「市」と「町」と「村」。この順に人口が多いと考えるのが自然な感覚です。ところが実際の人口を並べてみると、その順序はあっさり崩れます。2020年の国勢調査で最も人口の多い町は5万人を超え、全国792ある市のうち300以上を上回っていました。逆に、最も人口の少ない市は3千人に届きません。市・町・村という呼び名は、人口の大小をそのまま表しているわけではないのです。
最大の町は300以上の市より大きい
まず、人口の多い町・村と、人口の少ない市を並べて比べてみます。
最も人口の多い町は広島県府中町の51,155人です。続く愛知県東浦町が49,596人、茨城県阿見町が48,553人、神奈川県寒川町が48,348人、福岡県粕屋町が48,190人と、5万人前後の町が並びます。一方、市のなかで最も人口が少ないのは歌志内市の2,989人でした。夕張市(7,334人)や三笠市(8,040人)など、1万人に満たない市が続きます。府中町の5万人は、全国792市のうち304市を上回る規模です。つまり「町だから小さい」「市だから大きい」という思い込みは、上位と下位が入り混じるこの一覧の前ではまったく通用しません。都市への人口集中が進むなか、埼玉が昼夜人口比率で最下位になるような郊外の膨張が、町を大きく育ててきました。
都道府県別の総人口ランキングを見る大きな町は大都市圏の周りにある
次に、各県で最も人口の多い町・村がどれくらいの規模かを地図で見ます。
色が濃いのは広島・愛知・茨城・神奈川・福岡・埼玉といった、大都市圏を抱える県です。府中町は広島市に、東浦町や東郷町は名古屋圏に、寒川町は横浜・藤沢の近くにと、いずれも中心都市のすぐ隣で人口を増やしてきました。大きな町の正体は、都市のベッドタウンとして発展した「町のままの郊外」です。反対に、地方の県では最も大きな町でも数千人から1万人台にとどまり、地図の色は薄くなります。町の人口規模は、その町がどれだけ大都市圏に近いかを映しているのです。
総人口の都道府県ランキングを見るなぜ町のまま大きくなったのか
人口が5万人近くあっても市にならないのには、理由があります。
NOTE
市になるには一般に人口5万人以上などの要件を満たす必要がありますが、市制の施行は自治体自身の選択でもあります。府中町のように、財政や行政サービスの都合から、あえて町のままでいることを選ぶ自治体もあります。単独では要件を満たしても、周辺との合併に至らなかった町も少なくありません。
つまり大きな町は、要件を満たせなかったのではなく、市になる必要や機会がなかった町です。隣が大きな市であれば、生活圏はその市と一体化しており、独立した市になる実益が乏しいという事情もあります。名称は歴史と選択の結果であって、都市としての規模や機能を直接示すものではありません。
小さな市はかつての大都市
一方、人口が数千人しかない市の多くには、共通の背景があります。
TIP
最も人口の少ない歌志内市や、夕張市・三笠市・赤平市は、いずれもかつて石炭産業で栄えた北海道の旧炭鉱都市です。炭鉱がにぎわった時代には数万人を抱え、市制を施行しました。その後の閉山で人口が激減しても、市の地位はそのまま残りました。
これらの市は「小さいのに市」なのではなく、「かつて大きかった名残として市」なのです。市という名称は、その自治体がもっとも栄えた時代の記録でもあります。人口の少ない市を見るときは、現在の規模だけでなく、そこにたどり着くまでの歴史を重ねて読むと、地域の歩みが見えてきます。大都市圏の郊外で人口を増やした町と、産業を失って縮んだ市。この二つが人口の順位で交わるところに、日本の地域の栄枯盛衰が凝縮されています。同じ国のなかで、片方では町が市の規模に育ち、もう片方では市が村ほどの人口に縮む。人口の動きは、行政の区分よりもずっと速く地域の姿を変えていきます。
数字を読むときの注意
市・町・村の名称を、そのまま都市の格や便利さと結びつけるのは早計です。
WARNING
同じ「市」でも、政令指定都市から人口3千人の市までその幅は極めて大きく、「町」も5万人から数百人までさまざまです。自治体の名称は制度上の区分であり、人口規模・都市機能・生活の便利さを一律に表すものではありません。
町か市かではなく、実際の人口や産業、大都市圏との距離で地域を見ることが、統計を正しく読む姿勢につながります。名称の思い込みを一度外すと、日本の自治体の姿はより立体的に見えてきます。
まとめ
この記事でわかったことを整理します。
人口で並べると、最大の町は5万人を超えて多くの市を上回り、最小の市は3千人を切ります。大きな町は大都市圏の郊外で育った「町のままの街」であり、小さな市はかつて栄えた時代の名残でした。市・町・村という区分は人口規模ではなく制度と歴史の産物です。人口がこれからどう動くかは2050年に人口が4割減る県や人口動態のテーマページからも確認できます。名称の奥にある人口の実像を知ることは、地域を正しく理解する第一歩です。
データ出典
- e-Stat(政府統計の総合窓口)国勢調査「市区町村別人口」(2020年)
- 市区町村(県名を除いた市・町・村・特別区)単位で集計し、政令指定都市の行政区は市に含めています。