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耕作放棄地42.3万ha、なぜ東北に集中?

日本の農業は、静かに、しかし確実に縮小しています。

農林業センサス(2015年)によると、全国の耕作放棄地面積は42.3万ha に達しました。これは埼玉県の面積に匹敵する広さの農地が、耕す人がいないまま放置されていることを意味します。農業就業人口(販売農家)は約210万人 まで減少し、その多くが65歳以上の高齢者です。

本記事では、耕作放棄地面積・農地転用面積・耕地面積比率・農業就業人口・農家1戸あたり耕地面積の5つの指標から、都道府県ごとの農地消失の実態を可視化します。

NOTE

耕作放棄地とは、農林業センサスで「以前耕作していた土地のうち、過去1年以上作物を作付けせず、今後数年の間も再び耕作する意思のない土地」と定義されています。放棄からの経過年数や再耕作の可能性は問わないため、草が生えた程度の農地から、木が生い茂り山林化した農地まで幅広く含まれます。

耕作放棄地面積マップ

まず、47都道府県の耕作放棄地面積を一覧できるタイルマップを見てみましょう。色が濃いほど放棄面積が大きいことを示します。

耕作放棄地面積(都道府県別) 出典:e-Stat 社会・人口統計体系

東日本、とりわけ東北・北関東に濃い色が集中していることが読み取れます。福島県は2万5,226ha で全国1位です。東京電力福島第一原子力発電所の事故による避難区域の影響が大きく、住民が長期間戻れなかった水田や畑がそのまま放棄地としてカウントされ続けています。2位の茨城県(2万3,918ha)、3位の千葉県(1万9,062ha)も関東平野の広大な農地を抱えるがゆえに、放棄面積の絶対値が大きくなっています。東北・北関東の色の濃さは、単に高齢化が進んでいるからというより、もともと耕地面積の母数が大きい平野部を抱えていることの裏返しでもあります。一方で近畿・四国の内陸県は色が薄く、農地の規模自体が小さいために放棄面積も相対的に抑えられていることがわかります。

耕作放棄地面積 上位5・下位5道県

耕作放棄地面積 上位5・下位5道県 出典:e-Stat 社会・人口統計体系

上位5道県(福島・茨城・千葉・北海道・岩手)で全国合計42.3万haの約24.7%を占めています。福島県と茨城県はいずれも2万haを超えており、突出しています。

注目すべきは、北海道が4位に入っている点です。北海道は耕地面積そのものが全国最大であるため、放棄面積の絶対値も大きくなります。一方で下位側を見ると、東京都(956ha)・大阪府(1,671ha)・福井県(1,974ha)・滋賀県(2,276ha)・沖縄県(2,445ha)が最小水準にとどまっています。これらの都府県は市街化が進んで農地そのものが少ないため、放棄地の絶対量も自然と小さくなります。上位と下位の差はおよそ26倍にのぼり、耕作放棄地問題が「日本全体で一様に進む問題」ではなく、農地面積の大きい平野部に偏って現れる問題であることを示しています。

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農業就業人口の現状

農地を耕す人がいなければ、放棄地は増え続けます。農業就業人口(販売農家)の都道府県別データを見てみましょう。

農業就業人口 上位5・下位5道県 出典:e-Stat 社会・人口統計体系

北海道が約9.7万人でトップ、次いで茨城県(約9.0万人)、長野県(約8.3万人)、新潟県(約7.9万人)、福島県(約7.8万人)と続きます。全国合計は約210万人 ですが、この数字は2010年センサスの約261万人から5年間で約50万人も減少した結果です。年率換算すると毎年10万人前後のペースで農業就業人口が失われてきたことになります。

下位側は東京都(約1.1万人)・大阪府(約1.5万人)・石川県(約1.8万人)・福井県(約1.9万人)・奈良県(約1.9万人)で、都市部や住宅地化が進んだ県ほど農業就業人口が少ない傾向がはっきり出ています。農業就業人口が多い県は、耕作放棄地も多い傾向があります。これは一見矛盾するようですが、もともと農地面積が大きい県ほど、一部の農地で担い手が見つからないケースが増えるためです。母数が大きいほど、担い手不足の影響を受ける農地の絶対量も増えるという構造だと考えられます。

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農業就業人口と耕作放棄地の関係

この関係を散布図で確認します。横軸が農業就業人口、縦軸が耕作放棄地面積です。

農業就業人口 vs 耕作放棄地面積 出典:e-Stat 社会・人口統計体系

右上に位置する茨城県・北海道・福島県は、就業人口が多いにもかかわらず放棄面積も大きい県です。農地のスケールが大きいため、高齢化による離農の影響が面積としてそのまま現れやすいことを示しています。とりわけ福島県は、就業人口の水準(全国5位)に対して放棄面積が突出して大きく(全国1位)、原発事故の影響が統計にも明確に表れています。

一方、左下に位置する東京都大阪府・富山県・福井県などは、就業人口・放棄面積のいずれも全国最小水準にとどまっています。もともと農地そのものが少ないため、両指標とも小さくなる構造です。両者の関係を見ると、就業人口が多い県ほど放棄面積も大きくなる緩やかな右肩上がりの傾向が確認できますが、ばらつきも大きく、福島県のように就業人口の水準から予想される値を大きく超えて放棄面積が膨らんでいる外れ値も存在します。

WARNING

この散布図が示すのは「就業人口が多い県ほど放棄面積も大きい」という相関関係であり、就業人口の多さが放棄地を「生み出している」という因果関係ではありません。真の要因は農地面積という第三の変数(交絡因子)であり、農地が広い県ほど就業人口も放棄面積もどちらも大きくなりやすいと考えるのが妥当です。福島県のように、この相関から大きく外れる県にこそ、原発事故のような個別の構造的要因が隠れています。

NOTE

耕作放棄地面積と農業就業人口のデータはいずれも2014年(農林業センサス2015年公表)時点のものです。2020年センサスでは「耕作放棄地」の定義が変更されたため、時系列比較には注意が必要です。

農地集約化の進捗

担い手不足に対する処方箋のひとつが、農地の集約化です。少ない農家でより広い面積を効率的に耕す「規模拡大」は、日本農業の持続可能性を左右する重要なテーマです。

農家1戸あたりの耕地面積を見ると、集約化の進展に大きな地域差があることがわかります。

農家1戸あたり耕地面積 上位5・下位5道県 出典:e-Stat 社会・人口統計体系

北海道は1戸あたり約30.3ha と、2位の青森県(約4.0ha)の7倍以上です。大規模畑作・酪農経営が集約を牽引しています。3位秋田県(約3.9ha)、4位富山県(約3.3ha)、5位宮城県(約3.0ha)と東北・北陸地方が上位を占めるのは、水田農業の大規模化が進んでいるためです。

一方、下位側は大阪府(約0.6ha)・東京都(約0.6ha)・山梨県(約0.8ha)・神奈川県(約0.8ha)・奈良県(約0.9ha)と、都市近郊県が並びます。これは都市農業が小規模な市民農園型であることを反映しています。

全国平均(47都道府県の単純平均)は約2.4ha ですが、北海道を除くと約1.8haとなり、EU諸国(平均17ha前後)やアメリカ(平均180ha前後)と比べると依然として零細な構造が続いています。

TIP

農家1戸あたり耕地面積は「集約化の進展」の代理指標になります。北海道約30.3haは2位青森県の約4.0haの7倍超です。集約化が進んでいる地域ほど担い手不足への耐性が高く、農地の放棄面積の相対的な抑制につながると考えられます。

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農地転用の圧力

耕作放棄と並行して、農地の「転用」も農地減少の大きな要因です。2022年度の都道府県別農地転用面積を見ると、全国で1万5,414ha が宅地や商業用地などに転用されています。

上位は茨城県(1,025ha)、北海道(876ha)、埼玉県(679ha)、長野県(631ha)、愛知県(602ha)です。都市近郊県でインフラ開発や宅地化の圧力が強いことがうかがえます。

転用は法律(農地法)で規制されているものの、年間1.5万haペースで農地が恒久的に失われている事実は重いといえます。耕作放棄地は再び農地に戻せる可能性がありますが、宅地やショッピングセンターに転用された農地は二度と農地には戻りません。耕地面積比率(都道府県面積に占める耕地の割合)で見ても、最も高い茨城県26%から最も低い東京都2.8%まで9倍以上の開きがあり、都市化の圧力が農地に与える影響の大きさがうかがえます。

まとめ

耕作放棄地と農業就業人口のデータが示すのは、日本農業の構造的な縮小です。

この記事でわかったこと

耕作放棄地42.3万haは、単なる「使われていない土地」ではありません。農業の担い手がいないために、地域の景観が荒廃し、鳥獣害が増加し、防災機能が低下するという複合的な問題を引き起こしています。

北海道のような大規模集約型の農業は一つの解ではありますが、中山間地域ではそもそも集約が困難な場合が多くあります。スマート農業やシェアリング型の農業経営、新規就農支援など、地域ごとの実情に合った対策が求められます。

データ出典

本記事のデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)を基に作成しています。