「日本の製造業で一番稼ぐ県は?」と聞かれれば、答えは愛知でほぼ間違いない。製造品出荷額は47.9兆円(2021年)で2位の大阪に2.5倍以上の差をつける、文句なしの王者だ。
ところが、その出荷額を「働く人1人あたり」に割り直すと、景色が一変する。1人あたり製造品出荷額のトップは大分の7,308万円/人。出荷額では全国26位の県が、生産性では日本一に立つ。 そして出荷額王の愛知は、生産性ランキングでは5位まで順位を落とす。
なぜこんな逆転が起きるのか。本記事では、製造品出荷額(2021年)を従業者数で割った「製造業の労働生産性」を47都道府県で計算し、規模の大きさと1人あたりの稼ぐ力がまったく別物であることを、データから読み解く。
NOTE
本記事の「労働生産性」は 製造品出荷額 ÷ 製造業従業者数(万円/人) で算出した粗い指標。付加価値額ではなく出荷額ベースのため、原材料費・外注費を含む。厳密な「付加価値労働生産性」とは異なる点に留意してほしい。出典は経済産業省「経済構造実態調査(製造業事業所調査)」で、出荷額・従業者数とも2021年実績を用いた。
1人あたり出荷額ランキング——首位は大分、最下位は沖縄
まず結論のランキングから。製造品出荷額を従業者数で割った2021年の値を、全47都道府県で並べた。
製造業 1人あたり出荷額ランキング(2021年・万円/人)。上位10県と下位10県を抜粋。
首位の大分は7,308万円/人、最下位の沖縄は2,001万円/人。その差は約3.6倍。出荷額の格差(愛知47.9兆円 対 沖縄約4,600億円で約104倍)に比べれば、1人あたりに直した瞬間に格差はぐっと縮む。これは「規模」と「1人の稼ぐ力」が別の話であることの最初の証拠だ。
注目すべきは右端の「出荷額の順位」列だ。1位大分は出荷額26位、2位山口は17位、4位愛媛は25位。生産性上位の常連は、出荷額では中位に沈む県ばかりである。
製造品出荷額ランキングをもっと見る出荷額ランキングとはまるで別の地図
比較のため、出荷額そのもののランキングも見てみよう。
製造品出荷額ランキング(2021年・億円)。上位10県と下位10県を抜粋。
出荷額では愛知(47.9兆円)が断トツで、大阪・神奈川・静岡・兵庫と続く、いわゆる「太平洋ベルト」の大規模工業県が上位を独占する。前述の生産性ランキングとはまったく別の地図になっている。
愛知と大分を直接比べると、構図がはっきりする。
- 愛知の出荷額は大分の 約10.2倍
- 愛知の従業者数は大分の 約12.5倍
つまり愛知は「大分の10倍稼ぐが、12倍の人手をかけている」。だから1人あたりに割ると、愛知(5,930万円)は大分(7,308万円)に届かない。自動車という巨大産業を多数の労働者で支える組立型の構造が、規模では圧勝でも1人あたりでは中位という結果を生む。
TIP
1位大分・2位山口・4位愛媛・6位岡山・13位和歌山——上位に並ぶのは瀬戸内海〜九州北部の臨海県が多い。これらは石油化学コンビナート・鉄鋼・非鉄金属など、巨大な装置を少人数で動かす 資本集約型(装置産業) の集積地だ。
なぜ臨海・装置産業の県が強いのか
生産性上位県に共通するのは、製品単価が高く、かつ少人数で大量に生産できる「装置産業」の存在だ。
- 大分:臨海部に石油精製・鉄鋼・半導体関連が集積。少ない従業者で巨額の出荷を生む典型
- 山口:瀬戸内のコンビナート(石油化学・セメント等)が集積する化学工業の県
- 千葉:京葉工業地帯の石油・化学。出荷額自体も8位と高く、生産性とも両立する稀な大規模県
- 愛媛:今治〜新居浜の化学・非鉄金属(銅製錬)・紙パルプ
これらは「材料を仕入れて装置で加工し、高い単価で出荷する」ビジネスのため、従業者1人あたりの出荷額が跳ね上がる。一方、繊維・食品・雑貨など労働集約型の比率が高い県、あるいは製造業の集積そのものが薄い県は、1人あたりが伸びにくい。
最下位の沖縄(2,001万円)は、製造業の出荷額が全国最少(約4,600億円)で、食品・飲料など地場の労働集約型が中心。秋田・高知も同様に大型の装置産業に乏しく、下位に並ぶ。
WARNING
「生産性が高い=豊かで効率的」と短絡するのは危険だ。本指標は出荷額ベースなので、原材料を大量に仕入れて加工するコンビナート型ほど数字が膨らむ。原材料費を差し引いた 付加価値 で見ると順位は変わりうる。また装置産業は雇用吸収力が小さいため、地域経済への波及(雇用者数)は出荷額ほど大きくない点も併せて評価する必要がある。
規模か、効率か——2つの「製造業の強さ」
このデータが示すのは、「製造業が強い県」には2つの異なる意味があるということだ。
- 規模の強さ:愛知・大阪・神奈川・静岡のように、巨大な出荷額と膨大な雇用を抱える型。地域の雇用と税収の柱になる。
- 効率の強さ:大分・山口・愛媛のように、少人数で高い1人あたり出荷を上げる装置産業型。出荷額の絶対値は中位でも、1人あたりの稼ぐ力は全国トップクラス。
千葉(出荷8位・生産性3位)や三重(出荷9位・生産性7位)のように、規模と効率を両立する県も一部に存在する。逆に東京は出荷額16位に対し生産性35位と、製造業の中身が労働集約・小規模事業所中心であることがうかがえる。
製造業を語るとき、出荷額ランキングだけを見ていては「大分が日本一の生産性」という事実は永遠に見えてこない。規模と効率、2つの軸で見ることで、各県の工業構造の個性が浮かび上がる。
まとめ
- 製造品出荷額を従業者数で割った2021年の1人あたり出荷額の首位は大分(7,308万円/人)。出荷額では全国26位の県が生産性では日本一。
- 2位は山口(7,048万円)、3位は千葉(6,357万円)。上位は瀬戸内〜九州北部の臨海・装置産業の県が多い。
- 出荷額王の愛知(47.9兆円)は生産性では5位(5,930万円)。大分の10.2倍稼ぐが12.5倍の人手をかけるため、1人あたりでは届かない。
- 最下位は沖縄(2,001万円)。首位大分との差は約3.6倍で、100倍を超える出荷額格差よりはるかに小さい。
- 「規模の強さ」と「1人あたりの効率」は別物。製造業の評価は出荷額と生産性の両軸で見る必要がある。
データ出典
- 経済産業省「経済構造実態調査(製造業事業所調査)」製造品出荷額・従業者数(2021年実績)。政府統計の総合窓口(e-Stat)経由で整備。
- 労働生産性は「製造品出荷額 ÷ 従業者数」で本記事が算出した派生指標(万円/人)。