stats47 データジャーナル統計で読む地域ニュースPRを含む場合があります

腕時計だけ格差が突出するのはなぜ?

同じ「1ヶ月の支出額」でも、年収による差が5倍で収まる品目と、26倍にまで開く品目があります。年収五分位とは、全国の二人以上世帯を年間収入の低い順に5等分し、下位20%を第Ⅰ階級、上位20%を第Ⅴ階級として支出額を比較する家計調査の分類です。

この記事では腕時計・ゴルフ用具・宿泊料・外国パック旅行費という4つの「贅沢財」を年収階級別に並べ、なぜ腕時計だけが26倍もの格差を生み、旅行費は3〜5倍程度にとどまるのかを見ていきます。結論を先に言うと、格差の大きさを決めているのは「支出の単価が青天井かどうか」でした。

NOTE

データは総務省統計局「家計調査」の年間収入五分位階級別(全国・二人以上世帯)です。都道府県別の地域差ではなく、全国の世帯を年収順に5等分した各層の平均支出額(1ヶ月あたり)を比較しています。第Ⅰ階級が年収下位20%、第Ⅴ階級が上位20%です。

腕時計 — 格差26.4倍で最大の贅沢財

腕時計 年収五分位別 家計・経済カテゴリの他の記事を見る

腕時計への月間支出は、第Ⅰ階級が262円、第Ⅴ階級が6,921円で、V/I比は26.42倍に達します。全国平均は1,965円ですが、この平均値自体が上位階級の支出に強く引っ張られていることがわかります。第Ⅱ階級829円・第Ⅲ階級576円・第Ⅳ階級1,238円という中間層の推移を見ても、第Ⅲ階級でいったん下がってから第Ⅳ・第Ⅴで急伸する非線形なカーブを描いています。

なぜここまで開くのでしょうか。腕時計は「時刻を知る」という機能面では数千円のクオーツ時計で完結する一方、上位階級の支出には数十万円台の高級機械式時計が混じっている可能性が高い品目です。時間を知るための必需品部分と、資産性・ステータス性を持つ嗜好品部分が同じ統計項目に同居しているため、単価の上限がほぼ無いに等しく、平均支出額が上位層の少数の高額購入に大きく左右されます。必需品としての下限価格が低い一方、贅沢品としての上限価格に天井がないという構造が、26倍という突出した格差を生んでいます。

ゴルフ用具 — 参加率格差がそのまま支出格差に

ゴルフ用具 年収五分位別 家計・経済カテゴリの他の記事を見る

ゴルフ用具は第Ⅰ階級254円、第Ⅴ階級3,933円で、V/I比は15.48倍です。全国平均は1,267円で、第Ⅱ階級696円・第Ⅲ階級559円・第Ⅳ階級893円と、こちらも腕時計と同じく中間で一度落ち込んでから上位階級で伸びる形をとっています。

ゴルフは競技を始めるための初期費用(クラブセット・シューズ・ウェア)がまとまった金額になり、継続するにも用具の買い替えや上級モデルへの更新コストがかかります。ゴルフ実施率の都道府県格差を見ても、実施率そのものに大きな地域差があることがわかっており、そもそも「ゴルフをするかどうか」という参加のハードルが年収と強く結びついている可能性があります。参加率の格差が支出額の格差にそのまま反映される構図は、必需品にはない贅沢財特有の性質です。

宿泊料 — 旅行系では最大格差、しかし腕時計の5分の1

宿泊料 年収五分位別 家計・経済カテゴリの他の記事を見る

宿泊料は第Ⅰ階級13,215円、第Ⅴ階級69,915円で、V/I比は5.29倍です。全国平均34,349円に対し、第Ⅱ階級26,587円・第Ⅲ階級29,364円・第Ⅳ階級32,667円と、腕時計やゴルフ用具とは違って各階級がほぼ単調に増加しています。階級を追うごとになだらかに支出が増える点が特徴です。

宿泊料は「旅行に行くかどうか」自体は所得によらず一定程度発生する支出である一方、宿泊施設のグレード(ビジネスホテルか高級旅館か)によって単価が大きく変わります。上位階級ほど1泊あたりの単価が高い宿を選ぶ傾向が支出額の差として表れていると考えられますが、腕時計のように「数千円のものと数十万円のものが同一統計項目」というほどの単価の開きはなく、格差は5倍台にとどまっています。旅行そのものへのアクセスは比較的所得によらず広がっている一方、宿の選び方に所得差が出るという構図です。

外国パック旅行費 — 4品目中もっとも格差が小さい

外国パック旅行費 年収五分位別 家計・経済カテゴリの他の記事を見る

外国パック旅行費は第Ⅰ階級18,539円、第Ⅴ階級55,174円で、V/I比は2.98倍です。全国平均32,744円に対し、第Ⅱ階級32,517円・第Ⅲ階級31,096円・第Ⅳ階級26,395円と、他の3品目とは異なり中間階級から第Ⅳ階級にかけていったん支出が下がり、第Ⅴ階級で再び上昇するという特徴的な動きを見せています。

4品目のうち唯一、第Ⅰ階級の支出が1万円台後半とそれなりの水準にあることが、格差を相対的に小さくしています。外国パック旅行は旅行会社が組んだ定額プランという性質上、宿泊料のように単価が青天井にはなりにくく、また複数年に一度のまとまった支出として下位階級でも計画的に積み立てて実行されている可能性があります。月の生活費が県で1.4倍違うように、生活必需の支出には地域差があっても、パック旅行という「非日常のイベント消費」は所得階級による支出額の差が相対的に小さい部類に入るということです。

WARNING

家計調査の数値は世帯あたりの支出金額であり、購入した個数や利用回数(消費量)ではありません。単価の高いものを少ない頻度で買う世帯と、単価の低いものを頻繁に買う世帯を区別できず、また世帯人数や年齢構成の違いも支出額に影響します。腕時計やゴルフ用具のように単価の分散が大きい品目では、平均値が一部の高額購入世帯に引っ張られやすい点に注意が必要です。

データが示すもの

4品目を並べると、格差の大きさは「必需品的な下限があるかどうか」と「単価に天井がないかどうか」で決まっていることが見えてきます。

  • 単価青天井型(腕時計26.4倍・ゴルフ用具15.5倍): 最低限の機能を満たす価格帯と、資産性・ステータス性を持つ高額帯が同一統計項目に同居し、上位階級の一部の高額購入が平均を押し上げる
  • なだらか増加型(宿泊料5.3倍): 支出の有無自体は所得によらず一定程度発生し、宿泊施設のグレード選択に所得差が反映される
  • 計画消費型(外国パック旅行費3.0倍): 定額プランという性質上、単価の上限が事実上決まっており、下位階級でも計画的な支出として実行されやすい

公立小の教育費は県で1.7倍違うという別の記事でも、教育費という「必需品と選択的支出が混在する」品目で似た構造の格差が確認できます。今回の4品目に共通するのは、単価のばらつきが大きい品目ほど所得階級による格差が開きやすいという傾向です。

TIP

品目の格差倍率を見るときは、平均支出額の絶対水準も同時に確認すると読み違いを防げます。腕時計は絶対額が小さい(全国平均1,965円)ため倍率が大きく出やすく、宿泊料は絶対額が大きい(全国平均34,349円)ため同じ「格差」でも倍率としては小さく表れます。倍率だけで「格差が深刻」と判断せず、絶対額とセットで見ることが大切です。

まとめ

  • 腕時計はV/I比26.42倍(第Ⅰ階級262円→第Ⅴ階級6,921円)で4品目中もっとも所得格差が大きい
  • ゴルフ用具はV/I比15.48倍(第Ⅰ階級254円→第Ⅴ階級3,933円)で、参加率格差がそのまま支出格差に表れている
  • 宿泊料はV/I比5.29倍(第Ⅰ階級13,215円→第Ⅴ階級69,915円)で、階級を追うごとになだらかに増加する
  • 外国パック旅行費はV/I比2.98倍(第Ⅰ階級18,539円→第Ⅴ階級55,174円)で4品目中もっとも格差が小さい
  • 格差の大きさは単価の上限が青天井かどうかで決まり、必ずしも「贅沢財=高格差」ではない

データ出典

総務省統計局「家計調査(年間収入五分位階級別・全国・二人以上世帯)」2024年。e-Stat経由で取得しています。