都道府県別自主財源の割合ランキング(2021年度)
自主財源とは
自主財源は、地方自治体が自らの権限と責任において収入することができる財源を指し、地方財政の自立度を測る最も重要な指標の一つです。自主財源の割合は「自主財源総額 ÷ 歳入総額 × 100」という計算式で求められ、自治体の財政基盤の強さと独立性を示しています。
自主財源の構成要素
自主財源は主に地方税、分担金及び負担金、使用料及び手数料、財産収入、寄附金、繰入金、繰越金、諸収入、地方債で構成されています。この中でも地方税が最も重要な要素であり、県民税(個人・法人)、事業税、地方消費税、不動産取得税、自動車税などが含まれます。これらの税収は地域の経済活動の活発さを直接的に反映するため、自主財源比率は地域経済の健全性を示すバロメーターとしても機能します。
依存財源との関係
自主財源に対する概念として依存財源があり、これには地方交付税、国庫支出金、都道府県支出金などが含まれます。依存財源は国や都道府県の政策判断に左右されるため、依存財源比率が高い自治体は外部要因による財政変動のリスクを抱えることになります。
自主財源比率の意義
自主財源比率が高い自治体は、独自の政策展開が可能であり、地域の実情に応じたきめ細かな行政サービスを提供できます。また、経済変動に対する耐性も強く、持続可能な行政運営を行うことができます。一方、自主財源比率が低い自治体は、国の政策変更や交付税制度の見直しなどにより、財政運営に大きな影響を受ける可能性があります。
一般的に、自主財源比率は50%以上あることが望ましいとされており、60%を超える場合は非常に健全な財政状況であると評価されます。逆に40%を下回る場合は、財政の自立性に課題があると考えられています。
概要
2021年度の都道府県別自主財源割合を分析すると、大都市圏を抱える都府県が上位を占め、地方圏の県が下位に集中する傾向が顕著です。特に東京都の76.0%(偏差値87.5)は突出しており、2位以下との差が大きく開いています。全国平均は42.8%となっており、理想的とされる50%を下回る状況にあります。
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自主財源比率の水準別分析
全国47都道府県を自主財源比率によって分類すると、明確な地域格差が浮き彫りになります。60%以上の非常に健全なグループには東京都のみが該当し、その突出した財政力を示しています。50~60%の健全グループには兵庫県、愛知県、神奈川県、宮城県の4県が該当し、これらの県は大都市圏を抱えるか、強固な産業基盤を持つ地域となっています。
40~50%の標準グループには20県が該当し、全体の約4割を占めています。これらの県は一定の財政自立性を保っているものの、依存財源への依存度もそれなりに高い状況にあります。30~40%のやや課題ありグループには17県が該当し、地方圏の多くがこの範囲に含まれています。
30%未満の課題グループには5県が該当し、これらの県では財政の自立性に深刻な課題を抱えています。特に高知県の24.1%は全国で唯一25%を下回る水準であり、構造的な改革が急務となっています。
上位5県の財政構造分析
東京都が76.0%(偏差値87.5)で圧倒的な1位となったのは、首都として多くの企業が集中し、極めて強固な税収基盤を築いているためです。法人住民税や法人事業税の税収が突出して多く、また個人住民税も高所得者の集中により豊富な税収を確保しています。大規模な経済活動による安定した税収確保に加え、不動産価格の高さに伴う固定資産税収入も他の都道府県とは桁違いの規模となっています。
兵庫県が54.6%(偏差値62.9)で2位に位置するのは、神戸市を中心とした都市部の経済活動が活発であることに加え、多様な産業構造による安定した財源確保が実現されているためです。港湾都市としての物流機能、製造業の集積、商業・サービス業の発展がバランス良く組み合わさり、幅広い税目からの税収確保を可能にしています。
愛知県は54.2%(偏差値62.4)で3位となり、自動車産業を中心とした製造業の強みが財政面にも如実に現れています。トヨタ自動車をはじめとする大手製造業の本社機能や主力工場の集積により、法人事業税や法人住民税の税収が安定しています。名古屋市を中心とした経済圏の発展も、個人住民税や地方消費税の増収に寄与しています。
神奈川県と宮城県は共に54.0%(偏差値62.2)で4位タイとなっています。神奈川県は首都圏の一角として経済基盤が充実しており、横浜市や川崎市などの大都市を抱えることで、多様な産業からの税収を確保しています。宮城県は東北地方の中心として経済活動が活発であり、仙台市を中核とした広域経済圏の発展が自主財源比率の向上に寄与しています。
下位5県の構造的課題
鹿児島県は32.3%(偏差値37.2)で43位となり、第一次産業中心の産業構造による税収基盤の脆弱性が主要な課題となっています。農業・畜産業・水産業といった第一次産業は付加価値が相対的に低く、法人事業税や個人住民税の税収確保に限界があります。また、離島部を多く抱えることによる行政コストの高さも、相対的な自主財源比率の低下要因となっています。
長崎県は31.5%(偏差値36.3)で44位に位置し、離島を多く抱えることによる行政コストの高さと、産業構造の転換の遅れが課題となっています。造船業の衰退後の新たな基幹産業の育成が進まず、税収基盤の多様化が十分に進んでいない状況です。人口減少に伴う個人住民税の減収も、自主財源比率の低下に拍車をかけています。
沖縄県は29.5%(偏差値34.0)で45位となり、観光業への高い依存度による税収の不安定性が特徴的です。観光業は外部要因(自然災害、経済情勢、感染症など)による影響を受けやすく、安定した税収確保が困難な状況にあります。製造業の立地が限定的であることも、法人税収の確保を困難にしています。
鳥取県は27.9%(偏差値32.2)で46位に位置し、人口規模が全国最小であることによる税収基盤の根本的な制約を抱えています。人口約55万人という規模では、個人住民税の総額に限界があり、企業誘致による法人税収の確保も限定的となります。若年層の県外流出が継続していることも、将来的な税収減少のリスクを高めています。
高知県は24.1%(偏差値27.8)で全国最下位となり、中山間地域が県土の大部分を占めることによる産業立地の制約が根本的な課題となっています。平地が少ないため大規模な工業立地が困難であり、第二次・第三次産業の発展が制限されています。人口減少による税収減少が継続していることに加え、高齢化の進展により社会保障関連の支出増加圧力も強く、相対的に自主財源比率の低下が進行しています。
地域別財政自立度の分析
関東圏では東京都を中心に高い自主財源比率を維持しており、首都圏としての経済集積効果が財政面にも大きく現れています。東京都の76.0%は突出していますが、神奈川県の54.0%、千葉県や埼玉県も40%台後半を維持しており、地域全体として財政自立度が高い状況にあります。この背景には、多様な産業の集積、高い人口密度、活発な経済活動があります。
近畿圏では兵庫県が54.6%で全国2位に位置し、大阪府も50%近い水準を保持するなど、比較的高い水準を維持しています。関西経済圏としての産業集積と都市機能の集中が、安定した税収基盤の形成に寄与しています。ただし、奈良県や和歌山県では40%を下回る水準となっており、地域内での格差も存在しています。
中部圏では愛知県が54.2%で全国3位となり、製造業を中心とした強固な産業基盤による安定した財源確保を実現しています。しかし、他の県では静岡県が40%台半ばを維持する一方、新潟県、長野県、富山県などでは40%前後に留まっており、愛知県の一人勝ちの様相を呈しています。
東北地方では宮城県が54.0%で全国4位タイとなり、東北地方の中核としての役割を果たしています。仙台市を中心とした経済圏の発展と、復興需要による経済活動の活性化が自主財源確保に寄与しています。しかし、他の東北各県では概ね30%台から40%前半に留まっており、地域内での格差が顕著になっています。
中国・四国地方では全体的に自主財源比率が低い傾向にあり、広島県が40%台半ばを維持する程度で、多くの県が30%台に位置しています。特に高知県の24.1%は全国最下位であり、地理的制約と産業構造の課題が深刻な状況を生み出しています。
九州・沖縄地方では福岡県が40%台前半を維持する一方、多くの県が30%台に留まっています。特に沖縄県の29.5%、鹿児島県の32.3%など、30%前後の県が複数存在し、地方圏の中でも特に財政自立度の低い地域となっています。
産業構造と自主財源比率の関係性
自主財源比率と産業構造には密接な関係があります。製造業の集積度が高い地域では、法人事業税や法人住民税の税収が安定しており、自主財源比率も高い傾向にあります。愛知県の自動車産業、兵庫県の鉄鋼・化学工業、神奈川県の機械・電子工業などが典型例です。これらの産業は付加価値が高く、雇用創出効果も大きいため、法人税収と個人住民税収の両面で税収増加に寄与しています。
商業・サービス業が発達した地域でも高い自主財源比率を維持する傾向があります。東京都や大阪府などの大都市圏では、金融業、情報通信業、専門サービス業などの高付加価値産業が集積しており、これらの産業からの税収が自主財源比率の向上に大きく貢献しています。
一方、第一次産業の比重が高い地域では、自主財源比率が低くなる傾向が明確に現れています。農業、林業、漁業は国民生活に不可欠な産業でありながら、付加価値の制約により税収確保の面では限界があります。北海道、青森県、岩手県、高知県、鹿児島県などがこの傾向を示しています。
観光業に依存する地域では、自主財源比率の不安定性が課題となります。沖縄県、静岡県、長野県などでは観光業が重要な産業でありながら、外部要因による変動リスクが高いため、安定した税収確保が困難な状況にあります。
人口動態と財政自立度
人口動態は自主財源比率に直接的な影響を与える重要な要因です。人口増加地域では個人住民税の税収が安定的に確保されるとともに、消費活動の活発化により地方消費税収入も増加します。東京都、神奈川県、愛知県、宮城県などの上位県は、いずれも人口増加または人口維持を実現している地域です。
逆に人口減少が続く地域では、個人住民税の減収が避けられず、商業活動の縮小により地方消費税収入も減少傾向にあります。特に若年層の流出が激しい地域では、将来的な税収減少のリスクが高まっています。高知県、鳥取県、島根県などの下位県では、人口減少による税収への影響が深刻化しています。
高齢化の進展も自主財源比率に複合的な影響を与えています。高齢者比率の上昇により、社会保障関連の支出が増加する一方で、現役世代の減少により税収の伸びが期待できない状況が生まれています。この結果、歳出総額に占める自主財源の相対的な比率が低下する傾向が見られます。
格差是正に向けた政策的課題
統計的分析を行うと、最上位の東京都と最下位の高知県の差は51.9ポイントという顕著な格差が存在しています。平均値42.8%と中央値41.5%の差は比較的小さく、東京都を除けば比較的均一な分布を示していますが、標準偏差は9.8ポイントと大きく、東京都の突出した数値が全体の分布に大きな影響を与えています。
この格差の背景には、産業構造の違い、人口規模と経済活動の集中度、地理的条件による経済活動の制約などが複合的に作用しています。製造業や高次サービス業の立地可能性、大都市圏への近接性、交通インフラの整備状況などが、地域の経済発展と税収確保能力を大きく左右しています。
格差是正に向けては、地方における産業振興策の強化、企業誘致のための優遇制度の充実、交通・情報通信インフラの整備、人材育成・確保策の推進などが重要です。また、国レベルでの地方交付税制度や各種補助金制度の見直しにより、財政力格差の緩和を図ることも必要です。
持続可能な財政運営に向けた展望
短期的には、各都道府県が地域の特性を活かした産業振興策を推進し、税収基盤の多様化と強化を図ることが重要です。デジタル化の進展を活用した新産業の育成、観光業の高付加価値化、農業の6次産業化などにより、既存産業の競争力向上と新たな税収源の創出が期待されます。
中長期的には、人口減少社会に適応した効率的な行政運営体制の構築とともに、広域連携による行政サービスの効率化が必要です。また、Society5.0の実現により、地理的制約を超えた経済活動の展開が可能になれば、地方圏での新たなビジネス創出と税収確保の機会が生まれる可能性があります。
制度面では、地方税制の抜本的見直しにより税源の偏在是正を図るとともに、地方交付税制度の改革により財政力格差の緩和を進めることが求められます。また、国と地方の役割分担の見直しにより、地方の裁量権拡大と財源確保の一体的な推進も重要な課題です。
まとめ
自主財源比率は地方自治体の財政自立度を示す重要な指標であり、2021年度のデータからは大都市圏と地方圏の間に深刻な格差が存在することが明らかになりました。東京都の76.0%という突出した数値は、首都圏への経済集中の程度を如実に示している一方、高知県の24.1%は地方圏が抱える構造的課題の深刻さを表しています。
この格差は単純な数値の差異を超えて、地域の持続可能性そのものに関わる重要な問題です。自主財源比率の低い地域では、国の政策変更や制度改正による影響を受けやすく、地域独自の政策展開にも制約が生じています。一方、自主財源比率の高い地域では、豊富な財源を背景に積極的な政策展開が可能であり、さらなる経済発展につながる好循環を生み出しています。
今後は、各地域の特性を活かした産業振興と税収基盤の強化、効率的な行政運営の推進、広域連携による行政サービスの最適化などにより、持続可能な財政運営を目指すことが重要です。同時に、国レベルでの制度改革により、地域間格差の是正と全体的な財政健全性の向上を図ることが、日本全体の均衡ある発展にとって不可欠な要素となっています。