本文へスキップ
stats47 データジャーナル統計で読む地域ニュースPRを含む場合があります

製造業の生産性トップはなぜ大分?出荷額王・愛知が上回られる理由

「製造品出荷額が大きい県は、1人あたりの稼ぐ力も高いはず」——直感的にはそう思えます。ところが47都道府県のデータを並べると、この2つはほとんど連動していません。

象徴的なのが大分です。製造品出荷額は4.7兆円で全国26位の中位ですが、これを従業者数(約6.4万人)で割ると1人あたり7,308万円/人となり、生産性では堂々の日本一になります。一方、出荷額47.9兆円で断トツ1位の愛知は、従業者が約80.8万人と桁違いに多いため、1人あたりでは5,930万円・5位まで順位を落とします。

本記事では、製造品出荷額(総額の大きさ)と労働生産性(1人あたりの稼ぐ力)という2つの指標を散布図で重ね、なぜ両者が連動しないのかを読み解きます。総額の地理的な集積そのものは姉妹記事「製造品出荷額ランキング」に譲り、ここでは「効率」という別の物差しに専念します。

NOTE

本記事の「労働生産性」は 製造品出荷額 ÷ 製造業従業者数(万円/人) で算出した粗い指標です。付加価値額ではなく出荷額ベースのため、原材料費・外注費を含みます。厳密な「付加価値労働生産性」とは異なります。出荷額・従業者数とも経済産業省「経済構造実態調査」の 2021年実績 を用い、両者を同年で割っています(年次を揃えて算出しています)。

総額と生産性は連動しない——散布図で見る相関の弱さ

まず、この記事の核心を1枚の図で示します。横軸に製造品出荷額(総額・兆円)、縦軸に労働生産性(1人あたり出荷額・万円/人)をとり、47都道府県を散布させたものです。

製造品出荷額(総額)と労働生産性(1人あたり)の相関。横軸=出荷額兆円、縦軸=1人あたり万円/人。大分が左上の外れ値、愛知が右側に位置し、両者の相関は弱い(47都道府県・2021年)

もし「総額が大きい県ほど生産性も高い」のなら、点は右肩上がりの一直線に並ぶはずです。しかし実際の散らばりはそうなっていません。右端に離れた愛知(出荷額48兆円)は縦位置では中ほどにあり、逆に左上に飛び出した大分(出荷額わずか4.7兆円)が縦軸では最も高い位置を占めます。出荷額の大小と1人あたりの稼ぐ力には、見た目ほど強い関係がないのです。

この「総額×効率」の食い違いこそが本記事のテーマです。総額1位だけが目に入ると見えない構造を、頭割りに直すことで掘り起こします。

TIP

散布図を「左上ゾーン」と「右下ゾーン」に分けて見ると理解が進みます。左上=総額は小さいが1人あたりは高い県(大分・山口・愛媛)は、少人数で巨額を出荷する装置産業の県です。右下=総額は大きいが1人あたりは伸び悩む県(埼玉・静岡・大阪)は、多くの労働者を抱える組立・労働集約型です。位置取りが、その県の製造業の「中身」を物語ります。

労働生産性ランキング——首位は大分、最下位は沖縄、その差3.6倍

散布図の縦軸だけを取り出し、上位5県と下位5県を棒で並べたものが次の図です。

製造業の労働生産性ランキング(従業者1人あたり出荷額・万円/人)。上位5県(大分・山口・千葉・愛媛・愛知)と下位5県(鳥取・高知・秋田・沖縄ほか)を比較(2021年)

首位の大分は7,308万円/人、最下位の沖縄は2,001万円/人で、その差は約3.6倍にとどまります。出荷額の格差(愛知47.9兆円 対 沖縄4,600億円で約104倍)に比べれば、1人あたりに直した瞬間に格差はぐっと縮みます。「規模の格差」と「1人の稼ぐ力の格差」はまったく別物だということが、この縮み方からも分かります。

上位の顔ぶれを出荷額の順位と照らすと、ズレがはっきりします。1位の大分は出荷額26位、2位の山口は出荷額17位、4位の愛媛は出荷額25位——生産性上位の常連は、出荷額では中位に沈む県ばかりです。例外的に3位の千葉(出荷額8位)だけは規模と効率を両立しています。逆に生産性5位の愛知は出荷額では断トツの1位という、まったく逆のプロフィールを持ちます。

製造品出荷額ランキング(総額)の全47都道府県を見る

なぜ大分が日本一なのか——装置産業という真因

散布図の「左上の外れ値」たちに共通するのは、製品単価が高く、かつ**少人数で大量に生産できる装置産業(資本集約型)**の集積です。総額ランキングの主役である太平洋ベルトの組立型大県とは、産業の中身がまったく異なります。

  • 大分(生産性1位・出荷26位):臨海部に石油精製・鉄鋼・半導体関連が集積します。約6.4万人という少ない従業者で4.7兆円を出荷する、頭割り効率の典型です
  • 山口(生産性2位・出荷17位):瀬戸内のコンビナート(石油化学・セメント等)が集積する化学工業の県です
  • 千葉(生産性3位・出荷8位):京葉工業地帯の石油・化学です。出荷額自体も高く、規模と効率を両立する稀な大規模県です
  • 愛媛(生産性4位・出荷25位):今治〜新居浜の化学・非鉄金属(銅製錬)・紙パルプが集積します

これらは「材料を仕入れ、巨大な装置で加工し、高い単価で出荷する」ビジネスのため、従業者1人あたりの出荷額が跳ね上がります。生産性上位に並ぶのは瀬戸内海〜九州北部の臨海県が多く、出荷額の順位ではなく「立地と産業構造」で読むと上位の顔ぶれが腑に落ちます

対照的に、出荷額1位の愛知を大分と直接比べると組立型の構造が見えます。愛知の出荷額は大分の約10.2倍ですが、従業者数も約12.5倍です。つまり愛知は「大分の10倍稼ぐが、12倍の人手をかけている」ため、1人あたりに割ると大分に届きません。自動車という巨大産業を多数の労働者で支える構造が、規模では圧勝でも頭割りでは中位、という結果を生みます。

WARNING

散布図が示すのは「総額と生産性の相関が弱い」という関係の弱さであって、因果ではありません(相関≠因果)。装置産業が立地しているのは、臨海・用水・歴史的な企業誘致など複数の地理・政策要因の結果であり、「立地さえ整えれば生産性が上がる」と単純化はできません。また本指標は出荷額ベースなので、原材料を大量に仕入れて加工するコンビナート型ほど数字が膨らみます。原材料費を差し引いた 付加価値 で見れば順位は変わりえます。装置産業は雇用吸収力が小さいため、生産性の高さをそのまま「住民が豊か」と読み替えないでください。

規模か、効率か——2つの「製造業の強さ」

このデータが示すのは、「製造業が強い県」には連動しない2つの意味があるということです。

  1. 規模の強さ:愛知・大阪・神奈川・静岡のように、巨大な出荷額と膨大な雇用を抱える型です。地域の雇用と税収の柱になります。総額の地理的な集積の話は姉妹記事「製造品出荷額ランキング」で詳しく扱っています。
  2. 効率の強さ:大分・山口・愛媛のように、少人数で高い1人あたり出荷を上げる装置産業型です。出荷額の絶対値は中位でも、1人あたりの稼ぐ力は全国トップクラスになります。

千葉(出荷8位・生産性3位)や三重(出荷9位・生産性7位)のように両立する県も一部に存在しますが、散布図全体で見れば例外的です。逆に東京は出荷額16位に対し生産性35位で、製造業の中身が労働集約・小規模事業所中心であることがうかがえます。

製造業を語るとき、出荷額ランキングだけを見ていては「大分が日本一の生産性」という事実は永遠に見えてきません。規模と効率、2つの軸で見ることで、各県の工業構造の個性が浮かび上がります。気になった県は、鉱業・工業カテゴリの他のランキングや、大分県愛知県の地域プロフィールからも掘り下げてみてください。

まとめ

  • 製造品出荷額(総額)と労働生産性(1人あたり)は散布図でほとんど連動せず、総額の大小は1人あたりの稼ぐ力をほぼ説明しません。
  • **1人あたり出荷額の首位は大分(7,308万円/人)**です。出荷額では全国26位の県が、生産性では日本一になります。
  • 2位は山口(7,048万円)、3位は千葉(6,357万円)です。上位は瀬戸内〜九州北部の臨海・装置産業の県が並びます。
  • 出荷額王の**愛知(47.9兆円)は生産性では5位(5,930万円)**です。大分の10.2倍稼ぎますが、12.5倍の人手をかけるため、1人あたりでは届きません。
  • 最下位は**沖縄(2,001万円)**です。首位の大分との差は約3.6倍で、100倍を超える出荷額格差よりはるかに小さくなります。
  • 生産性の高さの真因は装置産業の立地ですが、相関≠因果であり付加価値ベースでは順位が変わりうる点に注意が必要です。

データ出典

  • 経済産業省「経済構造実態調査(製造業事業所調査)」製造品出荷額・従業者数(いずれも2021年実績)。政府統計の総合窓口(e-Stat)経由で整備。
  • 労働生産性は「製造品出荷額(百万円)×100 ÷ 従業者数」で本記事が算出した派生指標(万円/人)。出荷額・従業者数とも同一年(2021年)の実値を用いています。