医療機関の6割が過疎地域に──秋田と大阪を分けるもの

過疎地域
医療機関
地域医療
国土数値情報
病院統廃合

「自分の県の病院は、どんな場所に建っているのだろう」──そう問われて、すぐに答えられる人は多くありません。市街地の駅前にあるのか、それとも山あいの小さな集落のそばにあるのか。実はこの「立地」を県ごとに集計すると、日本の医療提供体制の姿がまるで違って見えてきます。

県内の病院・診療所・歯科診療所のうち、過疎地域に立地するものの割合を47都道府県で算出すると、最も高い秋田県は62.4%、最も低い大阪府は**0.03%**でした。同じ国の中で、2000倍を超える開きがあるのです。

NOTE

本記事の指標は「県内の医療機関(病院・診療所・歯科診療所)のうち、過疎地域に立地するものの割合(%)」です。国土交通省 国土数値情報の「過疎地域(A17、面データ)」と「医療機関(P04、点データ)」を空間結合(point-in-polygon:医療機関の位置が過疎地域の区域内に入るかを判定)して算出しました。住民あたりの医療機関数や受診距離を測ったものではない点に注意してください。

上位は東北・山陰・九州南部──秋田県は医療機関の62.4%が過疎地域に

ランキングの上位を見ると、地方圏の県が並びます。

  • 1位 秋田県 62.4%(1304施設のうち814施設が過疎地域に立地)
  • 2位 島根県 47.4%(986施設のうち467施設)
  • 3位 大分県 38.1%(1653施設のうち630施設)
  • 4位 鹿児島県 32.7%(2456施設のうち804施設)
  • 5位 岩手県 32.4%(1555施設のうち504施設)

秋田県では、県内の医療機関の実に3施設に2施設近くが過疎地域のなかにあります。続く北海道(28.2%、6903施設中1944施設)、愛媛県(26.7%)、和歌山県(25.7%)、高知県(25.0%)、山形県(24.1%)も2〜3割を超え、東北・山陰・四国・九州南部に高い県が集中しています。

これは「その県の医療提供体制が、過疎地域に大きく依存している」ことを意味します。病院や診療所が街なかだけでなく、人口の少ない地域にも数多く分布している状態です。

過疎地域立地割合 上位5・下位5 社会保障・医療の都道府県ランキング一覧

47都道府県のランキングや、県ごとに過疎地域と医療機関の位置を重ね合わせた地図は、stats47の公開ページで確認できます。

過疎地域と医療機関の重なりを地図で見る

下位は三大都市圏──大阪府はほぼ0%

一方、ランキングの下位はきれいに三大都市圏の府県で占められています。

  • 大阪府 0.03%(14655施設のうち、過疎地域に立地するのはわずか5施設)
  • 神奈川県 0.04%(12364施設中5施設)
  • 東京都 0.1%(25424施設中32施設)
  • 埼玉県 0.2%(8389施設中20施設)
  • 愛知県 0.6%(9607施設中53施設)
  • 滋賀県 0.6%(1692施設中10施設)

大阪府には1万4000を超える医療機関がありますが、そのうち過疎地域に立地するものは5施設だけ。割合にすると0.03%で、ほぼゼロです。東京都も、施設数は全国最多の2万5000超でありながら、過疎地域に立地するのは32施設にとどまります。

都市圏でこの割合が低いのは、単純に県土のほとんどが過疎地域に指定されていないからです。医療機関の絶対数が少ないわけではなく、むしろ多い。それでも「過疎地域立地」の割合がほぼ0になるのは、過疎指定された区域そのものが県内にわずかしかないためです。

なぜここまで差がつくのか──カギは「県土に占める過疎指定の割合」

秋田と大阪で2000倍以上の差が生まれる最大の理由は、医療政策の良し悪しではありません。県土のうち、どれだけの面積が過疎地域に指定されているかという、土台の違いです。

過疎地域は、人口減少率や財政力などの基準にもとづいて市町村単位で指定されます。東北・山陰・四国・九州南部の県では、県内の多くの市町村が過疎指定を受けています。県土の大部分が過疎地域であれば、そこに建つ医療機関も自然と「過疎地域立地」に数えられます。

逆に大阪府や神奈川県のように、人口が集中して過疎指定された区域がほとんどない県では、医療機関がどれだけあっても「過疎地域立地」の割合は限りなく0に近づきます。

つまりこの指標は、その県がどれだけ「過疎地域を多く抱える県」なのかを、医療機関の分布を通して映し出しているものだと読むのが正確です。医療体制の優劣ランキングではなく、県の地理的な成り立ちのランキングに近いのです。

この数字が意味すること──地域医療の議論は県ごとに前提が違う

では、この割合の差は何の役に立つのでしょうか。重要なのは、地域医療構想や病院の統廃合をめぐる議論の「前提」が、県によって全く別物になるという点です。

医療機関の6割以上が過疎地域に立地する秋田県では、病院の再編や機能集約を考えるとき、その対象の多くが過疎地域内の施設になります。一つの病院を統合・縮小する判断が、そのまま広い範囲の住民の通院手段に直結しやすい構造です。

対して、過疎地域立地がほぼ0%の大阪府では、医療機関の再編はほぼ市街地内の調整として進みます。同じ「地域医療構想」という言葉を使っていても、秋田の担当者と大阪の担当者が見ている現実はまったく異なります。

全国一律の基準で病院の数や配置を論じると、この前提の違いが見落とされがちです。「医療機関がどんな土地に立地しているか」を県ごとに把握しておくことは、再編の影響を現実的に見積もるための出発点になります。

WARNING

この指標は医療アクセスの充足度を示すものではない。秋田県のように割合が高くても、過疎地域内での医師不足や診療科の偏りは別途確認が必要だ。社会保障指標の全体像と組み合わせると地域医療の構造がより立体的に見えてくる。

この指標の限界──「医療空白」を示すものではない

最後に、誤読を避けるために指標の限界をはっきりさせておきます。

この割合は、過疎地域の区域内に医療機関が「ある」かどうかを数えたものです。過疎地域の医療アクセスが良いか悪いかを直接示すものではありません。

たとえば次のことは、この指標だけでは何も言えません。

  • 過疎地域の住民1人あたり、医療機関がどれだけあるか(充足度)
  • 住民が最寄りの病院までどれだけの距離・時間を要するか(アクセス)
  • そこにある医療機関が、必要な診療科や救急機能を備えているか(質)

秋田県で割合が高いのは「過疎地域にも医療機関が分布している」事実を表しますが、それが住民にとって十分かどうかは別問題です。逆に大阪府で割合がほぼ0なのは「過疎指定区域が県内にほとんどない」という地理の話であって、府民の医療アクセスが優れていることを意味するわけでもありません。

この指標は、医療体制の「過疎地域への依存度」という一つの断面を示すものです。アクセスや充足度を論じるには、人口あたりの施設数や距離のデータと組み合わせて見る必要があります。

まとめ

県内の医療機関のうち過疎地域に立地する割合は、秋田県の62.4%から大阪府の0.03%まで、2000倍を超える開きがあります。東北・山陰・四国・九州南部で高く、三大都市圏で極端に低い──その差は医療政策の優劣ではなく、県土に占める過疎指定区域の広さの違いから生まれています。

この数字が教えてくれるのは、地域医療をめぐる議論の前提が県ごとにまったく違うという事実です。医療機関の6割が過疎地域にある県と、ほぼ0%の県を、同じ物差しで語ることはできません。

自分の県の医療機関が、過疎地域とどう重なっているか。県別の重ね合わせマップで確かめてみてください。

過疎地域と医療機関の重なりを地図で見る

データ出典

出典:国土交通省 国土数値情報(過疎地域A17・医療機関P04)

本記事の対象データ: 関連カテゴリ