三重県民は年間5kgの砂糖を家庭で購入しています。東京都民の2,072gと比べると2.4倍以上です。同じ日本に暮らしながら、家庭の「甘さ」はこれほど違います。
なぜ三重が突出するのでしょうか。「郷土食が甘い」という説はありますが、三重に特有の砂糖多用料理が思い当たらない人は多いでしょう。実は、1位の三重・2位の宮崎・3位の鳥取にはそれぞれ異なる背景があり、単純に「甘い食文化の県」では括れない構造があります。先に結論を言えば、このランキングが映しているのは「甘い物好きの県はどこか」ではなく、家庭で砂糖を使った料理を作るか、外食・加工食品で甘さを摂るかという調理行動の地域差です。
NOTE
総務省「家計調査」のデータは都道府県庁所在市の二人以上世帯が家庭で購入した砂糖量を集計したもの。スーパーなどで購入した砂糖・砂糖入り調味料が主な対象で、外食・加工食品に含まれる砂糖は捕捉されない。家庭での手作り料理の頻度と「家庭用砂糖を買う習慣」を反映するデータとして解釈する必要がある。
砂糖消費量ランキング(2024年)
上位は三重(5,020g)・宮崎(4,768g)・鳥取(4,708g)・長野(4,587g)・香川(4,508g)と続き、6位以降も佐賀(4,507g)・山形(4,240g)・島根(4,231g)・新潟(4,179g)・長崎(4,148g)が並びます。東海地方の三重、九州の宮崎・佐賀・長崎、山陰の鳥取・島根、四国の香川、東北の山形・新潟と、全国の地方都市が幅広く上位を占めているのが特徴です。
ここで注目したいのは、上位に並ぶのが「いかにも甘党」と語られる特定の一県ではなく、地方の中堅都市が横並びになっている点です。つまり砂糖を多く買うかどうかは、その土地の名物が甘いかどうかよりも、家庭で日常的に煮物や甘辛い味付けの料理を作るかどうかに強く左右されていると読めます。上位県はいずれも、外食産業が首都圏ほど発達していない都市規模で、家庭での自炊比率が相対的に高い地域に重なります。
なぜ三重が1位なのか ── 「煮る文化」と砂糖
三重県が砂糖消費量で突出する理由として、考えられる要因が2つあります。
第1に、伊勢志摩・三重内陸部の煮魚・煮物文化です。 三重は伊勢湾・熊野灘の海産物が豊富で、魚の煮付けや佃煮に砂糖・みりんを多用する料理が根付いています。特に甘めの醤油味付けは「関西の薄口 vs 東海の甘辛」の境界に位置する三重の特徴とも重なります。煮物に砂糖を効かせる調理は、調味料としての砂糖を恒常的に消費するため、家計調査の購入量に直接効いてきます。
第2に、「家庭で料理を作る」習慣の濃さです。 家計調査は「家庭で砂糖を買う」行動を捕捉します。外食産業が発展するほど家庭内砂糖消費は下がる構造があり、三重は東京ほど外食が日常化していない都市規模のため、家庭料理での砂糖消費が高く出やすいのです。1位の三重・2位の宮崎・3位の鳥取がいずれも大都市圏から外れた地方都市である点も、この見立てと整合します。
TIP
砂糖消費量の都道府県差は、「甘い食文化」の差というより「家庭で砂糖を使った料理を作る頻度」の差とも解釈できる。砂糖の消費支出額(金額ベース)と合わせて見ると、単価の高い砂糖(精製度別)を使う地域かどうかも確認できる。量と金額の順位がズレる県は、安い砂糖を大量に使うか、高い砂糖を少量使うかの違いが現れている。
最下位グループ ── 外食化と都市部効果
下位5県は山梨(43位・2,528g)・茨城(44位・2,393g)・滋賀(45位・2,383g)・宮城(46位・2,253g)・東京(47位・2,072g)です。最下位の**東京(2,072g)は1位三重の41%**にすぎません。東京・宮城・滋賀・茨城・山梨と、首都圏・近畿圏に近い県が下位を占めています。
ここで効いているのは「都市部では加工食品・外食での糖質摂取が多く、家庭で砂糖を買う頻度が低い」という外食化の構造だと考えられます。東京都民が砂糖を使わない甘味嫌いというわけではなく、砂糖が「すでに入った状態のもの」──菓子・清涼飲料・外食メニュー──として摂取されているだけです。滋賀・茨城のように大都市圏に隣接し通勤圏に組み込まれた県も、外食・中食への依存度が高まりやすく、同じ傾向を示しています。家計調査の「砂糖」という品目が、調理スタイルの違いを浮き彫りにしていると言えます。
WARNING
家計調査は家庭内購入を集計するため、外食産業が発達した都市部では家庭内消費が低めに出る構造がある。「砂糖消費量が少ない = 糖分摂取量が少ない」ではない点に注意。都市部では加工食品・コンビニスイーツ・外食からの糖分摂取が多い可能性が高く、このデータから健康面の優劣を読み取ることはできない。
4つのクラスター構造 ── 甘党地図の背景
砂糖消費量を都道府県地図に落とすと、上位が特定の地方ブロックに集中していることが見えてきます。
濃く色づくのは、東海(三重)・九州(宮崎・佐賀・長崎)・山陰(鳥取・島根)・四国(香川)という4つのブロックです。これらに東北(山形・新潟)と内陸の長野を加えると、上位10県の地理的なまとまりがはっきりします。逆に色が薄いのは東京を中心とする首都圏と、その近郊県です。4つのクラスターに共通するのは「家庭で煮物・甘辛系料理を作る文化」の強さで、砂糖を多用する郷土食(味噌・煮物・甘味噌だれ・あんこ系)が残存している地域ほど、家計調査に高く出る傾向があります。
このクラスターは「甘い名物がある県」とは必ずしも一致しません。たとえば香川はうどんの印象が強いものの、煮物やあんこ餅・和三盆の文化を併せ持ち、家庭の砂糖使用が厚い土地です。山陰や東北も突出した甘味名物があるわけではなく、日々の煮物・漬物・甘辛い惣菜が砂糖消費を底上げしています。つまり地図が示すのは観光的な甘味名物の分布ではなく、台所に砂糖瓶が常備され、日常的に使われている地域の分布なのです。
砂糖消費量の全47都道府県ランキングを見るまとめ ── 「砂糖を買う」行動が映す食生活の地域差
砂糖消費量の地域差は「甘い食べ物が好きか嫌いか」の差ではなく、「家庭で砂糖を使った料理を作るか、外食・加工食品で摂取するか」の差を反映しています。
- 1位三重(5,020g)・最下位東京(2,072g)で2.4倍差
- 上位は地方の郷土食文化(煮物・甘辛醤油)が残存する地域
- 下位は外食・加工食品への代替が進んだ都市部・近郊県
- 上位は東海・九州・山陰・四国の4ブロックに地理的に集中する
- 「砂糖を買わない都市部」は糖分が減ったのではなく、摂取経路が変わっただけ
家計調査の食材データを「調理行動のアーカイブ」として読むと、都市化と郷土食の消長が見えてきます。砂糖消費量は、その最もわかりやすい指標の一つです。食の地域差をさらに掘り下げたい場合は、経済・家計のカテゴリから他の品目別ランキングも合わせて確認してみてください。
データ出典
- 総務省「家計調査」(2024年・都道府県庁所在市の二人以上世帯)
- e-Stat 経由で都道府県別に整備