「求人が多い地域は失業者が少ない」──当然に思えるこの関係は、実はすべての都道府県で成立しているわけではない。しかし北陸3県は、求人倍率・失業率の両方で全国トップクラスの「雇用最強」を実現している。
なぜ福井県は求人倍率1.94倍(全国1位)でありながら、失業率も2.9%(全国2位の低さ)を達成できるのか。一方でなぜ沖縄県は求人倍率0.99倍(最下位)かつ失業率5.5%(全国最高)という「最弱」に陥るのか。2020年の都道府県別データから構造を解析する。
NOTE
完全失業率=「仕事を探しているが就いていない人(完全失業者)÷ 労働力人口 × 100」。仕事を探していない人(非労働力人口)は含まない。2020年はコロナ禍の影響で全国的に悪化した年のデータ。
完全失業率ランキング──沖縄5.5%、島根2.7%
1位は沖縄県(5.5%)。観光業・サービス業への依存度が高く、コロナ禍で大きな打撃を受けた。2位に青森県・福岡県(4.6%)、4位に大阪府(4.5%)と続く。
一方、最も低いのは島根県(2.7%)。次いで福井県(2.9%)、富山県・三重県(3.1%)と、北陸・東海地方が下位に並ぶ。製造業の雇用吸収力が高い地域ほど失業率は低い傾向が見て取れる。
全国マップ
マップにすると「太平洋ベルト」上の都市圏(大阪・福岡)と北東北・沖縄に高失業率が集中する構図が浮かぶ。北陸(福井・富山・石川)が一帯で低いのも特徴的だ。
47都道府県の完全失業率ランキングをもっと見る失業率 × 有効求人倍率──雇用環境の4象限
散布図で2つの指標を組み合わせると、都道府県の雇用環境が4象限に分かれる。
- 右下(求人倍率高・失業率低)=好環境: 福井県・島根県・富山県など北陸・山陰。製造業の雇用基盤が厚く、求職者に対して仕事が充分にある
- 左上(求人倍率低・失業率高)=厳しい環境: 沖縄県が突出。大阪・福岡・青森も左上寄りで、観光業・サービス業依存の脆弱性が出ている
- 左下(求人倍率低・失業率も低め): 神奈川・千葉などベッドタウン県。東京で働く人が多く、地元の求人構造が統計に表れにくい
北陸が「右下」に集中するのは、地場の製造業(繊維・眼鏡・機械部品など)が安定的な雇用を生み出しているためだ。一方で同地域では人手不足が深刻で、「求人が多いのに応じる人がいない」状態も進行している。
TIP
「求人倍率が高い=雇用が良い」とは限らない。高い求人倍率は同時に労働力不足を示し、長期的には産業の維持・後継ぎ問題とも絡む。北陸の高求人倍率は経済の強さの裏返しであり、人口減少との競争でもある。
完全失業率の推移──コロナ禍前後の変化
全国の完全失業率は、1975年の2.3%から上昇を続け、2010年に6.4%のピークに達した。その後改善傾向に入り、2019年には2.4%まで低下。しかし2020年はコロナ禍の影響で3.8%に悪化した。
2020年の都道府県別データは、コロナ禍の産業別打撃が如実に反映されている。観光依存度が高い沖縄・大阪・福岡の上昇幅が大きく、製造業基盤が厚い地域(北陸・東海)は相対的に安定を保った。
「率」と「数」のギャップ──東京の失業者は島根の24倍
失業率では30位だった東京都が、失業者数では1位の22.5万人。大阪府17.3万人、神奈川県15.9万人と続き、上位10都道府県で全国の失業者の約7割を占める。
失業率2位の青森県は失業者数では25位(2.9万人)にとどまる。逆に失業率が低めの愛知県でも失業者数は12.3万人(5位)。「率が低くても、母数が大きい大都市圏には多くの失業者がいる」という構造が鮮明だ。
最も少ないのは島根県(約9,300人)。東京の約24分の1だが、県の労働力人口規模も大きく違う。
失業率ランキングをもっと見る有効求人倍率──「仕事の選びやすさ」の地域差
有効求人倍率は「求職者1人に対して何件の求人があるか」を示す指標。1位の福井県は1.94倍──求職者1人に約2件の求人がある状態。島根県(1.91倍)、新潟県(1.75倍)と地方の製造業県が上位に入る。
最下位は神奈川県(0.88倍)。千葉(0.96倍)、沖縄(0.99倍)と首都圏の一角が低い水準だ。人口が多く求職者も集中するため、1人あたりの求人が少なくなる構造的な要因がある。
男女別の失業率格差
ほぼすべての都道府県で男性の失業率が女性を上回っている。全国平均で男性4.2%に対し女性3.2%、約1ポイントの差だ。
男女差が最も大きいのは秋田県(男4.9%、女3.0%、差1.9ポイント)。沖縄県(差1.8ポイント)、青森県・徳島県(差1.7ポイント)と地方県で差が開く傾向がある。
一方、東京都(差0.6ポイント)や愛知県(差0.6ポイント)など大都市圏では男女差が小さい。サービス業の多様な雇用機会が、女性の就業機会を下支えしていることが背景にある。
WARNING
完全失業率は「仕事を探している人」のみカウントする。専業主婦・育児休業者・就職をあきらめた人は「非労働力人口」として除外されるため、女性の実態の雇用困難はこの指標では過小評価される可能性がある。
まとめ──雇用の強さは産業構造で決まる
失業率・求人倍率・失業者数・男女差の4指標から、47都道府県の雇用構造を整理する。
北陸が「雇用最強」を実現できるのは、歴史的に積み上げられた製造業の産業基盤が安定した雇用を生み出し続けているからだ。一方で観光業依存の地域は外部ショックに弱く、2020年のコロナ禍はその脆弱性を数字として示した。
失業率の地域差は「若者の意識」や「景気」だけでは説明できない。産業構造・人口動態・都市構造が複雑に絡む構造的な問題であることが、データから浮かび上がっている。