「シウマイ弁当」と聞いて崎陽軒を思い浮かべる人は多いはずです。実は神奈川県は、しゅうまいの消費支出額で全国1位というだけでなく、ハムと紅茶でも同時に全国トップに立っています。1つの県が異なる系統の食品で3冠を取るのは珍しく、家計調査の502品目を見渡してもそう多くはありません。
総務省「家計調査」の2024年データ(都道府県庁所在市、二人以上世帯)を確認すると、神奈川県(横浜市)はハム消費支出額5,782円、しゅうまい消費支出額3,059円、紅茶消費支出額1,780円でいずれも47都道府県中1位でした。ハムは洋食文化、しゅうまいは中華料理、紅茶は喫茶文化と、出自の異なる3つの食が同じ街で首位を取っているのがこの記事の出発点です。この記事では、それぞれの数字を見た上で、なぜ横浜という港町にこの組み合わせが根付いたのかを読み解きます。
NOTE
本記事の数値は総務省「家計調査(品目別)」2024年、都道府県庁所在市(神奈川県は横浜市)の二人以上世帯における年間消費支出額です。世帯当たりの支出額であり、購入量そのものではありません。県内の他都市を含む集計ではなく、県庁所在市の家計を代表値として扱っています。
ハム — 全国1位5,782円、洋食文化の土台
神奈川県のハム消費支出額は5,782円で全国1位でした。2位の茨城県(全国2位・5,698円)とは僅差ですが、3位の和歌山県(全国3位・5,372円)、4位の愛知県(全国4位・5,368円)、5位の東京都(全国5位・5,337円)と続く上位グループの中でも頭一つ抜けています。最下位は沖縄県(全国47位・2,589円)で、神奈川県の半分以下にとどまりました。
横浜は明治期に開港した港町として、外国人居留地を通じて西洋の食肉加工技術が最も早く持ち込まれた土地の一つです。ハム・ソーセージの製造は横浜近郊で盛んになり、洋食店やパン食文化とともに家庭にハムを取り入れる習慣が根付きました。上位に茨城・愛知・東京といった大都市圏や食肉産業の集積地が並ぶ一方、沖縄県のように豚肉料理そのものは豊富でも加工ハムの消費が少ない地域とは対照的な結果です。
しゅうまい — 全国1位3,059円、2位の1.7倍
しゅうまい消費支出額は神奈川県が3,059円で圧倒的な全国1位です。2位の東京都(全国2位・1,777円)と比べても1.7倍、3位の千葉県(全国3位・1,556円)の2倍近い差があり、ハムや紅茶よりも突出した独走ぶりが見て取れます。最下位は沖縄県(全国47位・391円)で、神奈川県の約13分の1にとどまりました。
この結果を作っている最大の要因は横浜中華街の存在と、崎陽軒の「シウマイ弁当」に象徴される地元ブランドの浸透です。中華街での食事だけでなく、駅弁・惣菜・家庭の食卓にまでしゅうまいが定着している点が、他の大都市圏(東京・千葉・埼玉)を大きく引き離す差になっています。関東地方が上位を占める一方、しゅうまいが日常食として根付いていない沖縄県や西日本の一部地域では消費額が伸びていません。
紅茶 — 全国1位1,780円、港町の喫茶文化
紅茶消費支出額でも神奈川県は1,780円で全国1位でした。2位の東京都(全国2位・1,535円)、3位の兵庫県(全国3位・1,288円)と、ここでも港町・大都市圏が上位を占める構図です。最下位は宮崎県(全国47位・391円)で、僅差の46位鳥取県(全国46位・393円)とともに西日本・南九州で紅茶消費が伸びにくい傾向がうかがえます。
紅茶が神奈川・東京・兵庫という3つの開港都市圏で上位を占めるのは偶然ではありません。横浜・神戸はいずれも明治の開港場であり、西洋の喫茶文化やホテル文化が早期に定着した土地です。同じ枠組みで見ると、紅茶支出、なぜ港町の県が強いのか で扱った港町仮説と神奈川の結果は完全に整合しており、ハム・しゅうまいとは異なる角度からも横浜の「開港都市」という性格が数字に表れていることが分かります。
WARNING
ここでの支出額は世帯単位の年間購入金額であり、外食・中食(弁当・惣菜)での消費や、崎陽軒のような駅弁として購入されるしゅうまいの一部は、家計調査の「しゅうまい」ではなく「調理食品」や「他の飲食」に計上されている可能性があります。統計上の「しゅうまい」は主に家庭内調理・小売購入分を捉えている点に注意してください。
神奈川の食卓を貫くもの
ハム・しゅうまい・紅茶という3つの品目に共通するのは、いずれも神奈川県が生み出した食文化ではなく「海外から持ち込まれ、横浜という開港都市で最初に根付いた食」だという点です。洋食のハム、中華のしゅうまい、喫茶の紅茶は出自も系統もばらばらですが、いずれも「港から入ってきた食を家庭の日常に取り込んだ土地」という一本の軸で説明できます。
これは他の食文化まとめ記事とは性格が異なります。青森の食卓 や 高知の食卓 が地元産の農産物・水産物(りんご、かつお)の1位を軸にしているのに対し、神奈川県は「産地」ではなく「玄関口」としての強さが数字に表れているのが特徴です。静岡の食卓 がお茶とまぐろという地場産業の1位で構成されているのとも対照的で、神奈川県は地場産品ではなく舶来食の受け皿として全国1位を積み上げています。
TIP
3品目とも「2位以下との差」の大きさが異なる点にも注目してください。しゅうまいは2位の1.7倍という圧倒的な差がある一方、ハムは2位との差がわずか84円しかありません。同じ「全国1位」でも、しゅうまいのようにご当地ブランドが突出しているケースと、ハムのように大都市圏で横並びに高いケースがあり、背景にある事情は品目ごとに異なります。
まとめ
- ハム消費支出額は神奈川県が5,782円で全国1位。2位茨城県(5,698円)とは僅差
- しゅうまい消費支出額は神奈川県が3,059円で全国1位。2位東京都(1,777円)の1.7倍という突出した差
- 紅茶消費支出額は神奈川県が1,780円で全国1位。港町・大都市圏(東京・兵庫)が上位を占める構図と一致
- 3品目に共通するのは「地場産品」ではなく「開港都市として舶来食を受け入れた土地」という軸
神奈川県のように経済カテゴリの消費支出データで複数の全国1位を持つ県は、その土地の産業構造や歴史的背景を映し出しています。神奈川県の地域プロフィール では、家計調査以外の指標も含めた地域の全体像を確認できます。
データ出典
総務省統計局「家計調査(品目別)」2024年、都道府県庁所在市(横浜市)二人以上世帯のデータをe-Stat(政府統計の総合窓口)経由で取得・集計しています。