都道府県別実質収支比率ランキング(2021年度)
実質収支比率とは
実質収支比率は、地方財政の健全性を測る最も重要な指標の一つです。この比率は「実質収支額 ÷ 標準財政規模 × 100」という計算式で求められ、各自治体の財政運営の効率性と健全性を客観的に評価することができます。
実質収支額は、形式収支(歳入総額から歳出総額を差し引いた額)から翌年度に繰り越すべき財源を除いたもので、実際にその年度で自由に使える収支を表しています。一方、標準財政規模は普通交付税と標準税収入額等の合計で、各自治体の財政規模を標準化した基準となります。
財政健全性の判断基準として、実質収支比率は3~5%程度が理想的な水準とされています。3%未満の場合は財政運営にやや余裕が少ない状況を示し、10%以上の場合は予算執行の効率性に課題がある可能性を示唆します。この指標が重要な理由は、財政運営の効率性、将来への備え、計画性の評価、他自治体との比較が可能になるためです。
概要
2021年度の都道府県別実質収支比率を分析したデータです。全国平均は2.7%で、最高値は東京都の8.2%、最低値は長崎県の**0.2%**となっています。上位には大都市圏の都県が目立ち、財政規模の大きな自治体で高い傾向が見られます。
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実質収支比率の水準別分析
全国47都道府県を実質収支比率の水準によって分類すると、明確な傾向が見えてきます。5%以上の高水準グループには5県が該当し、これらはいずれも理想的な水準を大きく上回っています。このグループの特徴は、豊富な税収基盤を持つ大都市圏や効率的な財政運営を実現している地域であり、経済活動の活発さが財政に好影響をもたらしていることが分かります。
3~5%の適正水準グループには15県が該当し、財政健全性の面で理想的とされる水準を維持しています。これらの県はバランスの取れた財政運営を行い、適度な財政余力を確保しながら持続可能な財政構造を築いています。
1~3%のやや低水準グループには22県が該当し、全体の約半数を占めています。これらの県では財政運営にやや余裕が少ない状況にあり、予算執行の効率化や不測の事態への対応力に限界があることが課題となっています。
1%未満の低水準グループには5県が該当し、これらの県では財政運営の改善が急務な状況です。構造的な財政課題を抱えており、歳出削減と歳入確保の両面での対策とともに、長期的な財政健全化計画の策定が重要になっています。
上位5県の詳細分析
東京都が8.2%(偏差値79.7)で全国1位となったのは、豊富な税収基盤を背景とした安定した財政運営の成果です。大都市圏の経済力を反映した高い実質収支比率を実現しており、特に法人住民税や固定資産税などの都市型税収が充実していることが大きな要因となっています。
山口県が7.1%(偏差値73.8)で2位に位置するのは、工業地帯を有する産業構造により安定した財政基盤を確保しているためです。石油化学コンビナートなどの産業集積による税収の安定性に加え、効率的な財政運営による支出の適正化が功を奏しています。
徳島県は5.9%(偏差値67.4)で3位となり、中規模県としては特筆すべき高水準を維持しています。堅実な財政運営と歳出の効率化による成果であり、県債発行の抑制と基金の適切な活用が実を結んでいます。
宮城県の5.5%(偏差値65.3)は、東北地方の経済中心地としての強みを活かした財政運営の結果です。復興需要の適切な管理により財政バランスを維持し、仙台市を中心とした経済圏の活性化効果が財政面にも好影響をもたらしています。
愛知県は5.3%(偏差値64.2)で、製造業を中心とした強固な産業基盤による安定した税収が特徴です。自動車産業を中心とした法人税収の安定性が、大都市圏としての経済力を活かした財政運営を支えています。
下位5県の課題と背景
佐賀県は0.5%(偏差値38.6)と43位に位置し、財政規模に比して歳出規模が大きく、収支バランスに課題を抱えています。人口減少に伴う税収減少への対応が急務であり、特に社会保障費の増加圧力への対策が求められています。
富山県と奈良県は共に0.4%(偏差値38.1)で44位タイとなっており、両県とも財政構造の改革が求められる状況にあります。歳入確保と歳出効率化の両面での取り組みが必要であり、高齢化の進展による社会保障費増加への対応が共通の課題となっています。
滋賀県は0.3%(偏差値37.6)で46位となり、関西圏内で相対的に低い実質収支比率を示しています。京阪神への通勤圏としての特性を活かした税収確保策の検討とともに、財政健全化に向けた取り組みの強化が課題となっています。
長崎県は0.2%(偏差値37.0)で全国最低の実質収支比率となっており、構造的な財政課題の解決が急務です。人口減少と高齢化の同時進行による厳しい財政状況の中で、抜本的な改革が求められています。
地域別の財政状況分析
関東圏では東京都を筆頭に比較的高い水準を維持しており、経済活動の集中による税収基盤の安定性が特徴的です。首都圏としての集積効果が財政面にも好影響をもたらし、地域全体として財政健全性が保たれています。
中部圏では愛知県が上位に位置する一方、他県は中位から下位に分布しており、産業構造の違いによる地域間格差が顕著に現れています。製造業の集積度合いが実質収支比率に大きく影響していることが明らかです。
近畿圏では全体的に低位に分布する傾向があり、構造的な財政課題を抱える県が多くなっています。大阪府・京都府への経済集中の影響により、周辺県での財政状況が厳しくなっている状況が見て取れます。
中国・四国地方では山口県と徳島県が上位に位置する一方で、地域内で大きな格差が生じています。産業立地や人口動態の違いが財政状況に反映されており、瀬戸内工業地域の恩恵を受ける県とそうでない県の差が明確になっています。
九州・沖縄地方では総じて低位に分布しており、特に長崎県と佐賀県の低水準が顕著です。人口流出と高齢化による構造的課題が、地域全体の財政状況に深刻な影響を与えています。
統計データから見る格差の実態
統計的な分析を行うと、平均値2.7%と中央値2.3%の差から、上位県の高値が分布を右に歪めていることが分かります。標準偏差は1.8と比較的大きく、都道府県間の格差が顕著であることを示しています。最大値8.2%と最小値0.2%の差が8.0ポイントと非常に大きく、四分位範囲も2.4ポイントと、中位グループでも相当な差が存在しています。
この分布は正規分布から大きく乖離しており、右に長く伸びた形状を示しています。上位数県の突出した数値が平均を押し上げており、結果として多くの県が平均を下回る状況となっています。
地域間格差の要因として、経済規模の違いが実質収支比率と強い相関を示していることが挙げられます。また、産業構造における第二次・第三次産業比率の影響、人口動態と税収基盤の関係、そして行財政改革の取り組み度合いなどの政策要因も大きく影響しています。
財政健全化への道筋
実質収支比率の改善には、歳入面と歳出面の両方からの取り組みが不可欠です。歳入面では、企業誘致の推進により法人住民税や事業税の増収を図り、定住促進策により個人住民税の税源を確保することが重要です。また、観光振興による地域経済の活性化は、間接的な税収増にもつながります。地方交付税については、基準財政需要額の適正算定と特別交付税の戦略的獲得により、効率的な活用を図ることが求められます。
歳出面では、効率的な行政運営により事務事業の見直しを行い、不要不急事業の整理を進めることが必要です。組織のスリム化による人件費の適正化や、公共施設の統廃合による維持管理費の削減も重要な課題です。投資においては選択と集中により重点分野への資源配分を行い、広域行政の推進による近隣自治体との連携強化により効率性の向上を図ることが有効です。
将来への展望と課題
短期的には、コロナ禍からの経済回復による税収基盤の復活、デジタル化対応への投資による行政効率化、そして増加する社会保障費への対応策が主要な課題となります。
中長期的には、人口減少社会への適応により持続可能な行政サービスの提供体制を構築し、インフラ老朽化に対する計画的な更新投資、気候変動対策という新たな政策課題への対応が求められます。
制度面では、地方税制の見直しによる税源の偏在是正、地方交付税制度のより公平な財源配分、国と地方の役割分担における権限と財源の一体的移譲などの改善が望まれます。
まとめ
実質収支比率は単なる数値ではなく、各都道府県の財政健全性と行政運営の効率性を示す重要な指標です。2021年度のデータから明らかになったのは、大都市圏と地方部での財政力格差の拡大、産業構造が財政安定性に与える大きな影響、人口動態との強い相関関係、そして効率的な行財政改革の政策効果の差でした。
今後は、各都道府県が自らの特性を活かしながら持続可能な財政運営を目指すことが重要です。特に低水準の県においては、構造的な課題の解決に向けた抜本的な改革が急務となっています。同時に、国レベルでの制度改正や政策支援により、地域間格差の是正と全体的な財政健全性の向上を図ることが、日本全体の持続可能な発展にとって不可欠な要素となっています。