同じ「魚介」でも、どこで多く食べられているかは魚種によってまったく違います。総務省の家計調査で都道府県庁所在市の消費支出額を見ると、かつおは太平洋側・東日本で強く、かきは日本海側・瀬戸内で強いという、きれいな東西対照が浮かび上がります。
かつお消費支出額の1位は高知県で7,369円。最下位の大分県632円と比べると11.7倍もの開きがあります。一方かき(貝)消費支出額の1位は広島県で2,555円、最下位の沖縄県135円とは18.9倍の差です。どちらも「産地=消費地」という単純な構図に見えますが、地図に並べてみると、かつおとかきの強い県が驚くほど重なりません。この記事では、この2つの魚介の消費データから「魚食の東西地図」を描き出します。
NOTE
消費支出額は総務省「家計調査」による都道府県庁所在市(政令指定都市含む)の1世帯あたり年間支出額です。実際の漁獲量や消費量そのものではなく、あくまで「その都市の世帯が支出した金額」である点に注意してください。地元で獲れても加工・流通の都合で他地域の支出額が高くなるケースもあります。
かつお消費支出ランキング|太平洋側・東日本が上位を独占
かつお消費支出額の上位を見ると、1位高知県7,369円が突出しています。これは高知の郷土料理「かつおのタタキ」の存在が大きく、藁焼きで炙って食べる文化が家庭の食卓にも定着していることの表れです。2位以下は茨城県2,974円、和歌山県2,753円、福島県2,646円、徳島県2,466円と続き、上位5県のうち4県が太平洋岸に面しています。
かつお消費支出額ランキングをもっと見るさらに6位以降を見ても、宮崎県2,377円、山形県2,371円、岩手県2,334円、愛媛県2,260円、香川県2,229円、宮城県2,225円と、東北の太平洋側(宮城・岩手・福島・山形)と四国・南九州(徳島・愛媛・宮崎)が上位に集中しています。カツオは黒潮に乗って太平洋を北上する回遊魚で、初鰹は高知や和歌山など南から水揚げされ、戻り鰹は三陸沖まで北上します。この回遊ルートに沿って水揚げ港がある県が、そのまま消費支出額の上位に並んでいる構図です。
一方で最下位グループは、46位福岡県662円、47位大分県632円と九州北部・大分に集中しています。九州は水産県が多いにもかかわらず、かつおの消費支出は低い部類に入るのが興味深い点です。これは、九州近海がカツオの主要な回遊ルートから外れていること、そして地元で消費される主力魚種(ぶり・あじ・さばなど)が別にあることが背景にあると考えられます。実際、45位佐賀県684円、44位熊本県773円、43位沖縄県812円と、九州・沖縄勢が下位に固まっています。
TIP
かつおの消費額を都道府県別に見ると、単純な「西高東低」でも「東高西低」でもなく、太平洋沿岸ラインという地理軸で説明できます。日本海側の県(新潟・石川・富山など)も軒並み低い順位にあり、「海に近いかどうか」ではなく「どの海に面しているか」が消費文化を左右しています。
かき(貝)消費支出ランキング|日本海・瀬戸内が上位を独占
かき(貝)消費支出額のランキングは、かつおとは対照的な地理分布を見せます。1位は広島県2,555円で、これは広島湾が国内有数のカキ養殖の産地であることと直結しています。広島のカキ養殖は江戸時代から続く伝統産業で、地元の食文化に深く根付いています。2位は香川県1,533円、3位は兵庫県1,284円、4位は岡山県1,172円と、上位4県すべてが瀬戸内海に面した県で占められました。
かき(貝)消費支出額ランキングをもっと見る5位以降も大阪府921円、宮城県889円、滋賀県883円、東京都874円、山形県828円、神奈川県826円と続きますが、瀬戸内海勢に続いて存在感を示すのが宮城県です。松島湾や気仙沼はかつおと並んでカキ養殖の名産地であり、東北・三陸のカキも全国的に評価が高いことが表れています。かき消費支出は「瀬戸内海クラスター」と「三陸クラスター」という2つの産地圏が上位を形成しているのが特徴です。
最下位グループは南に向かうほど支出額が下がる傾向がはっきりしています。41位福井県413円に続き、43位長野県355円、44位宮崎県310円、46位鹿児島県234円、47位沖縄県135円という順に並びます。かきは水温が低い海域でよく育つ貝であるため、沖縄など温暖な地域では地元産のカキがほとんど流通せず、消費文化自体が根付きにくいと考えられます。長野県のような内陸県が下位に来るのは自然ですが、九州南部(宮崎・鹿児島)が軒並み低いのは、かつおの分布と逆の傾向です。
WARNING
かきは冬が旬の食材で、家計調査の年間支出額には季節による偏りが反映されています。年間を通じて均等に消費される品目ではないため、月次データを見ると冬季(11月〜2月)に支出が集中する点に注意してください。
発見: かつおとかきは「入れ替わる」地図を描く
かつお上位5県(高知・茨城・和歌山・福島・徳島)とかき上位5県(広島・香川・兵庫・岡山・大阪)を見比べると、重なる県が1つもありません。かつおが強い太平洋沿岸ラインと、かきが強い瀬戸内海・日本海沿岸ラインは、地理的にほぼ排他的な関係にあります。
香川県はかつお消費支出額でも10位2,229円と健闘していますが、これは瀬戸内海沿岸でありながら太平洋にも面する地理的特性と、讃岐うどんの出汁文化でいりこ・かつお節が多用されることが影響していると考えられます。逆に広島県はかつお消費支出額で33位1,239円と中位にとどまり、「魚介の消費量が多い県」がそのまま「あらゆる魚種で上位」になるわけではないことを示しています。
[仮説] かつおとかきの消費地図がここまで綺麗に分かれるのは、養殖と天然回遊という生産構造の違いが大きいと考えられます。かきは特定の湾(広島湾・松島湾など)で集中生産される養殖主体の食材であるのに対し、かつおは黒潮ルートに沿って広く分布する天然回遊魚です。検証には、他の養殖魚種(ぶり・のり等)と天然回遊魚種(さんま・さば等)の地理分布を比較する追加分析が必要です。
もう1つの発見は、九州・沖縄がどちらのランキングでも下位に集中している点です。かつお最下位の大分・佐賀・福岡、かき最下位の沖縄・宮崎・鹿児島と、九州各県は両方の魚介で消費額が低い傾向にあります。これは九州が「魚を食べない」わけではなく、地元で獲れる別の魚種(あじ・さば・ぶりなど)に消費が向かっていることを示唆しています。
まとめ
- かつお消費支出額1位は高知県7,369円、最下位は大分県632円で11.7倍の差
- かき消費支出額1位は広島県2,555円、最下位は沖縄県135円で18.9倍の差
- かつおは太平洋沿岸ライン(高知・茨城・和歌山・福島・徳島など)が上位を独占
- かきは瀬戸内海クラスター(広島・香川・兵庫・岡山)と三陸クラスター(宮城)が上位を形成
- 両ランキングの上位県はほぼ重ならず、産地の生産構造(天然回遊 vs 養殖)の違いが背景にあると考えられる
魚介の消費支出は寿司文化とも密接に関わっています。あわせて外食・回転寿司の消費支出ランキング記事も参考にしてください。
データ出典
総務省「家計調査」(都道府県庁所在市および政令指定都市、1世帯あたり年間支出額、2024年)をもとに、e-Stat(政府統計の総合窓口)経由で集計・整備しています。