議会答弁の作成に毎回 2 時間かかっていませんか。質問書を読み解き、過去答弁を漁り、役所言葉に変換し、上司に詰められない論理を組み立てる。一連の作業を ChatGPT で 12 分に短縮できる 5 ステップ を、現役公務員視点で具体プロンプト付きで解説します。
「答弁案を AI に書かせる」ではありません。人間が考えるべき判断は残し、定型作業を AI に肩代わりさせる のがコツです。
WARNING
個人情報・非公開情報を ChatGPT に貼り付けてはいけません。本記事は 公開済の質問書 + 過去答弁 だけを扱う想定です。LGWAN 環境や庁内規程によっては外部 AI の利用自体が制限される場合があります。必ず自組織のガイドラインを確認してから実践してください。
なぜ「2 時間 → 12 分」なのか
筆者は元県庁職員 (20 年) で、議会対応は数百本書いてきました。1 本の答弁作成を分解すると、
| 作業 | 旧 時間 | AI 後 |
|---|---|---|
| 質問書の論点抽出 | 20 分 | 1 分 |
| 過去答弁の検索・参照 | 30 分 | 2 分 |
| 役所言葉への変換 | 20 分 | 2 分 |
| 上司レビュー観点で再構成 | 30 分 | 3 分 |
| 答弁 3 案の出し分け | 20 分 | 4 分 |
| 合計 | 2 時間 | 12 分 |
「考える」「決める」部分は人間のままで、それ以外を AI に渡すと、おおむねこの比率になります。
ステップ 1: 質問書 PDF を ChatGPT に「整理して」と投げる
議員から届く質問書は、長文 + 複数論点 + 抽象表現の塊です。まず構造化します。
プロンプト例
以下は議会一般質問の質問書です。各質問について以下を抽出してください:
1. 主たる論点 (1 行)
2. 求められる回答の種類 (数値 / 制度説明 / 見解 / 約束)
3. 関連部署
4. 答弁に必要な事実情報 (リスト形式)
[質問書本文をここに貼る]
出力例 (実際の議会風)
質問 1
- 論点: 県内の高齢者見守り体制の整備状況
- 回答種類: 制度説明 + 見解
- 関連部署: 健康福祉部 / 市町村振興課
- 必要情報:
- 現在の見守り事業実施市町村数
- 過去 3 年の予算推移
- 国の地域包括ケア方針との整合
「論点 / 回答種類 / 関連部署 / 必要情報」の 4 軸に分解されると、どの部署にどんな情報を取りに行けばいいか が即座に分かります。
ステップ 2: 過去答弁を「事例として参照」させる
過去答弁は組織の知恵の蓄積です。各課で保存している答弁集を ChatGPT に読ませて、似た論点の過去回答を抽出 させます。
プロンプト例
以下は過去 3 年分の議会答弁集です。
今回の質問「[論点を貼る]」と類似する過去答弁を 3 件抽出し、
それぞれについて (1) 答弁日 (2) 議員名 (3) 答弁の骨子 (4) 今回流用可能な表現 を出力してください。
[過去答弁テキストを貼る]
コツ
- 過去答弁は 公開されたもの だけ使う (議会会議録は通常公開)
- 「流用可能な表現」を抽出させることで、論理構造はそのまま、文言を更新 できる
- 同じ部署が言ってきた一貫性を保てる (議会対応で「以前と言ってることが違う」は致命傷)
ステップ 3: 「役所言葉」変換プロンプト
ChatGPT は普通の文体で書きます。役所文書の固有表現に変換するプロンプトを使い回します。
3 種類のプロンプト
a. 答弁文体への変換
以下の文を、自治体の議会答弁として違和感のない文体に書き直してください:
- 一文を 70 字以内に
- 「と考えます」「と認識しております」「努めてまいります」を適切に挟む
- 主語は「県」「本県」を基本とし、最初の登場時は「○○県」フル表記
- 数字は漢字とアラビア数字を場面で使い分け (年号→漢数字、統計→アラビア)
[ChatGPT が出した原案]
b. 議員配慮表現
以下の答弁案を、質問議員に対する配慮を欠かないよう書き直してください:
- 議員の問題意識を冒頭で受け止める一文を追加
- 「ご指摘の通り」「重要なご質問」等の常套句を適度に挿入
- 否定の場合は「現時点では困難ですが」「今後検討」のような将来余地を残す
c. 部署横断調整言語
以下の答弁案で、他部局の所管に踏み込みすぎる表現があれば指摘してください。
「○○課所管事項のため」のような責任範囲明示の表現を提案してください。
3 つを連続で適用するだけで、役所内で違和感のない文体になります。
ステップ 4: 上司レビュー観点を 5 つ自動チェック
答弁は決裁を通します。上司が見る観点を ChatGPT に事前チェックさせることで、手戻りを半減 できます。
プロンプト例
以下の議会答弁案を、決裁を通す上司の観点 5 つでチェックしてください:
1. 過去答弁との整合性 (一貫性)
2. 数値・事実の正確性 (誤りリスク)
3. 議会冒頭趣旨説明や他答弁との重複/矛盾
4. 議員以外への影響 (利害関係者・他自治体)
5. 中長期的な制約発生 (将来「以前そう言ったから」と縛られないか)
各観点について、リスクレベル (高 / 中 / 低) と修正案を出してください。
[答弁案を貼る]
この出力で分かること
- どの部分が「上司に修正される確率が高い」か事前に分かる
- 修正案も併記されるので、自分で考え直す時間を短縮
- 上司に出す時点で「自己チェック済」になり、信頼度が上がる
ステップ 5: 答弁の 3 案出しプロンプト
最後は意思決定の材料を揃えます。1 案だけ持っていくと、上司に「他の案は?」と聞かれます。
プロンプト例
以下の論点について、答弁を 3 案作成してください。各案の特徴:
案 A: 保守的 (現状維持を強く打ち出し、将来コミットメントを最小化)
案 B: バランス (現状の取組を説明しつつ、検討課題として将来余地を残す)
案 C: 前向き (具体的な施策方針や数値目標を提示し、議員の問題意識に応える)
各案について以下を出力してください:
- 答弁本文 (200-300 字)
- メリット (3 行)
- リスク (3 行)
- 想定される再質問 (2 つ)
[論点を貼る]
使い方
- 通常は B (バランス) を持っていく
- 議員との関係 / 政治情勢で A or C に振る判断材料を上司に提示
- 「想定される再質問」は議会本番でそのまま使える
個人情報・LGWAN 制約の注意点
ChatGPT 等のクラウド AI に 個人情報・非公開情報を入力してはいけません。本記事の 5 ステップは、すべて 公開済の情報 だけを扱う前提です。
NOTE
公的統計データ(e-Stat 等)は入力 OK の代表例です。たとえば議会答弁の根拠として都道府県別の統計数値を引用する際、統計カテゴリ一覧や各ランキングページの数値は公開情報のため ChatGPT に貼り付けて問題ありません。e-Stat の財政・行政データも積極的に活用できます。
| 入力 OK | 入力 NG |
|---|---|
| 議会で公開済の質問書 (議会 HP に掲載) | 議員からの事前相談・非公開議論 |
| 公開済の議会会議録 | 内部の答弁案・調整メモ |
| 公的統計データ (e-Stat 等) | 個人情報を含む業務データ |
| 国・他自治体の公表ガイドライン | 庁内決裁文書 |
LGWAN 環境では外部 AI 利用そのものが制限されることが多いため、LGWAN 外の PC で公開情報のみ扱う 運用を強く推奨します。
より厳格な統制が必要な場合は、Ollama 等のローカル LLM を併用する選択肢もあります。詳細は note の関連記事をご覧ください。
より深く学ぶには (Claude Code 編)
本記事は ChatGPT (Web UI) ベースの 5 ステップです。これを コマンドラインで自動化 したい方、過去答弁集を一括ベクトル検索 したい方には Claude Code が向いています。
筆者は note で「公務員 × Claude Code」シリーズを公開しています:
- Claude Code とは何か — ターミナル未経験の公務員のための導入ガイド (無料)
- 議会答弁原稿を Claude Code で 3 案出す prompt 集 (¥300、本記事のステップ 5 を CLI 自動化)
- 個人情報を Claude に送らずに AI 活用する 3 つの設定 (無料、LGWAN 環境制約への対処)
まとめ
| ステップ | 用途 | 時間目安 |
|---|---|---|
| S1 | 質問書整理 | 1 分 |
| S2 | 過去答弁参照 | 2 分 |
| S3 | 役所言葉変換 | 2 分 |
| S4 | 上司レビュー観点チェック | 3 分 |
| S5 | 3 案出し | 4 分 |
| 計 | 12 分 |
5 ステップそれぞれが独立して使えます。慣れたら自分の課のプロンプト集として保存しておくと、答弁シーズンに大幅な時短になります。
「議会答弁が憂鬱」から「答弁は AI と分担」へ。同じ質を半分以下の時間で出せれば、その分を本当に考えるべき政策議論に回せます。
データ出典
本記事のデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)を基に作成しています。
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