製造品出荷額等の総額1位は、2023年も愛知県の58.0兆円。最下位・沖縄(0.5兆円)との差は約115倍で、太平洋ベルトへの一極集中は揺るがないように見えます。
ところが、物差しを「従業者1人あたりの出荷額」に変えると地図は一変します。効率の王者は愛知ではなく大分(8,547万円)。総額王者の愛知は4位(6,826万円)に下がり、首都・東京にいたってはまさかの41位(3,231万円)です。なぜ「自動車の県」愛知を「コンビナートの県」大分が効率で逆転するのか——本記事はこの「2つの王者」のズレを起点に、日本のものづくりの構造を読み解きます。経済全体の地域差は経済・産業カテゴリの統計一覧も併せてご覧ください。
NOTE
「製造品出荷額等」とは、製造業の事業所が1年間に出荷した製品の金額(加工賃収入・修理料収入なども含む)の合計。工場の生産規模を測る代表的な指標で、地域の「ものづくりの集積度」を表します。
製造品出荷額等の推移──バブル・リーマン・コロナを経て過去最高へ
バブル期(1991年:340.8兆円)をピークに一度落ち込んだ日本の製造業。リーマンショック(2009年:265.3兆円)やコロナ禍(2020年:302.0兆円)の谷を越え、2023年には過去最高の約373兆円を記録しました。
注目すべきは、出荷額が過去最高を更新する一方で従業員数は低水準で横ばい(2023年:約775万人)という点。バブル期のピーク(1991年:約1,135万人)からほぼ半減した人数で、はるかに高い出荷額を実現しています。省力化投資・自動化の効果が数字に表れています。
都道府県ランキング──愛知一強、沖縄との差は115倍
出荷額上位10・下位10
1位の愛知県(58兆円)は2位・静岡の約3倍。上位5県はいずれも太平洋ベルト上に集中し、4・5位の神奈川・兵庫はほぼ同水準で横並びです。なお2018年に2位だった神奈川は今回4位に後退し、静岡・大阪が順位を上げています。
一方、最下位の沖縄県はわずか0.5兆円。高知(46位)・鳥取(45位)と続く下位県では、農林水産業・観光・サービス業が産業の中心です(沖縄県の統計プロフィール)。
WARNING
総出荷額は「産業集積の規模」を示す指標であり、地域の効率や豊かさを直接表すものではありません。人口や事業所規模が大きい県ほど総額も大きくなります。実際の生産性は後述の「従業者1人当たり出荷額」と併せて読むのが適切です。
全国の分布マップ
地図にすると一目瞭然です。太平洋ベルト地帯(愛知・静岡・大阪・神奈川・兵庫)が濃く染まり、日本海側・四国・九州南部・沖縄は薄い。高度経済成長期から続く産業配置の非対称性が、半世紀を経てもそのまま残っています。
製造品出荷額等ランキングをもっと見る工業地帯・工業地域別ランキング──中京が「日本最大」を堅持
都道府県を超えた工業地帯・地域単位で集計すると、産業集積の全体像がよりはっきり見えます。
中京工業地帯(岐阜・愛知・三重)が77.1兆円でダントツ1位。京浜工業地帯は57.7兆円で2位。トヨタを頂点とする自動車産業の集積が、中京を他の追随を許さない規模に押し上げています。
阪神(40.7兆円)、瀬戸内(37.5兆円)、北関東(35.0兆円)がほぼ横並びで続く構図です。
産業構成比──「何で稼ぐか」は県によってまったく違う
同じ製造業でも、どの産業で稼いでいるかは都道府県によって大きく異なります。
愛知県は輸送用機器が47.4%を占め、文字通り「自動車の県」です。一方、千葉は石油・石炭が22%を占めコンビナート型の産業構造、三重は電子部品(15%)も強みです。大阪・兵庫は化学・食料品・電気機械など多様な産業が並びます。
この産業構成の違いは、単純な「ものづくりの強さ」ではなく「どんなものづくりをしているか」の違いでもあります。
従業者1人当たり出荷額──総額の王者と効率の王者は別人
ここが本記事の核心です。製造業の強さは総出荷額だけでは測れません。従業者1人当たりの出荷額で見ると、「少ない人数で高い価値を生み出す」産業構造の違いが浮かび上がり、総額ランキングとは全く別の県が上位に並びます。
NOTE
なぜ順位が入れ替わるのか。総額は「工場で働く人の多さ × 1人あたりの生産額」で決まります。自動車のように大量の組立工員を抱える産業は総額が膨らみますが、石油・化学コンビナートは少人数の装置オペレーターが巨大な出荷額を生むため、1人あたりに直すと逆転が起きるのです。
TIP
「総出荷額の王者」と「1人当たりの王者」は別物です。総額1位の愛知に対し、効率1位は大分。総額ランキングだけ見て「製造業が弱い」と判断すると、コンビナート型で高効率な県を見落とします。2つの指標をセットで読むのがコツです。
1位は大分県(8,547万円)、2位山口(7,917万円)、3位千葉(7,254万円)——総出荷額ランキングとは全く異なる顔ぶれです。上位を占めるのは石油・化学コンビナート型の重厚長大産業で、少数の人員で膨大な出荷額を生み出します。
総出荷額1位の愛知は4位(6,826万円)。自動車産業は大規模な雇用を抱えながらも高い1人当たり生産性を維持しています。一方、東京は41位(3,231万円)——首都でも製造業従業者1人当たりの効率は低く、本社機能・サービス業中心の産業構造を反映しています(東京都の統計プロフィール)。沖縄は総出荷額・1人当たりともに最下位(2,167万円)で、1位大分との差は約4倍に達します。
効率上位を石油・化学コンビナートが占める構図は、産業構成比のセクションで見た「千葉=石油・石炭22%」とも符合します。総額の地図と効率の地図、どちらか一方だけでは「ものづくりの実像」を見誤るというのが、本記事の最大の発見です(大分県の統計プロフィール)。
従業者1人当たり製造品出荷額等ランキングをもっと見る地方の製造業は今──産業構造の変化
「情報通信機器の長野」「化学の茨城・大分」「電子部品の鹿児島・秋田」——地方にも光る産業があります。1970〜80年代の「工場移転」の波で地方に根付いた製造業は、今も雇用の柱になっています。
しかし課題もあります:
- 人口減少による労働力不足
- 脱炭素化の波(自動車のEV化が中京工業地帯に与える影響)
- サプライチェーン再構築(コロナ禍以降の国内回帰の動き)
特に愛知・三重・静岡など輸送用機器依存度が高い地域は、EV化への対応が急務。一方、半導体工場の熊本誘致(TSMC)に象徴されるように、電子部品・先端素材分野での新たな地方への投資も始まっています。
まとめ
データ出典
- e-Stat 社会・人口統計体系(製造品出荷額等・従業者数、2023年)
- e-Stat 工業統計調査(産業中分類・都道府県別)
数値はいずれも2023年(令和5年)の確報値に基づきます。