「海外によく行く県ほど、国際協力にも熱心だ」と思われがちです。しかし都道府県のデータを重ねると、その直感は崩れます。国際協力のボランティアに参加する人の割合は県によって約3倍も違い、海外旅行が盛んな県と国際協力が盛んな県は意外にも一致しません。社会生活基本調査のデータから、日本の「国際意識」が一枚岩ではないことを見ていきます。
国際協力ボランティア率は東京・滋賀の2.1%が最も高い
2006年の社会生活基本調査による国際協力ボランティア行動者率(15歳以上人口のうち、国際協力に関係したボランティア活動をした人の割合)を見ると、最も高いのは東京都と滋賀県で、ともに2.1%です。次いで神奈川県と山梨県が2.0%で並び、広島県が1.9%で続きます。一方で最も低いのは新潟県の0.7%で、大分県・高知県・秋田県が0.8%、福岡県・三重県が0.9%とこれに続きます。最も高い県と最も低い県では約3倍の開きがあります。
上位を首都圏(東京都・神奈川県)が占めるのは、国際協力NPOや国際協力機構(JICA)の拠点が都市部に集中し、ボランティアに参加する機会そのものが多いことが背景にあると考えられます。注目したいのは、首都圏ではない滋賀県・山梨県・広島県が上位に食い込んでいる点です。滋賀県は国際交流団体や大学・研究機関の活動が活発な地域で、人口規模では大都市に及ばなくても、国際協力に関わる人の割合は東京都と並びます。下位に並ぶ新潟県・秋田県・大分県・高知県は、いずれも大都市圏から離れた地方で、国際協力の窓口や情報に触れる機会が相対的に少ないことが、低い行動者率につながっていると見られます。つまり、この指標は「人口の多さ」ではなく「国際協力に触れる場が身近にあるか」を映しています。
NOTE
このデータは2006年の社会生活基本調査に基づきます。国際協力に関係したボランティア活動を過去1年間にしたかどうかを尋ねた回答から算出され、寄付ではなく「活動」に限られる点に注意が必要です。都道府県別ではこの年が最新であり、現在の水準とは異なる可能性があります。
タイルマップで見ると東北・北陸も県ごとに割れている
都道府県を地図状に並べたタイルマップで見ると、首都圏・中京圏に加え、滋賀県や広島県といった独自の国際交流拠点を持つ地域でも比較的高い率を示しています。一方で、よく「地方は総じて国際協力が低い」と語られますが、データはそう単純ではありません。
たとえば東北では、岩手県が1.6%で全国9位タイと高い一方、隣接する秋田県は0.8%で全国44位タイと低く、同じ地方の中で大きく分かれています。北陸でも、石川県は1.6%で9位タイと上位ですが、新潟県は0.7%で全国最下位です。つまり「東北・北陸はまとめて低い」という見方は誤りで、県単位では国際交流拠点や大学の有無、地元NPOの活発さによって高低が入り混じっています。地域ブロックで国際意識を語ると、岩手県や石川県のような健闘している県を見落とすことになります。地方かどうかではなく、その県に国際協力へ参加する「入口」があるかどうかが、行動者率を左右しているのです。
WARNING
行動者率は人口に対する割合なので、人口規模とは別物です。地図の色が薄い県でも、人口が多ければ実際にボランティアをしている人数は多くなり得ます。逆に、率が高くても人口の小さい県では実人数は限られます。「率の地図」を「人数の地図」と読み違えないよう注意してください。
海外旅行に熱心な県が、国際協力にも熱心とは限らない
ここからが本題です。「海外に行く県ほど国際協力に熱心」という直感は正しいのでしょうか。海外旅行行動者率と国際協力ボランティア率の散布図を重ねると、緩やかな正の相関はあるものの、両者が一致しない県が少なくありません。
象徴的なのが滋賀県です。滋賀県は海外旅行率では上位に入らないのに、国際協力ボランティア率では2.1%で東京都と並ぶトップです。逆に、海外旅行率が高い県でも国際協力ボランティア率が中位にとどまる県があります。「海外に行く」という個人的・消費的な行動と、「国際協力に参加する」という社会的・継続的な行動は、必ずしも同じ動機で動いていないことがわかります。旅行は余暇とお金があれば実現しますが、国際協力への参加には、活動団体とのつながりや継続的な関心といった別の条件が必要になります。海外旅行率の高さを「その県の国際意識の高さ」とそのまま読み替えると、滋賀県のような県を取りこぼすことになります。「外向きな県」を一つの物差しで測れない、という事実がここに表れています。
TIP
散布図で外れ値(線から大きく外れた県)を探すと発見が増えます。滋賀県のように「旅行は控えめでも国際協力は熱心」な県は、観光ではなく地域の国際交流活動が国際意識を支えている可能性があり、海外旅行率だけを見ていては気づけません。
外国人が多い県ほど国際協力に熱心、ともいえない
もう一つの直感、「身近に外国人が多い県ほど国際協力に関心がある」も検証してみます。外国人人口(10万人あたり)と国際協力ボランティア率の散布図を見ると、やや正の相関は見られます。東京都・群馬県のように外国人が多い県でボランティア率も上位という、相関を素直になぞる県も確かにあります。
ただし、ここにこそ外れ値があります。三重県は外国人比率が全国4位(2,526人/10万人)と高いにもかかわらず、国際協力ボランティア率は0.9%で全国42位タイと下位にとどまります。外国人が集住する地域として知られる県でありながら、行動者率は最下位グループに近いのです。身近に外国人がいる環境は国際協力への「きっかけ」にはなり得ますが、実際の行動につながるには、情報・ネットワーク・教育といった別の要因も必要だということでしょう。多文化共生が進んだ県が、必ずしも国際協力ボランティアの活発な県になるわけではありません。共生は「日々の隣人との関係」、国際協力は「組織的な活動への参加」であり、求められる行動の性質が異なります。外国人の多さを国際意識の代理指標として使うと、三重県のような県を読み違えることになります。
WARNING
外国人比率は2020年国勢調査、ボランティア率は2006年のデータで、14年の時差があります。この間に各県の外国人人口は大きく変化しているため、ここでの相関はあくまで傾向の参考にとどめ、因果関係(外国人が増えたから国際協力が増えた、など)を読み込まないでください。
まとめ
国際協力ボランティアのデータから見える「国際意識」の地域差を整理します。
- 国際協力ボランティア行動者率の最上位は東京都・滋賀県の2.1%、最下位は新潟県の0.7%で、約3倍の開きがあります。
- 上位は首都圏に加え、滋賀県・山梨県・広島県といった独自の国際交流拠点を持つ県が食い込みます。
- 東北・北陸は「総じて低い」のではなく、岩手県・石川県(9位タイ)のように高い県と、秋田県・新潟県のように低い県に分かれます。
- 海外旅行率と国際協力ボランティア率は必ずしも一致せず、滋賀県のように旅行は控えめでも国際協力で全国トップに並ぶ県があります。
- 外国人比率も国際協力ボランティア率と完全には連動せず、三重県のように外国人は全国4位に多くても行動者率は42位と下位の県があります。
「国際意識」を測る指標は一つではありません。海外旅行に行くこと、外国人と共生すること、国際協力に参加すること──それぞれ異なる動機と環境要因で成り立っており、どの県が「国際的」かは問いの立て方次第で答えが変わります。一つの物差しで「国際的な県」を決めつけず、複数の指標を重ねて地域の国際性を多面的に評価することが大切だといえるでしょう。
データ出典
- 社会生活基本調査(e-Stat、2006年・国際協力ボランティア)
- 社会生活基本調査(e-Stat、2001年・海外旅行)
- 社会・人口統計体系 都道府県データ(e-Stat、2020年・外国人人口)
- 本記事のデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)を基に作成しています。