 1,230.17 | 47.4 | - |
19 | 石川県 | 1,050.50 | 46.7 | - |
20 | 秋田県 | 823.59 | 45.9 | - |
21 | 長野県 | 790.42 | 45.8 | - |
22 | 東京都 | 772.30 | 45.7 | - |
23 | 長崎県 | 733.12 | 45.6 | - |
24 | 茨城県 | 645.21 | 45.3 | - |
25 | 富山県 | 623.78 | 45.2 | - |
26 | 埼玉県 | 518.24 | 44.8 | - |
27 | 高知県 | 508.70 | 44.8 | - |
28 | 三重県 | 463.40 | 44.6 | - |
29 | 兵庫県 | 398.30 | 44.4 | - |
30 | 熊本県 | 332.01 | 44.1 | - |
31 | 和歌山県 | 329.39 | 44.1 | - |
32 | 愛知県 | 292.11 | 44.0 | - |
33 | 福井県 | 273.12 | 43.9 | - |
34 | 佐賀県 | 243.93 | 43.8 | - |
35 | 京都府 | 221.87 | 43.7 | - |
36 | 宮崎県 | 183.97 | 43.6 | - |
37 | 島根県 | 178.74 | 43.6 | - |
38 | 鳥取県 | 153.70 | 43.5 | - |
39 | 福岡県 | 134.11 | 43.4 | - |
40 | 岡山県 | 101.33 | 43.3 | - |
41 | 奈良県 | 92.10 | 43.3 | - |
42 | 香川県 | 88.02 | 43.2 | - |
43 | 徳島県 | 39.00 | 43.1 | - |
44 | 大阪府 | 38.33 | 43.1 | - |
45 | 大分県 | 16.16 | 43.0 | - |
46 | 滋賀県 | 0.00 | 42.9 | - |
47 | 山口県 | 0.00 | 42.9 | - |