都道府県別死産率ランキング(2022年度)
概要
死産率とは、出産1,000件あたりの死産数を示す指標です。この記事では、2022年度の都道府県別死産率のランキングを紹介します。
死産率は、妊娠22週以後の死産(自然死産および人工死産)の数を出産数(出生数+死産数)で割り、1,000を乗じて算出されます。この指標は、地域の周産期医療の水準や妊婦の健康状態を反映する重要な指標の一つです。死産率が低いほど、その地域の周産期医療や母子保健の水準が高いことを示唆しています。
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上位県と下位県の比較
死産率が低い上位5県
2022年度の死産率ランキングでは、香川県が15.6‰(偏差値67.5)で全国1位となりました。香川県は周産期医療体制の充実や妊婦健診の受診率の高さなどが低い死産率の要因と考えられます。
2位は長崎県で15.7‰(偏差値67.0)、3位は鳥取県で16.0‰(偏差値65.6)、4位は岐阜県で16.4‰(偏差値63.7)、5位は佐賀県で16.6‰(偏差値62.7)となっています。上位県には地方の県が多く、地域に密着した母子保健活動や周産期医療ネットワークの整備などが影響していると考えられます。
死産率が高い下位5県
最も死産率が高かったのは青森県で25.7‰(偏差値19.2)でした。青森県は医療アクセスの地域格差や高齢出産の増加などが高い死産率の要因と考えられます。
46位は宮崎県で23.9‰(偏差値27.8)、45位は群馬県で22.9‰(偏差値32.6)、44位は愛媛県で22.6‰(偏差値34.0)、43位は北海道で21.7‰(偏差値38.3)となっています。下位県には地方の県が多く、周産期医療施設へのアクセスの問題や専門医の不足などが高い死産率の要因と考えられます。
地域別の特徴分析
東北地方の状況
東北地方では、青森県(47位、25.7‰)が全国で最も高い死産率を示す一方、岩手県(22位、19.0‰)や秋田県(27位、19.6‰)は中程度の死産率となっています。宮城県(38位、20.7‰)、山形県(29位、19.7‰)、福島県(31位、20.0‰)も全国平均前後の値を示しています。
青森県の高い死産率の背景には、医療過疎地域の存在や高齢出産の増加、生活習慣病の高い有病率などが影響していると考えられます。特に、周産期医療施設へのアクセスが制限される地域では、妊婦健診の受診率が低下し、リスクの早期発見が遅れる可能性があります。一方、岩手県や秋田県では、地域の特性に応じた母子保健活動が展開されており、比較的良好な結果につながっていると考えられます。
関東・甲信越地方の状況
関東・甲信越地方では、山梨県(6位、16.7‰)が低い死産率を示す一方、群馬県(45位、22.9‰)は全国でも高い死産率となっています。東京都(24位、19.1‰)、茨城県(24位、19.1‰)は中程度、神奈川県(35位、20.2‰)や埼玉県(36位、20.3‰)はやや高めの死産率を示しています。
山梨県の低い死産率は、周産期医療ネットワークの整備や地域に密着した母子保健活動の成果と考えられます。一方、群馬県の高い死産率は、医療資源の地域偏在や妊婦健診の受診率の地域差などが影響している可能性があります。首都圏では、高度な周産期医療施設は集積しているものの、過密な人口や社会経済的要因が複雑に影響していると考えられます。
北陸・東海地方の低い死産率
北陸・東海地方では、岐阜県(4位、16.4‰)、愛知県(8位、17.0‰)、三重県(9位、17.2‰)、富山県(11位、17.3‰)など、多くの県が低い死産率を示しています。石川県(16位、18.6‰)や福井県(13位、18.2‰)も全国平均よりも低い値となっています。
この地域の低い死産率は、地域医療計画に基づく周産期医療体制の整備や、妊婦健診の受診率の高さなどが影響していると考えられます。特に東海地方では、名古屋大学や浜松医科大学などを中心とした高度な周産期医療体制の整備が影響していると考えられます。また、北陸地方も比較的医療アクセスが良好で、地域に密着した母子保健活動が充実していることが好影響を与えていると考えられます。
近畿地方の多様な状況
近畿地方では、兵庫県(15位、18.3‰)が比較的低い死産率を示す一方、京都府(39位、20.9‰)や和歌山県(39位、20.9‰)は高い値となっています。大阪府(20位、18.9‰)、滋賀県(20位、18.9‰)は中程度、奈良県(31位、20.0‰)はやや高めの死産率となっています。
この地域では医療資源の地域偏在が顕著で、都市部と郊外の間で医療アクセスに差があることが影響していると考えられます。特に和歌山県南部では周産期医療施設へのアクセスが制限される地域があり、これが高い死産率の一因となっている可能性があります。一方、兵庫県では周産期医療ネットワークの整備が進んでおり、比較的良好な結果につながっていると考えられます。
中国・四国地方の状況
中国・四国地方では、香川県(1位、15.6‰)、鳥取県(3位、16.0‰)、島根県(7位、16.8‰)が全国でも上位の低い死産率を示す一方、愛媛県(44位、22.6‰)は高い値となっています。広島県(9位、17.2‰)も低い死産率を示していますが、高知県(26位、19.2‰)、岡山県(22位、19.0‰)は中程度、徳島県(17位、18.7‰)も全国平均よりやや良好な死産率となっています。
香川県の低い死産率は、地域に密着した母子保健活動や周産期医療ネットワークの整備などが影響していると考えられます。同様に鳥取県や島根県も、地域の特性を活かした母子保健活動が充実しており、人口規模は小さいながらも効果的な周産期医療体制が構築されていると考えられます。一方、愛媛県の高い死産率は、医療資源の地域偏在や高齢出産の増加などが影響していると考えられます。
九州・沖縄地方の多様な状況
九州・沖縄地方では、長崎県(2位、15.7‰)や佐賀県(5位、16.6‰)が低い死産率を示す一方、宮崎県(46位、23.9‰)は全国でも高い値となっています。熊本県(19位、18.8‰)は中程度の死産率を示していますが、福岡県(34位、20.1‰)、大分県(37位、20.5‰)、鹿児島県(41位、21.4‰)、沖縄県(42位、21.5‰)は比較的高い死産率となっています。
長崎県や佐賀県の低い死産率は、地域医療計画に基づく周産期医療体制の整備や、妊婦健診の受診率の高さなどが影響していると考えられます。一方、宮崎県の高い死産率は、医療過疎地域の存在や高齢出産の増加などが影響していると考えられます。九州・沖縄地方全体としては、地域によって周産期医療体制に差があり、これが死産率の地域差につながっていると考えられます。
死産率の格差がもたらす影響と課題
周産期医療体制の地域格差
死産率の地域間格差には、周産期医療体制の地域格差が大きく影響しています。周産期母子医療センターの配置状況、産科医・助産師の数、NICUの病床数などの医療資源は地域によって大きく異なり、これが周産期医療へのアクセスの格差を生み出しています。特に、へき地や離島では周産期医療施設へのアクセスが制限され、緊急時の対応が遅れるリスクがあります。
例えば、人口10万人あたりの産科医師数は、最も多い東京都(約11人)と最も少ない埼玉県(約6人)で約2倍の差があります。また、総合周産期母子医療センターの配置状況も地域によって大きく異なります。周産期医療体制の充実は、死産率の改善に直接的に寄与する重要な要素です。
妊婦健診の受診率と早期発見
死産を予防するためには、妊婦健診の定期的な受診による異常の早期発見が重要です。しかし、妊婦健診の受診率には地域差があり、これが死産率の地域差につながっている可能性があります。特に、経済的理由や地理的アクセスの問題から、妊婦健診を十分に受けられない妊婦が存在することが課題となっています。
現在、多くの自治体では妊婦健診の公費助成を行っていますが、その内容や回数は地域によって異なります。また、交通手段の確保や遠隔地の妊婦への支援など、地理的アクセスの問題に対する取り組みも重要です。妊婦健診の受診率向上と内容の充実は、死産率の改善に寄与する重要な要素です。
高齢出産と生活習慣病の影響
近年、晩婚化・晩産化に伴い高齢出産が増加しており、これが死産リスクの上昇につながっている可能性があります。35歳以上の高齢初産婦では、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症リスクが高まり、これが死産リスクの上昇につながることが知られています。また、生活習慣病の有病率が高い地域では、妊娠前からの健康状態が良くない妊婦が多く、これも死産リスクの上昇につながる可能性があります。
高齢出産のリスクに対しては、妊娠前からの健康管理(プレコンセプションケア)や、妊娠中の丁寧な健康管理が重要です。また、生活習慣病対策として、若い世代からの健康教育や生活習慣の改善支援も重要な取り組みとなります。
社会経済的要因の影響
死産率には社会経済的要因も影響しています。経済的困窮、教育水準、就労状況、社会的サポートの有無などの社会経済的要因は、妊婦の健康状態や医療へのアクセスに影響を与え、これが死産リスクに影響する可能性があります。特に、経済的理由から十分な栄養を摂取できない妊婦や、仕事と妊娠の両立に困難を抱える妊婦では、死産リスクが高まる可能性があります。
社会経済的要因に対しては、経済的支援、就労環境の整備、社会的サポートの充実など、多角的な取り組みが必要です。特に、妊娠・出産に関する経済的負担の軽減や、妊娠中の働き方改革などは重要な課題となっています。
統計データの基本情報と分析
統計的特徴の分析
2022年度の都道府県別死産率データを統計的に分析すると、以下のような特徴が見られます:
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平均値と中央値の比較:平均値は約19.3‰、中央値は約19.1‰とほぼ同じ値を示していますが、青森県(25.7‰)や宮崎県(23.9‰)という極端に高い値と香川県(15.6‰)や長崎県(15.7‰)という極端に低い値があるため、分布の両端に外れ値が存在しています。
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分布の歪み:データは全体としては対称的ですが、青森県(25.7‰)という上側の外れ値があるため、わずかに正の歪み(右に裾を引いた形状)を示しています。
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外れ値の特定:青森県(25.7‰)は明らかな上側の外れ値と考えられます。また、香川県(15.6‰)も下側の外れ値と考えられます。
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四分位範囲による分布の特徴:第1四分位数(Q1)は約18.1‰、第3四分位数(Q3)は約20.3‰で、四分位範囲(IQR)は約2.2‰ポイントです。これは、中央の50%の都道府県の死産率が18.1‰から20.3‰の間に収まっていることを示しています。
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標準偏差によるばらつき:標準偏差は約2.3‰ポイントで、多くの都道府県が平均値から±2.3‰ポイントの範囲内に分布していることを示しています。変動係数(標準偏差÷平均値)は約11.8%となり、相対的なばらつきはやや大きいと言えます。最高値と最低値の差は10.1‰ポイント(25.7‰−15.6‰)に達し、青森県と香川県の間には大きな格差があることを示しています。
まとめ
2022年度の都道府県別死産率ランキングでは、香川県が15.6‰で1位、青森県が25.7‰で47位となりました。上位には香川県、長崎県、鳥取県などの地方の県が多く、下位には青森県、宮崎県、群馬県などの医療過疎地域を抱える県や特定の課題を抱える県が多く見られました。
死産率の地域差は、周産期医療体制、妊婦健診の受診率、高齢出産の割合、生活習慣病の有病率、社会経済的要因など様々な要素を反映しており、この差は母子の健康水準や生活の質に大きな影響を与えています。
統計分析からは、青森県が突出して高い死産率を示す一方、香川県が特に低い死産率を示していることがわかります。また、多くの都道府県は18.1‰から20.3‰の範囲に集中しており、中程度の死産率を示しています。
死産率の改善のためには、周産期医療体制の充実、妊婦健診の受診率向上、高齢出産のリスク管理、生活習慣病対策、社会経済的支援の充実など、総合的な取り組みが求められています。特に、香川県や長崎県などの成功事例に学び、地域の特性に応じた母子保健活動を展開することが重要です。