育児をしている人のうち、働いている人の割合──育児中の就業率は、都道府県によって11ポイント以上の差があります。鳥取県では93.4%が就業しているのに対し、愛知県では82.0%。「共働き育児」が当たり前の県と、そうでない県が存在します。
その背景には何があるのか。夫の育児参加率や出生率との関係も含め、47都道府県のデータから分析します。
育児中の就業率ランキング
出典:総務省「社会生活基本調査」(2022年)1位は鳥取県(93.4%)。2位の山形県(93.0%)、3位の島根県(92.5%)、4位の石川県(91.6%)、5位の富山県(91.3%)と続きます。
上位を見ると明確な地域パターンがあります。
- 山陰: 鳥取(1位)・島根(3位)
- 北陸: 石川(4位)・富山(5位)・福井も上位
- 東北: 山形(2位)
これらの地域に共通するのは、三世代同居率の高さです。祖父母の育児サポートが得られやすい家族構造が、育児中の就業継続を支えています。
最下位は愛知県(82.0%)。北海道(82.2%)、奈良県(82.2%)、大阪府(82.7%)、埼玉県(83.0%)と続きます。愛知県はトヨタを中心とした製造業の集積地で世帯収入が高く、配偶者が専業主婦・主夫を選びやすい経済的余裕があることが背景の一つです。奈良・埼玉は大阪・東京のベッドタウンで、通勤時間の長さが育児との両立を難しくしている可能性があります。
NOTE
「育児をしている人の就業率」は、6歳未満の子どもがいる世帯の15歳以上人口のうち就業している割合です。男女合計の数値のため、女性の就業率とは異なります。
地域パターン──なぜ山陰・北陸が強いのか
上位に並ぶ山陰・北陸・東北には、共通する社会構造があります。
三世代同居率が高い: 山形県の三世代同居率は全国1位(約17%)です。祖父母が日常的に育児を担うことで、両親がフルタイムで働ける環境が整っています。鳥取・島根・富山・石川も同居率が全国平均を大きく上回ります。
待機児童が少ない: 山陰・北陸は人口規模が小さいため保育施設の需給バランスが比較的安定しており、都市部のような待機児童問題が起きにくい構造です。
共働きが「普通」の地域文化: 北陸では歴史的に繊維産業などで女性の就労が一般的でした。共働きが世代を超えた前提として根付いている地域では、就業継続を阻む心理的ハードルも低くなります。
逆に下位に並ぶ首都圏近郊・東海・近畿のベッドタウンでは、核家族化・長い通勤時間・待機児童の三重苦が育児中の就業を困難にしています。
夫の育児参加率との関係──相関は弱い
「育児中の就業率が高い県は、夫の育児参加率も高いのではないか」──直感的にはそう推測されます。しかしデータを見ると、両者の関係は単純ではありません。
出典:総務省「社会生活基本調査」(2022年)育児中の就業率は鳥取県93.4%〜愛知県82.0%で11.4ポイント差がある一方、夫の育児参加率は茨城県97.6%〜三重県91.0%で6.6ポイント差と地域差が小さくなっています。全体に90%を超えており、地域差は6.6ポイントと小さくなっています。
注目すべきは、育児中の就業率1位の鳥取県が夫の育児参加率では中位に留まる点です。鳥取の育児中就業率の高さは、夫の協力というよりも祖父母を含めた家族全体のサポート体制によるところが大きいことを示唆しています。
一方、夫の育児参加率1位の茨城県は、育児中の就業率では上位ではあるものの1位ではありません。夫が育児に参加していても、通勤の制約や保育インフラの不足があれば就業率の向上には直結しないということです。
NOTE
夫の育児参加率は「6歳未満の子がいる夫のうち育児をしている割合」です。育児の「質」や「時間」は反映されないため、参加率が高くても育児負担が均等とは限りません。
出生率との関係──共働きと子どもは両立するか
育児中の就業率が高い地域は出生率も高いのか。これは少子化対策を考えるうえで重要な問いです。
合計特殊出生率(2023年)の上位を見ると、沖縄県1.60、長崎県1.49、宮崎県1.49、鹿児島県1.48、熊本県1.47と九州・沖縄が上位を独占しています。一方、最下位は東京都0.99で、全国で唯一1.0を下回りました。
育児中就業率の上位(山陰・北陸・東北)と出生率の上位(九州・沖縄)はほとんど重なりません。共働きの普及度と出生率は、必ずしも連動していないことがデータから確認できます。
ただし、東京のように育児中就業率も出生率も低い地域がある一方、島根や福井のように「就業率が高く出生率もやや高い」県も存在します。出生率を左右する要因は住居費・教育費・地域の子育て支援・晩婚化など多岐にわたり、就業率はその一つにすぎません。
まとめ──地域のインフラと家族構造が決める
育児中の就業率の地域差は、個人の選択だけでなく、その地域が持つ構造的な条件に大きく左右されています。
- 三世代同居・近居の家族構造: 山陰・北陸・東北で就業率が高い最大の要因
- 保育インフラの需給バランス: 人口規模が小さい県ほど待機児童が少ない
- 通勤時間: 首都圏近郊・近畿のベッドタウンで就業率が低い一因
- 地域の文化・産業構造: 共働きの「当たり前度」が世代を超えて影響
夫の育児参加率は全国的に90%を超え地域差が小さい一方、育児中の就業率には11ポイントの差があります。この差を生んでいるのは個人の意識ではなく、保育・住居・交通・家族構成といった地域のインフラです。共働き育児の支援を考えるうえでは、こうした構造的な条件の地域差を踏まえた政策設計が求められます。
出典:総務省「社会生活基本調査」育児中の就業率・夫の育児参加率は2022年「社会生活基本調査」に基づいています。合計特殊出生率は2023年「人口動態統計」のデータです。 育児をしている人の就業率ランキング 夫の育児参加率ランキング 合計特殊出生率ランキング