同じ「服」でも、コートと下着では年収による支出の差がまるで違います。総務省の家計調査には、全国の世帯を年収順に5等分した「年間収入五分位階級別」のデータがあります。これで衣料品を見ると、外側に着る服ほど所得差が大きく、内側に着る服ほど差が小さいという、はっきりした傾向が浮かび上がります。
婦人用コートは上位20%の世帯が下位20%の4.4倍を支出する一方、下着になるとその差は2.4倍まで縮まります。「人目にさらす服ほど、お金をかける余裕が表れる」——書籍『マーケティングに使える「家計調査」』が指摘したこの構図を、2024年の最新データで確かめてみましょう。
NOTE
この記事のデータは総務省「家計調査」の年間収入五分位階級別(全国・二人以上世帯)です。都道府県別ではなく、全国の世帯を年収順に5等分した各層(第Ⅰ階級=下位20%〜第Ⅴ階級=上位20%)の平均支出額を示します。
婦人用コート — 外側の服は4.4倍差
婦人用コートの年間支出額は、第Ⅰ階級(下位20%)が895円、第Ⅴ階級(上位20%)が3,935円。その差は4.4倍にのぼります。コートは冬に必ず人目にさらす、いわば「外見の看板」となる衣料です。所得に余裕がある世帯ほど、素材やブランドにお金をかける傾向がはっきり表れています。
コートのように高価で、かつ他人の目に触れる品目は、選択的支出(生活必需度が低く、余裕があるほど増やす支出)の典型です。第Ⅳ階級(1,927円)から第Ⅴ階級(3,935円)にかけて支出が倍増している点に、上位層の「見せる消費」への傾斜が読み取れます。
婦人用セーター — 中間の服は3.7倍差
婦人用セーターの支出額は、第Ⅰ階級が2,098円、第Ⅴ階級が7,784円で、その差は3.7倍です。セーターはコートほど「よそ行き」ではありませんが、それでも人前で着る中間的な衣料です。所得差はコートよりやや小さいものの、依然として大きな開きがあります。
コート(4.4倍)とセーター(3.7倍)を比べると、「より外側・よりフォーマルな服ほど所得差が大きい」という順序が見えてきます。衣料品の所得弾性は、その服がどれだけ「人目にさらされるか」と結びついているのです。
婦人用下着 — 内側の服は2.4倍差
婦人用下着類の支出額は、第Ⅰ階級が4,305円、第Ⅴ階級が10,303円で、差は2.4倍。コートやセーターに比べると、上位層と下位層の開きが明らかに小さくなっています。下着は他人の目に触れにくく、機能性が重視される品目です。そのため「見せるための上乗せ」が働きにくく、所得による差が縮まると考えられます。
男子用下着 — 最も内側は1.7倍差
さらに内側の男子用下着類を見ると、第Ⅰ階級2,725円・第Ⅴ階級4,690円で、差はわずか1.7倍。今回見た4品目のなかで最も所得差が小さい結果です。コート4.4倍→セーター3.7倍→婦人用下着2.4倍→男子用下着1.7倍と、「外側から内側へ」きれいに所得差が縮んでいきます。この一列に並んだ数字こそ、「人目にさらす服ほど所得差が出る」という仮説の何よりの証拠です。
WARNING
家計調査は支出金額の調査であり、購入した枚数(数量)そのものではありません。高所得層が「高い服を少数」買っても、低所得層が「安い服を多数」買っても支出額は近づくことがあり、金額差がそのまま枚数差を意味しない点にご注意ください。
データが示すもの
衣料品の所得格差は、その服が「どれだけ人目にさらされるか」で決まります。外側のコートは4.4倍、内側の下着は1.7〜2.4倍。同じ被服費でも、見せる服には余裕が上乗せされ、見せない服は必需品に近づく。マーケティングの観点では、高所得層に売り込むなら「人目にさらされる品目」ほど価格帯を上げる戦略が有効だと、このデータは示しています。
衣料品以外の所得格差は年収五分位シリーズの総論や贅沢財ランキングでも扱っています。都道府県別の消費傾向は47都道府県の県民の食卓シリーズからご覧いただけます。
TIP
品目の所得弾性(年収が上がると支出がどれだけ増えるか)は、「その品目が他人に見えるかどうか」と相関します。装飾品・外着・外食など「見せる消費」は所得差が大きく、下着・光熱費など「見せない消費」は所得差が小さい、という視点で家計を眺めると発見があります。
まとめ
- 婦人用コートは上位20%が下位20%の4.4倍、外側の服ほど所得差が大きい
- セーター3.7倍→婦人用下着2.4倍→男子用下着1.7倍と、内側へ向かうほど差が縮む
- 「人目にさらす服ほどお金をかける」という書籍の指摘は2024年データでも成立
- 見せる消費と見せない消費で所得弾性が異なるのは、衣料品に限らない普遍的な構図
家計消費の地域差は経済カテゴリ一覧からご覧いただけます。
データ出典
総務省統計局「家計調査(年間収入五分位階級別・全国・二人以上世帯)」(2024年)。e-Stat(政府統計の総合窓口)経由で取得したデータを使用しています。