「給料は増えたのに、なぜか楽にならない」──多くの人が感じているこの違和感には、データの裏付けがあります。
2025年の名目消費支出は前年比+4.6%と増えていますが、実質ベースではわずか+0.9%。支出額の増加のほとんどは物価上昇に食われています。実質賃金は2年連続で減少し、4人家族の負担増は年間約15.3万円に達したとの試算もあります。
しかし、物価高は「全品目が一律に値上がりした」わけではありません。2019年と2024年を10品目で比べると、9品目が増加した一方で冷凍ぎょうざだけが7.8%減少していました。消費者は品目を選別し、代替できるものから切り捨てていたのです。
NOTE
データは総務省「家計調査」の二人以上の世帯・全国平均・年額です。2019年はコロナ前の「平時」、2024年は物価高が定着した直近年として比較しています。品目ごとの消費額には数量変化と価格変化の両方が含まれます。
品目別にみる5年間の変化
10品目中9品目が増加。減少したのは冷凍ぎょうざだけです。
増加幅が最も大きいのはアイスクリーム(9,471円→12,549円、+32.5%)。次いでラーメン外食(7,332円→9,205円、+25.5%)、コーヒー(6,472円→8,033円、+24.1%)と、嗜好品・外食が上位を占めます。
金額ベースでは、すし外食は+1,569円(10.7%)と変化率は控えめですが、もともとの金額が大きいため絶対額の増加は目立ちます。ビールも+1,942円(18.0%)と、年間ベースでは無視できない増加です。
注目すべきは、外食の値上がりが自炊品目を大きく上回っている点です。ラーメン外食+25.5%に対し中華麺+19.3%、すし外食+10.7%に対し食パン+9.6%と、外食プレミアムが拡大しています。人件費・光熱費・テナント料の上昇が外食価格に転嫁されています。
変化率ランキング:最も値上がりした品目は?
トップのアイスクリーム(+32.5%)は、ワイン(+7.2%)の4.5倍のペースで値上がりしています。上位4品目(アイスクリーム・ラーメン外食・コーヒー・焼肉)はいずれも+20%超で、共通するのは原材料の輸入依存度が高いことです。
- アイスクリーム: 乳製品・砂糖・植物油脂の国際価格高騰
- コーヒー: コーヒー豆の国際相場が2019年比で約2倍に上昇
- 焼肉: 輸入牛肉・豚肉の価格上昇と円安のダブルパンチ
- ラーメン外食: 小麦・食用油・人件費のトリプル上昇
一方、ワイン(+7.2%)が比較的低いのは、低価格帯のチリワイン・オーストラリアワインへのシフトが進んだ影響と考えられます。
TIP
輸入依存度の高い品目ほど円安の影響を直接受けます。1ドル=150円台が続く環境では、同じ数量を輸入するだけで支払いが増える構造です。「嗜好品が高くなった」という体感は、円安と輸入物価高騰が重なった必然的な結果です。
エンゲル係数の推移が示す構造変化
品目別の変化を「家計全体」に引き上げると、エンゲル係数の推移が構造変化を物語っています。
エンゲル係数(消費支出に占める食料費の割合)は、2000年代から2010年代前半まで約23%台で安定していました。ところが2013年頃から上昇に転じ、2019年には**27.0%に。インフレが本格化した2022年以降はさらに加速し、2024年には27.8%**に達しました。
この約5ポイントの上昇が意味するもの。年間消費支出300万円の世帯であれば、食料費が23%(69万円)から27.8%(83.4万円)へ、年間14.4万円の増加に相当します。
WARNING
エンゲル係数の上昇は「生活水準の低下」を直接意味するわけではありません。高齢化による外食増加や食の高付加価値化も一因です。ただし、実質賃金が下がる中でのエンゲル係数上昇は、食費以外の支出を圧縮せざるを得ない状況を示唆しています。
エンゲル係数の上昇が続く背景には、2つの構造要因があります。
1つ目は「食料品の値上げ頻度」の変化。2022年以降、食品メーカーの値上げは年間2万品目を超えるペースが常態化しています。かつて「価格改定は数年に一度」だった日本の食品市場は、半年〜1年サイクルの値上げが当たり前になりました。
2つ目は「食費の下方硬直性」。家賃や通信費と異なり、食費は完全にゼロにはできません。節約には限界があり、物価上昇分をそのまま吸収せざるを得ないのです。
ぎょうざだけが「切り捨てられた」理由
10品目の中で唯一マイナスだった冷凍ぎょうざ(-7.8%)。「安くなった」のではなく、**「買わなくなった」**可能性が高い。冷凍ぎょうざの単価は2019年から2024年にかけてむしろ上昇しています。支出額が減っているということは、購入数量が減少したことを意味します。
考えられる要因は3つです。
1. 手作りシフト。ぎょうざは家庭で比較的簡単に作れる料理です。冷凍食品の値上げをきっかけに、手作りに回帰した世帯が増えた可能性があります。
2. 競合品目への代替。冷凍食品カテゴリ内で、冷凍ぎょうざから冷凍パスタや冷凍チャーハンなど他品目へシフトした可能性もあります。
3. 外食回帰。コロナ禍で伸びた冷凍食品需要が、外食の正常化とともに縮小。ぎょうざ専門店が多く、外食で食べる選択肢が復活しました。
冷凍ぎょうざの減少は、消費者が品目単位で取捨選択していることの証左です。すべてを一律に切り詰めるのではなく、「手作りできるものは手作り」「譲れないものには投資」という、メリハリのある消費行動が浮かび上がります。
NOTE
本記事で比較した「消費支出額の変化」は、数量変化と価格変化の両方を含んでいます。「金額が増えた=価格が上がった」ではなく、「買う量が増えた可能性」も含む点に注意が必要です。ぎょうざの減少のように、価格上昇で消費量が減るケースは複数の品目で起きている可能性があります。
都道府県別に見ると──物価高の地域差
物価高の影響は全国均一ではありません。消費支出は都道府県によっても異なり、食料費割合(エンゲル係数に近い指標)が高い県と低い県では、物価高の体感も異なります。
住む地域の消費構造を知ることで、物価高への対応策もより具体的になります。
47都道府県の消費支出ランキングを見る 47都道府県の食料費割合ランキングを見る 47都道府県の平均消費性向ランキングを見るまとめ
2019年と2024年の家計支出を10品目で比較した結果、物価高の「前と後」で明確な構造変化が確認できました。
- 9品目が増加、唯一の減少は冷凍ぎょうざ。消費者は品目単位で取捨選択している
- 外食の値上がりが顕著。ラーメン外食+25.5%・焼肉+23.7%と、自炊品目を上回るペースで上昇
- アイスクリーム+32.5%が最大。原材料の輸入依存度が高い品目ほど上昇率が大きい
- エンゲル係数は23%台→27.8%へ急上昇。食費以外の支出が圧迫される構造に変化
名目消費支出が増えても、実質賃金が追いつかなければ生活は楽になりません。「何が上がっているか」を品目単位で把握し、代替可能な支出から見直すことが、物価高時代の家計防衛の出発点です。
データ出典
- 総務省 家計調査 — 二人以上の世帯・全国平均・年額(2019年・2024年)