2020年、日本の完全失業者数は、東京都で約22.5万人と最も多く、島根県では約9千人と最も少ない結果となりました。この約25倍もの差は、単に人口規模の違いだけでなく、各地域の産業構造や、コロナ禍が雇用に与えた影響の度合いを色濃く反映しています。本記事では、このデータから日本の雇用情勢の地域差とその背景を読み解きます。
概要
完全失業者数とは、仕事を探しているにもかかわらず仕事に就けていない人の数を指し、地域の雇用状況や経済の健全性を示す重要な指標です。2020年度は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まった年であり、特に観光業や飲食業といったサービス産業が大きな打撃を受けました。ランキングを見ると、大都市圏が上位を占める一方、人口規模の小さい地方県が下位に位置するという明確な傾向が見られます。これは、都市部ほどサービス産業の比重が高く、コロナ禍の影響を受けやすかったことを示唆しています。
地図データを読み込み中...
上位5県の詳細分析(完全失業者数が多い)
1位:東京都
東京都は22.5万人と、全国で最も多くの完全失業者を抱えています。日本の経済活動の中心であり、サービス業や観光業が集中しているため、コロナ禍による外出自粛やインバウンド需要の消失が、直接的に雇用に影響を与えました。特に、非正規雇用者の失業が目立ちました。
2位:大阪府
大阪府は17.3万人で2位。東京都と同様に、商業や観光といったサービス産業の比重が高く、コロナ禍の影響を強く受けました。特に、飲食店の時短営業やイベントの中止が、多くの失業者を生み出しました。
3位:神奈川県
神奈川県は15.9万人で3位。東京のベッドタウンであり、サービス業に従事する人が多いことに加え、製造業の一部でも生産調整による一時帰休や失業が発生しました。観光地を抱える地域では、観光客の減少が雇用に影を落としました。
4位:埼玉県
埼玉県は14.0万人で4位。首都圏の広大なベッドタウンであり、サービス業や小売業の雇用が多いのが特徴です。コロナ禍による消費の落ち込みが、これらの産業の雇用に影響を与えました。
5位:愛知県
愛知県は12.3万人で5位。自動車産業を中心とする製造業が盛んですが、コロナ禍による世界的な需要減少や部品供給の停滞が、一時的に雇用に影響を与えました。特に、非正規雇用者や派遣労働者の失業が目立ちました。
下位5県の詳細分析(完全失業者数が少ない)
47位:島根県
島根県は9千人と、全国で最も完全失業者数が少ない県です。人口規模が小さいことが最大の要因ですが、第一次産業の比重が高く、コロナ禍の影響を受けにくい産業構造であったことも寄与しています。地域コミュニティの結束が強く、失業しても再就職先を見つけやすい環境があると考えられます。
46位:鳥取県
鳥取県は9.7千人で46位。島根県と同様に人口が少なく、大規模な産業集積に乏しいため、コロナ禍による影響が限定的でした。地域に根差した中小企業が多く、雇用の安定性が比較的高いと考えられます。
45位:福井県
福井県は1.2万人で45位。繊維産業や眼鏡産業といった地場産業が発達しており、雇用の安定性が比較的高い県です。女性の就業率が高いことも特徴で、多様な働き方が失業率を低く抑える要因となっています。
44位:高知県
高知県は1.3万人で44位。第一次産業の比重が高く、コロナ禍の影響を受けにくい産業構造であったことが寄与しています。また、地域に根差した中小企業が多く、雇用の安定性が比較的高いと考えられます。
43位:徳島県
徳島県は1.4万人で43位。四国地方の中でも人口が少ない県であり、コロナ禍の影響が限定的でした。地域に根差した中小企業が多く、雇用の安定性が比較的高いと考えられます。
社会的・経済的影響
完全失業者数の地域差は、地域経済の活力と住民の生活の質に大きな影響を与えます。失業者数が多い大都市圏では、消費活動の低迷、税収の減少、そして社会保障費の増大といった問題に直面します。特に、長期失業者が増加すると、個人のスキル低下や社会からの孤立が進み、再就職がさらに困難になるという悪循環に陥る危険性があります。
一方で、失業者数が少ない地方では、労働力不足が深刻化する可能性があります。特に若年層の県外流出が続けば、地域の産業を支える担い手がいなくなり、地域経済の持続可能性が脅かされます。完全失業の問題は、単に個人の問題ではなく、地域社会全体の持続可能性に関わる重要な課題なのです。
対策と今後の展望
コロナ禍からの経済回復が進む中で、完全失業者への再就職支援は喫緊の課題です。特に、サービス業から他産業への転職を希望する人に対しては、リスキリング(学び直し)支援や、職業訓練の機会を充実させる必要があります。また、デジタル化やグリーン化といった新たな成長分野での雇用創出を加速させることも重要です。
地方においては、テレワークの普及を追い風に、都市部からの人材誘致を進めることが期待されます。地方の豊かな自然環境や、生活コストの安さを魅力に、都市部の企業に勤務しながら地方で暮らすという新しい働き方を支援することで、地方の労働力不足を解消し、地域経済を活性化させることができます。すべての人が、希望する働き方を選択できる社会を目指すことが、今後の大きな課題です。
指標 | 値 |
---|---|
平均値 | 49,075.4 |
中央値 | 31,023 |
最大値 | 225,277(東京都) |
最小値 | 9,286(島根県) |
標準偏差 | 48,163.4 |
データ数 | 47件 |
まとめ
2020年度の完全失業者数ランキングは、コロナ禍が日本の雇用情勢に与えた影響と、地域ごとの産業構造や人口規模が失業者数にどう影響したかを明確に示しました。大都市圏で失業者が増加した一方、地方では比較的安定していたという傾向は、今後の雇用対策を考える上で重要な示唆を与えます。このデータは、単に失業者数を減らすだけでなく、すべての人が安心して働き続けられる社会を築くことの重要性を、改めて私たちに教えてくれます。
順位↓ | 都道府県 | 値 () | 偏差値 | 前回比 |
---|---|---|---|---|
1 | 東京都 | 225,277 | 86.6 | -4.3% |
2 | 大阪府 | 172,909 | 75.7 | -18.1% |
3 | 神奈川県 | 158,817 | 72.8 | -5.5% |
4 | 埼玉県 | 139,773 | 68.8 | -9.9% |
5 | 愛知県 | 123,314 | 65.4 | -5.3% |
6 | 千葉県 | 114,208 | 63.5 | -7.8% |
7 | 福岡県 | 107,974 | 62.2 | -14.2% |
8 | 北海道 | 102,125 | 61.0 | -13.4% |
9 | 兵庫県 | 99,533 | 60.5 | -16.1% |
10 | 静岡県 | 71,299 | 54.6 | -7.6% |
11 | 茨城県 | 55,136 | 51.3 | -16.3% |
12 | 宮城県 | 48,923 | 50.0 | -11.3% |
13 | 広島県 | 46,576 | 49.5 | -10.4% |
14 | 京都府 | 46,305 | 49.4 | -14.7% |
15 | 新潟県 | 40,991 | 48.3 | -6.6% |
16 | 栃木県 | 39,193 | 47.9 | -9.9% |
17 | 群馬県 | 37,569 | 47.6 | -12.4% |
18 | 福島県 | 37,445 | 47.6 | -11.6% |
19 | 長野県 | 35,335 | 47.1 | -7.6% |
20 | 沖縄県 | 33,683 | 46.8 | -15.3% |
21 | 岐阜県 | 33,606 | 46.8 | -5.3% |
22 | 熊本県 | 33,316 | 46.7 | -15.8% |
23 | 岡山県 | 32,868 | 46.6 | -15.0% |
24 | 鹿児島県 | 31,023 | 46.3 | -17.5% |
25 | 青森県 | 29,305 | 45.9 | -16.5% |
26 | 三重県 | 27,190 | 45.5 | -12.2% |
27 | 奈良県 | 24,643 | 44.9 | -19.2% |
28 | 長崎県 | 24,463 | 44.9 | -17.7% |
29 | 岩手県 | 23,788 | 44.7 | -10.0% |
30 | 愛媛県 | 23,343 | 44.7 | -21.7% |
31 | 滋賀県 | 23,241 | 44.6 | -5.0% |
32 | 大分県 | 22,627 | 44.5 | -13.1% |
33 | 山口県 | 22,276 | 44.4 | -17.8% |
34 | 宮崎県 | 20,653 | 44.1 | -17.5% |
35 | 石川県 | 19,618 | 43.9 | -1.8% |
36 | 秋田県 | 19,606 | 43.9 | -10.4% |
37 | 山形県 | 19,030 | 43.8 | -9.6% |
38 | 和歌山県 | 17,266 | 43.4 | -17.2% |
39 | 富山県 | 16,719 | 43.3 | -4.6% |
40 | 山梨県 | 16,325 | 43.2 | -13.1% |
41 | 香川県 | 16,093 | 43.2 | -14.5% |
42 | 佐賀県 | 14,977 | 42.9 | -15.0% |
43 | 徳島県 | 14,414 | 42.8 | -20.2% |
44 | 高知県 | 13,074 | 42.5 | -21.4% |
45 | 福井県 | 11,701 | 42.2 | -13.6% |
46 | 鳥取県 | 9,706 | 41.8 | -15.0% |
47 | 島根県 | 9,286 | 41.7 | -9.0% |