2022年度の都道府県別死産率(出産千対)は、香川県が15.6と全国で最も低い値を記録した一方、青森県が25.7と最も高くなりました。この指標は、地域の周産期医療の質や、妊婦を取り巻く社会経済的環境を映し出す重要なデータです。本記事では、この地域差の背景にある要因を分析し、すべての親子が安心して出産に臨める社会に向けた課題を探ります。
概要
死産率は、出産1,000件あたりの死産の数を示したもので、母子保健の水準を示す重要な指標の一つです。この率が低いほど、地域の周産期医療体制が整っており、妊婦が健康な状態で出産に臨めていることを示唆します。2022年のデータを見ると、西日本の県で死産率が低く、北日本の県で高い傾向が見られます。この背景には、産科医の数や分娩施設の地域偏在、妊婦の高齢化、そして貧困などの社会経済的な要因が複雑に絡み合っています。
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死産率が低い上位5県(良い結果)
1位:香川県
香川県は死産率15.6と、全国で最も低い値を達成しました。県内の周産期医療ネットワークが機能し、医療機関同士の連携が密であることが強みです。地域に根差したきめ細やかな母子保健サービスが、リスクの早期発見と対応に繋がっていると考えられます。
2位:長崎県
長崎県は15.7で2位。離島を多く抱えるという地理的なハンディキャップを抱えながらも、情報通信技術を活用した遠隔医療や、搬送体制の整備によって、質の高い周産期医療を提供していることが、この結果に結びついています。
3位:鳥取県
鳥取県は16.0で3位にランクイン。人口規模が小さいながらも、行政と医療機関が一体となった手厚いサポート体制が特徴です。妊婦一人ひとりに対する支援が行き届きやすい環境が、安心な出産を支えています。
4位:岐阜県
岐阜県は16.4で4位。県内の中核病院を中心に、地域の診療所との連携がうまく機能しています。これにより、ハイリスクな妊婦を早期に特定し、適切な医療機関へ繋ぐ体制が整っていることが、死産率の低さに貢献しています。
5位:佐賀県
佐賀県は16.6で5位。近年、県を挙げて周産期医療の強化に取り組んできた成果が現れています。若手産科医の育成や、分娩取り扱い施設の集約と機能分化を進めたことが、医療の質の向上に繋がりました。
死産率が高い下位5県(課題がある結果)
47位:青森県
青森県は25.7と、全国で最も高い死産率でした。県内に産科医がいない「分娩取り扱い空白地帯」が存在するなど、医療資源の地域偏在が深刻な課題です。また、喫煙率の高さや塩分過多といった県民の生活習慣も、妊婦の健康状態に影響を与えている可能性があります。
46位:宮崎県
宮崎県は23.9で46位。中山間地域が多く、医療機関へのアクセスが困難な地域を抱えています。公共交通機関が脆弱なため、妊婦が定期的な健診を受けること自体に困難が伴うケースも少なくありません。
45位:群馬県
群馬県は22.9で45位。県内でも地域による医療格差が大きく、特に北部や西部では産科医不足が深刻です。また、外国人居住者の増加に伴い、言葉や文化の違いから、必要な医療情報が届きにくいという課題も指摘されています。
44位:愛媛県
愛媛県は22.6で44位。若年層の人口流出が続き、出産年齢が上昇傾向にあることが一因と考えられます。高齢出産は、妊娠高血圧症候群などのリスクを高め、死産に繋がる可能性があります。
43位:北海道
北海道は21.7で43位。広大な面積に対して医療機関が点在しており、特に冬期間は悪天候によって医療機関へのアクセスがさらに困難になります。緊急時の迅速な搬送体制の維持が大きな課題です。
社会的・経済的影響
死産率の地域差は、周産期医療だけの問題ではありません。それは、地域の社会経済的な豊かさや、女性の健康に対する社会全体のサポート体制の差を反映しています。死産率が高い地域は、安心して子どもを産み育てることが難しい社会であるというシグナルを発しているとも言えます。これは、若者世代の人口流出を加速させ、地域の活力をさらに奪うという悪循環に繋がりかねません。
また、死産を経験した女性やその家族への精神的なケア(グリーフケア)の体制も、地域によって差があります。適切なケアを受けられない場合、母親が深刻な産後うつやPTSDに陥るリスクも高まります。死産率の改善は、単に数値を下げるだけでなく、すべての親子が身体的にも精神的にも健やかに過ごせる社会を築く上で不可欠な課題です。
対策と今後の展望
死産率の地域格差を是正するためには、医療、福祉、雇用の各分野にまたがる総合的な対策が必要です。医療面では、産科医の地域偏在を解消するためのキャリア支援や、ICTを活用した遠隔診療の推進が急務です。また、助産師がより主体的に活動できるような制度改革も有効でしょう。
社会経済的な側面からは、貧困状態にある妊婦への支援強化が不可欠です。妊婦健診の公費負担を増やすだけでなく、栄養指導や交通費の補助など、より踏み込んだ支援が求められます。さらに、妊娠中の女性が安心して仕事を休めるような、職場の理解と制度の整備も重要です。すべての妊婦が必要な医療とサポートを受けられる体制を社会全体で構築していくことが、悲しいお産を一つでも減らすための確実な道筋です。
指標 | 値‐ |
---|---|
平均値 | 19.3 |
中央値 | 19.1 |
最大値 | 25.7(青森県) |
最小値 | 15.6(香川県) |
標準偏差 | 2.1 |
データ数 | 47件 |
まとめ
2022年度の死産率データは、周産期医療における日本の地域格差を明確に示しました。香川県のように優れた成果を上げている地域がある一方で、青森県のように深刻な課題を抱える地域も存在します。この差を生み出しているのは、医療資源の偏在だけでなく、その背景にある社会経済的な要因です。安心して子どもを産み育てられる社会の実現に向けて、医療体制の強化とともに、貧困対策や女性の就労支援といった、より広い視野での取り組みが求められています。
順位↓ | 都道府県 | 値 (‐) | 偏差値 | 前回比 |
---|---|---|---|---|
1 | 青森県 | 25.7 | 80.8 | +14.2% |
2 | 宮崎県 | 23.9 | 72.2 | +25.1% |
3 | 群馬県 | 22.9 | 67.4 | +6.5% |
4 | 愛媛県 | 22.6 | 66.0 | +4.6% |
5 | 北海道 | 21.7 | 61.7 | -1.4% |
6 | 沖縄県 | 21.5 | 60.7 | -12.6% |
7 | 鹿児島県 | 21.4 | 60.2 | -3.2% |
8 | 京都府 | 20.9 | 57.8 | +6.6% |
9 | 和歌山県 | 20.9 | 57.8 | +29.0% |
10 | 宮城県 | 20.7 | 56.9 | -2.8% |
11 | 大分県 | 20.5 | 55.9 | +8.5% |
12 | 埼玉県 | 20.3 | 55.0 | +1.5% |
13 | 神奈川県 | 20.2 | 54.5 | -1.9% |
14 | 福岡県 | 20.1 | 54.0 | -3.4% |
15 | 福島県 | 20.0 | 53.5 | -4.3% |
16 | 千葉県 | 20.0 | 53.5 | +5.3% |
17 | 奈良県 | 20.0 | 53.5 | +17.6% |
18 | 栃木県 | 19.8 | 52.6 | -8.3% |
19 | 山形県 | 19.7 | 52.1 | +20.9% |
20 | 秋田県 | 19.6 | 51.6 | -12.9% |
21 | 新潟県 | 19.6 | 51.6 | -3.9% |
22 | 高知県 | 19.2 | 49.7 | -3.5% |
23 | 茨城県 | 19.1 | 49.2 | -9.5% |
24 | 東京都 | 19.1 | 49.2 | -5.9% |
25 | 岩手県 | 19.0 | 48.7 | -2.6% |
26 | 岡山県 | 19.0 | 48.7 | +1.1% |
27 | 滋賀県 | 18.9 | 48.3 | +12.5% |
28 | 大阪府 | 18.9 | 48.3 | -2.1% |
29 | 熊本県 | 18.8 | 47.8 | -17.2% |
30 | 山口県 | 18.7 | 47.3 | +5.7% |
31 | 徳島県 | 18.7 | 47.3 | -5.1% |
32 | 石川県 | 18.6 | 46.8 | +5.7% |
33 | 兵庫県 | 18.3 | 45.4 | +4.6% |
34 | 福井県 | 18.2 | 44.9 | -5.7% |
35 | 静岡県 | 18.2 | 44.9 | -2.1% |
36 | 長野県 | 18.1 | 44.4 | +18.3% |
37 | 富山県 | 17.3 | 40.6 | -9.4% |
38 | 三重県 | 17.2 | 40.1 | -10.9% |
39 | 広島県 | 17.2 | 40.1 | -8.0% |
40 | 愛知県 | 17.0 | 39.2 | -6.1% |
41 | 島根県 | 16.8 | 38.2 | -5.6% |
42 | 山梨県 | 16.7 | 37.7 | +23.7% |
43 | 佐賀県 | 16.6 | 37.3 | -8.3% |
44 | 岐阜県 | 16.4 | 36.3 | -0.6% |
45 | 鳥取県 | 16.0 | 34.4 | -20.4% |
46 | 長崎県 | 15.7 | 33.0 | -15.6% |
47 | 香川県 | 15.6 | 32.5 | -22.8% |