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教育費だけ格差が桁違いなのはなぜ?

同じ日本に住んでいても、子どもにどれだけ教育費をかけられるかは家庭の年収で大きく変わります。総務省の家計調査には、全国の世帯を年収順に5つの層に分けて支出額を比較できるデータがあります。これを「年収五分位階級」と呼びます。

このデータで教育関連の支出を見ると、家計の中でも教育費だけが突出して所得格差が大きいことがわかります。私立大学の授業料等は上位20%が下位20%の32倍、高校の補習教育(予備校等)は101倍、子どもの下宿・遊学先への仕送り金は67倍にのぼります。語学の月謝や遊園地の入場料も所得によって差がありますが、教育費の格差はそれらとも一線を画す桁違いの水準です。なぜこれほどまでに差が出るのか、品目ごとの性質から見ていきます。

NOTE

このデータは総務省統計局「家計調査(年間収入五分位階級別・全国・二人以上世帯)」2024年分を、e-Stat経由で取得したものです。都道府県別の格差ではなく、全国の世帯を年収順に5等分した各層(第Ⅰ階級=下位20%〜第Ⅴ階級=上位20%)の平均支出額を示しています。

私立大学授業料等 — 32倍の壁

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私立大学の授業料等にかかる月間支出額は、第Ⅰ階級(下位20%)が3,999円、第Ⅴ階級(上位20%)が128,406円です。差は32.11倍にのぼります。第Ⅰ階級の3,999円は、私立大学の授業料としてはほぼ計上されていない水準に近く、進学そのものを選ばない、あるいは選べない世帯が多いことを示唆しています。一方、第Ⅴ階級の128,406円は、年間150万円前後の学費水準に相当し、私立大学へ子どもを通わせることが前提の支出規模です。

階級ごとの伸び方を見ると、第Ⅰ階級から第Ⅲ階級(中位)までは3,999円→7,617円→29,628円と緩やかに増えますが、第Ⅳ階級で63,861円、第Ⅴ階級で128,406円と、後半にかけて跳ね上がる形です。これは私立大学進学が「一定の年収を超えて初めて現実的な選択肢になる」性質を持つことを表しています。国公立大学であれば授業料の負担は相対的に軽くなりますが、この統計が示す「私立大学」という枠組み自体が、選べる世帯とそうでない世帯を分ける境界線として機能しているとみられます。

高校補習教育(予備校等) — 格差はさらに開き101倍

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高校生の補習教育、いわゆる予備校や塾にかかる支出は、第Ⅰ階級が334円、第Ⅴ階級が33,824円で、差は101.27倍です。私立大学の32倍をさらに上回り、今回取り上げた3品目の中で最大の格差になっています。

第Ⅰ階級の334円は、予備校をほぼ利用していないに等しい水準です。対して第Ⅴ階級の33,824円は、大学受験対策の予備校に通う場合の月謝相当額です。予備校は大学進学のための「準備段階」の支出であり、私立大学の授業料そのものよりもさらに手前の投資にあたります。この手前の投資段階でこれほどの格差が生じているということは、大学進学の可否そのものが、高校時代の学習環境の差によってすでに固定されつつある可能性を示しています。階級別の推移も第Ⅰ〜第Ⅲ階級では334円→1,625円→3,060円とゆるやかですが、第Ⅳ階級で15,193円、第Ⅴ階級で33,824円と急激に増えており、私立大学と同じく「一定の年収を超えて初めて予備校という選択肢が現実化する」パターンが繰り返されています。

国内遊学仕送り金 — 67倍が示す「地元を離れる」ハードル

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子どもが下宿や進学のために親元を離れる際の仕送り金は、第Ⅰ階級が2,376円、第Ⅴ階級が159,779円で、差は67.25倍です。私立大学の32倍より大きく、予備校の101倍よりは小さい、ちょうど中間の格差水準になります。

仕送り金は、地元に希望する進学先がない場合に発生する「地理的な選択の自由」にかかるコストと言えます。第Ⅰ階級の2,376円ではほとんど仕送りが発生しておらず、進学先を自宅から通える範囲に限定せざるを得ない世帯が多いと考えられます。対して第Ⅴ階級の159,779円は、東京や大都市圏の大学へ子どもを送り出し、家賃と生活費を継続的に支援できる水準です。階級別では第Ⅰ階級2,376円から第Ⅱ階級7,312円、第Ⅲ階級18,138円と緩やかに増えたあと、第Ⅳ階級66,947円、第Ⅴ階級159,779円と後半で急伸しており、私立大学・予備校と同じ「後半跳躍型」のパターンをたどっています。地元を離れて学ぶという選択肢自体が、所得の高い層に偏っていることがこの数字からうかがえます。

WARNING

家計調査は「支出金額」を集計したものであり、進学者数や利用者数そのものではありません。第Ⅰ階級の支出額が低いのは、そもそも該当する支出をしている世帯の割合が少ないことも反映しています。また世帯人数や子どもの人数の違いも支出額に影響するため、1人あたりの教育機会の差はこの数字よりも大きい、あるいは小さい可能性があります。

データが示すもの

今回取り上げた私立大学(32.11倍)・予備校(101.27倍)・仕送り金(67.25倍)は、習い事や体験にかかる支出と比べても際立って格差が大きい品目です。3品目に共通するのは、いずれも「大学進学」という一つのゴールに向けた投資であり、後になるほど支出規模が跳ね上がる「後半跳躍型」の階級分布を持つ点です。

この3品目を並べると、格差の大きさに序列があることも見えてきます。予備校(101.27倍)が最大で、次に仕送り金(67.25倍)、私立大学(32.11倍)の順です。これは一見すると意外に思えるかもしれません。私立大学の授業料そのものより、そこへ至る準備段階である予備校のほうが格差が大きいという結果は、教育投資が「入り口」の時点ですでに大きく分岐していることを示しています。大学に入ってからの学費差より、大学に入るための準備段階での差のほうが、実は所得によって大きく開いているのです。

必需品的な性質を持つ食品や日用品の支出は、年収による差があっても数倍程度に収まることが多い一方、教育費は「あるかないか」から「桁違いに大きいか小さいか」まで振れ幅が極端です。これは教育費が単なる消費支出ではなく、次世代の所得や機会そのものへの投資という性質を持つためだと考えられます。秋田の教育投資のように地域単位で教育に力を入れる動きがある一方、この記事のデータは所得という軸だけでも教育機会の格差がすでに大きいことを示しています。

TIP

3品目のうち予備校(101.27倍)と私立大学(32.11倍)を比べると、進学準備段階のほうが本番の学費より格差が大きいという逆転現象が見られます。教育費の格差を議論する際は、大学の学費だけでなく、そこに至るまでの塾・予備校費用にも目を向ける必要があります。

まとめ

  • 私立大学授業料等: 第Ⅰ階級3,999円 → 第Ⅴ階級128,406円(32.11倍)
  • 高校補習教育(予備校等): 第Ⅰ階級334円 → 第Ⅴ階級33,824円(101.27倍、3品目中最大)
  • 国内遊学仕送り金: 第Ⅰ階級2,376円 → 第Ⅴ階級159,779円(67.25倍)
  • いずれも「後半跳躍型」の階級分布を持ち、一定の年収を超えて初めて選択肢として現実化する
  • 大学進学の準備段階(予備校)のほうが、本番の学費(私立大学)より格差が大きい

データ出典

総務省統計局「家計調査(年間収入五分位階級別・全国・二人以上世帯)」2024年分。e-Stat(政府統計の総合窓口)経由で取得。