都道府県別2次活動の平均時間（有業者・女）ランキング（2021年度）

現代日本の女性労働における最も深刻な課題の一つが、有業女性の2次活動時間の地域格差です。2021年度の調査によると、島根県・長崎県の546分から愛媛県の492分まで、実に54分もの格差が存在します。この数値は単なる時間の違いを超えて、地域の男女共同参画の進展度、社会支援体制の充実度、働き方改革の効果、そして女性の社会参画を支える環境整備の質を反映する重要な社会指標として機能しています。

2次活動とは家事・育児・介護などの無償労働を指し、有業女性がこれらの活動に費やす時間は、その地域における女性の社会的地位、家庭内役割分担の実態、そして社会インフラの整備状況を如実に表しています。この格差は女性の継続就労、キャリア形成、生活の質、そして地域の持続可能な発展に深刻な影響を与える構造的問題となっているのです。

概要

2次活動の平均時間（有業者・女）とは、就業している女性が家事・育児・介護・買い物などの無償労働に費やす1日当たりの時間を示す指標で、女性の労働環境と社会参画の実態を客観的に評価する重要な社会指標です。この数値は地域の男女共同参画の進展度、社会支援サービスの充実度、働き方改革の効果、家庭内役割分担の実態、そして女性の社会進出を支える環境整備の質を総合的に反映しています。

この指標の社会的重要性は多面的です。まず、男女共同参画指標として、地域の性別役割分担の実態と男女平等の進展度を定量的に測定できます。次に、労働政策評価指標として、女性の働きやすさと継続就労を支える環境の質を評価します。さらに、社会保障政策指標として、保育・介護サービスの充実度と地域支援体制の効果を示します。

2021年度の全国平均は約520分で、この数値を基準として各都道府県の相対的な位置づけが明確になります。最上位の島根県・長崎県546分と最下位の愛媛県492分の間には54分という深刻な格差が存在し、これは日本社会における女性の労働環境の地域間不平等を象徴する重要な課題となっています。この格差は女性の生活の質、キャリア形成の機会、そして地域の人材活用効率に深刻な影響を与える構造的問題です。

ランキング表示

上位県と下位県の比較

上位5県の詳細分析

島根県（1位：546分、偏差値71.1）

島根県は有業女性の2次活動時間546分という全国最高の数値を記録し、偏差値71.1という突出した値を示しています。この結果は中国地方の地理的条件と社会構造が相互に作用した結果です。県土の約8割を占める中山間地域では公共交通機関が限定的で、日常生活に必要な移動時間が長くなり、買い物や各種手続きに要する時間が増加しています。

島根県の社会構造の特徴は、三世代同居率の高さと伝統的な家族観の残存です。高齢者の介護負担が女性に集中する傾向が強く、共働き世帯でも家事・育児・介護の大部分を女性が担っています。また、第一次産業従事者が多く、季節的な労働パターンにより男性の家事参加が限定的となっています。保育サービスや高齢者支援サービスへのアクセスも地理的制約により困難で、女性の無償労働負担が増大しています。

長崎県（1位：546分、偏差値71.1）

長崎県は島根県と同率で546分を記録し、離島部を多く抱える地理的特性が大きく影響しています。対馬、壱岐、五島列島をはじめとする離島部では、生活インフラの制約により日常生活に要する時間が本土部と比較して大幅に増加しています。商業施設、医療機関、行政サービスへのアクセスが限定的で、女性の家事・育児負担が重くなっています。

長崎県の産業構造も2次活動時間の長さに影響しています。水産業、農業などの第一次産業従事者が多く、男性の労働時間が不規則で家事分担が困難な状況があります。また、造船業などの製造業でも長時間労働が一般的で、家事・育児の負担が女性に偏る傾向が強くなっています。県内の保育サービスや高齢者支援サービスも地域格差が大きく、特に離島部では十分なサービス提供が困難な状況です。

福井県（3位：543分、偏差値68.7）

福井県は共働き率全国トップクラスでありながら、有業女性の2次活動時間が543分という高い数値を示しています。これは女性の就業率の高さと家事負担の重さが同時に存在する「ダブルバーデン」の典型例です。製造業が盛んで男性の長時間労働が常態化しており、家事・育児の分担が女性に偏る構造的問題があります。

福井県の地理的条件も2次活動時間の長さに影響しています。車社会で移動時間が長く、買い物や子どもの送迎などに要する時間が増加しています。また、三世代同居率が高く、高齢者の介護負担が女性に集中する傾向があります。県内の保育サービスは比較的充実していますが、延長保育や病児保育などの多様なニーズへの対応が不十分で、女性の負担軽減に十分つながっていない状況です。

沖縄県（4位：541分、偏差値67.1）

沖縄県は独特の文化的背景と地理的条件により、541分という高い数値を示しています。沖縄の伝統的な家族観では女性が家庭の中心的役割を担うことが期待され、就業している女性でも家事・育児・介護の主要な担い手となっています。また、大家族傾向が強く、子育てや高齢者介護の負担が女性に集中しやすい社会構造があります。

沖縄県の産業構造も2次活動時間に影響しています。観光業が主要産業で、不規則な勤務時間や季節変動により、家事時間の調整が困難な状況があります。また、住宅密集地域では狭い住空間での家事効率の制約があり、日常的な家事に要する時間が長くなっています。保育サービスの待機児童問題も深刻で、女性の就業継続と家事負担の両立が困難な状況が続いています。

岩手県（5位：540分、偏差値66.3）

岩手県は東日本大震災からの復興過程において、女性の役割が拡大し、540分という高い数値を示しています。広大な県土と人口密度の低さにより、日常生活に必要な移動時間が長く、買い物や各種手続きに要する時間が増加しています。また、過疎化の進行により生活サービスが縮小し、家事負担が増大しています。

岩手県の産業構造は農業中心で、季節労働による男性の家事参加の制約があります。震災復興過程では女性が地域コミュニティの中心的役割を担い、地域活動と家事・育児の両立が求められています。保育サービスや高齢者支援サービスの復旧・拡充は進んでいますが、人口減少により サービス提供体制の維持が困難な地域も存在します。

下位5県の詳細分析

愛媛県（47位：492分、偏差値27.8）

愛媛県は有業女性の2次活動時間492分で全国最下位となり、偏差値27.8という低い値を示しています。瀬戸内海の温暖な気候により、洗濯物の乾燥時間短縮や暖房費削減など、生活負担の軽減効果があります。また、柑橘農業を中心とした家族経営農業では、作業分担が比較的効率化されており、性別役割分担の固定化が他地域ほど強くありません。

愛媛県の産業構造も2次活動時間の短さに貢献しています。製造業の発達により安定した就労環境が確保され、男性の働き方も比較的規則的で家事分担への参加が可能となっています。また、商業施設の集約化により効率的な買い物が可能で、日常生活に要する時間が短縮されています。県内の保育サービスや高齢者支援サービスも比較的充実しており、女性の無償労働負担の軽減に寄与しています。

北海道（46位：498分、偏差値32.6）

北海道は札幌圏への人口集中により、効率的な生活環境が整備され、498分という低い数値を実現しています。大型商業施設の発達によりまとめ買いが可能で、買い物に要する時間が短縮されています。また、比較的新しい住宅が多く、家事効率の良い住環境が整備されています。

北海道の社会構造の特徴は、本州と比較して伝統的な性別役割分担の固定化が弱いことです。開拓時代からの男女協働の伝統があり、家事分担への男性の参加に対する抵抗感が少ない地域性があります。また、車社会の発達により効率的な移動が可能で、日常生活に要する時間が短縮されています。保育サービスや高齢者支援サービスも都市部を中心に充実しており、女性の就業継続を支える環境が整備されています。

東京都（45位：503分、偏差値36.6）

東京都は公共交通機関の発達により効率的な移動が可能で、503分という低い数値を実現しています。24時間営業の商業施設やネットショッピングの普及により、買い物時間の短縮と効率化が図られています。また、保育サービスの充実により待機児童問題の改善が進み、女性の就業継続と家事負担の両立が容易になっています。

東京都の労働環境の特徴は、多様な働き方の選択肢があることです。フレックスタイム制度やテレワークの普及により、家事・育児との両立が可能な働き方が実現されています。また、コンパクトな住空間での効率的な家事が可能で、家事に要する時間が短縮されています。家事代行サービスやベビーシッターサービスなどの民間サービスも充実しており、女性の無償労働負担の軽減に寄与しています。

和歌山県（44位：504分、偏差値37.4）

和歌山県は関西圏への近接性により、504分という比較的低い数値を実現しています。大阪圏の商業サービスやレジャー施設を利用できるため、県内での生活サービスへの依存度が低く、効率的な生活が可能となっています。また、果樹農業を中心とした効率的な農業経営により、時間管理の改善が図られています。

和歌山県の気候条件も2次活動時間の短さに貢献しています。温暖な気候により、洗濯物の乾燥時間短縮や暖房費削減など、日常的な家事負担の軽減効果があります。また、関西圏の工業地帯への通勤により安定した就労環境が確保され、男性の働き方も比較的規則的で家事分担への参加が可能となっています。

兵庫県（43位：506分、偏差値39.0）

兵庫県は関西経済圏の一角として多様な就労選択肢があり、506分という比較的低い数値を実現しています。神戸・姫路を中心とした交通網の発達により効率的な移動が可能で、日常生活に要する時間が短縮されています。また、商業施設の充実により便利な生活環境が整備されています。

兵庫県の教育・保育環境の充実も2次活動時間の短さに貢献しています。子育て支援サービスが比較的充実しており、女性の就業継続と家事・育児の両立が容易になっています。また、関西圏の一体的な労働市場により、働き方の選択肢が多様で、家事・育児との両立が可能な就業形態を選択しやすい環境があります。

地域別の特徴分析

社会的・経済的影響

島根県・長崎県546分と愛媛県492分という54分の格差は、現代日本の女性労働における深刻な地域間不平等を浮き彫りにしています。この格差は単純な時間の違いを超えて、地域の男女共同参画の進展度、女性の社会参画機会、家庭内役割分担の実態、そして女性の生活の質に直結する根本的な社会問題を反映しています。

高い2次活動時間を示す地域では、有業女性が就業と家事・育児・介護の両方を担う「ダブルバーデン」の状況が深刻化しています。これらの地域では女性のキャリア形成機会の制約、継続就労の困難、心身の健康への悪影響、そして出産・育児への消極的態度という悪循環が生じています。また、女性の社会参画が制限されることで、地域の人材活用効率が低下し、経済発展の阻害要因となっています。

一方、低い2次活動時間を示す地域では、効率的な生活環境と男女共同参画の進展により、女性の社会参画が促進されています。これらの地域では女性の継続就労率が高く、キャリア形成機会が豊富で、出生率の維持・向上にも寄与しています。また、女性の社会参画により地域の多様性と創造性が向上し、持続可能な地域発展の基盤となっています。

この格差は次世代への影響も深刻です。高い2次活動時間の地域では、母親の家事負担の重さが娘の将来設計に影響を与え、性別役割分担の固定化が世代を超えて継承される傾向があります。また、女性の社会参画機会の制約により、地域の人材流出と少子高齢化の加速という長期的な課題が生じています。

対策と今後の展望

有業女性の2次活動時間の地域格差解消には、社会構造の根本的な変革と総合的な政策展開が必要です。高時間地域では男女共同参画の推進と社会支援体制の充実、低時間地域ではその成功事例の他地域への展開が重要な課題となっています。

高時間地域では、保育・介護サービスの拡充、男性の家事・育児参加促進、働き方改革の推進、公共交通機関の整備などが重要な対策となります。島根県では「しまね働き方改革推進計画」により男性の育児休業取得促進、長崎県では離島部での保育サービス充実、福井県では企業の働き方改革支援などが特徴的な取り組みです。

低時間地域では、その成功要因の分析と他地域への応用が重要です。愛媛県の柑橘農業における家族経営の効率化、北海道の男女協働文化、東京都の多様な働き方の選択肢、関西圏の一体的な生活圏形成などの成功事例を他地域に展開することが効果的です。

全国的な取り組みとしては、男女共同参画社会基本法の実効性向上、働き方改革関連法の地域格差を考慮した運用、保育・介護サービスの全国的な質的向上、そして女性活躍推進法の地域特性に応じた展開が継続的に進められています。特に、Society 5.0の実現に向けた技術革新により、地域格差を考慮した効率的で持続可能な社会支援システムの構築が期待されています。

統計データの基本情報と分析

分布特性の詳細分析

2021年度のデータは、女性労働における地域特性の極端な多様性を鮮明に示しています。全国平均約520分に対して中央値は約517分となり、分布の右側にわずかな偏りがあることを示しています。これは島根県・長崎県をはじめとする上位県の高い数値が全体平均を押し上げている一方、多くの都道府県が平均前後に集中している結果です。標準偏差約15分は相対的に大きく、都道府県間の女性労働環境格差が極めて顕著であることを反映しています。

偏差値の幅が27.8から71.1と極めて広範囲に分布していることは、地理的条件、社会構造、産業構造、文化的背景の違いが複合的に作用した結果です。上位県と下位県の間には明確な断層があり、日本の女性労働における地域間不平等の深刻さを浮き彫りにしています。

まとめ

2021年度の有業女性2次活動時間調査が明らかにしたのは、現代日本の女性労働における極めて深刻な地域間格差です。島根県・長崎県546分から愛媛県492分まで、54分という格差は数字以上の意味を持ちます。これは地域の男女共同参画の進展度、女性の社会参画機会、働き方改革の効果、そして女性の生活の質を反映する総合的な社会問題なのです。

この格差の背景にあるのは、地理的条件、産業構造、社会構造、文化的背景、そして政策展開の違いという複合的な要因です。地方部では伝統的な性別役割分担の残存と社会支援体制の不足により高い数値が記録されている一方、都市部では効率的な生活環境と多様な働き方により低い数値が実現されています。

重要なのは、この格差が女性の生活の質、キャリア形成機会、地域の持続可能性に直結することの認識です。適切な男女共同参画の推進は女性の社会参画促進、地域の人材活用効率向上、持続可能な地域発展に不可欠な要素です。各地で進められている働き方改革、社会支援体制の充実、男性の家事・育児参加促進は、格差解消への道筋を示しています。

各都道府県が置かれた地理的・社会的条件を正確に把握し、それぞれに適した男女共同参画政策と女性活躍推進戦略を構築することが重要です。この記事が、より公平で持続可能な女性労働環境の実現に向けた議論のきっかけとなれば幸いです。