2022年度の建物火災1件当たり損害額は、茨城県が2,770.6万円(偏差値89.1)で全国1位です。最も少ないのは神奈川県の136.1万円(偏差値41.9)で、約20倍の格差が存在します。全国平均は588.5万円。地方では工場・倉庫火災の影響が大きく、都市部では密集市街地での小規模火災が多い傾向が明確に表れています。
概要
建物火災損害額(建物火災1件当たり)は、建物火災による総損害額を火災件数で割った平均値を示しています。この指標は地域の建物規模、産業構造、防災設備の充実度を総合的に反映する重要な指標です。
防災政策の実効性評価、経済損失の地域格差把握、リスク管理の基礎データとして活用されます。全国平均は588.5万円で、最大値と最小値の差は2,634.5万円に達しています。
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上位県と下位県の比較
上位5県の詳細分析
茨城県
茨城県は2,770.6万円(偏差値89.1)で全国1位です。鹿島臨海工業地帯を中心とした大規模工場が多数立地し、製造業の事業所数は全国上位レベルです。石油化学コンビナートでの大規模火災リスクや、倉庫・工場の延床面積が大きく損害額が高額化する傾向があります。
宮崎県
宮崎県は2,703.0万円(偏差値87.9)で2位です。農業・林業関連の大型施設と食品加工工場が多く、畜産業の規模拡大により施設の大型化が進んでいます。大型畜舎や農業倉庫での火災による高額損害が特徴です。
広島県
広島県は1,699.0万円(偏差値69.9)で3位です。瀬戸内工業地域の製造業集積と造船業の大型施設が損害額を押し上げています。自動車産業関連の大型工場施設や、重工業施設での高額設備損害が特徴です。
秋田県
秋田県は1,487.0万円(偏差値66.1)で4位です。石油精製施設と大型農業施設、木材加工工場が損害額の主要因となっています。冬季の暖房器具による火災が建物全体に延焼しやすく、1件当たりの損害規模が大きくなる傾向があります。
鳥取県
鳥取県は1,283.8万円(偏差値62.5)で5位です。電子部品製造業の工場集積と農業施設の大型化が影響しています。精密機械工場での高価値設備損害や、大型園芸ハウスでの火災被害が特徴です。
下位5県の詳細分析
神奈川県
神奈川県は136.1万円(偏差値41.9)で最下位です。都市部の住宅密集地で小規模火災が多く、消防体制の充実により被害が最小限に抑えられています。住宅火災中心で1件当たり損害額が少額であり、消防署の密集配置による迅速な初期対応が特徴です。
東京都
東京都は187.2万円(偏差値42.8)で46位です。全国最高レベルの消防体制と防火規制により、火災1件当たりの損害が大幅に抑制されています。厳格な防火基準の適用や、24時間体制の高密度消防配置が特徴です。
鹿児島県
鹿児島県は223.9万円(偏差値43.5)で45位です。住宅火災と小規模事業所火災が中心で、大型工場の立地が限定的です。農業中心の産業構造で大型施設が少ないことが特徴です。
徳島県
徳島県は249.0万円(偏差値43.9)で44位です。中小規模の製造業中心で、大型工場火災のリスクが相対的に低くなっています。繊維・食品工業中心の中小規模事業所が多く、山間部での住宅火災が損害額を抑制しています。
愛媛県
愛媛県は251.6万円(偏差値44.0)で43位です。造船業や化学工業があるものの、防災対策の充実により損害が抑制されています。重工業での防災設備投資の効果や、住宅火災中心の火災発生パターンが特徴です。
地域別の特徴分析
関東地方
軒並み下位にランクインし、特に神奈川県(47位)、東京都(46位)が最下位グループです。高密度な消防配置と厳格な防火規制により、火災1件当たりの損害額が全国で最も少なくなっています。
九州・沖縄地方
宮崎県(2位)が上位にランクする一方、鹿児島県(45位)は下位となり、地域内格差が顕著です。畜産業の大型施設を持つ県では損害額が高く、住宅火災中心の県では低い傾向があります。
中国・四国地方
広島県(3位)の工業地帯と、愛媛県(43位)、徳島県(44位)の中小規模産業地域で大きな格差が見られます。瀬戸内工業地域の重工業集積が損害額に大きく影響しています。
東北地方
秋田県(4位)が上位にランクし、石油関連施設と農業施設の大型化が要因となっています。豪雪地帯特有の消防アクセスの制約も損害拡大の一因です。
社会的・経済的影響
最上位の茨城県(2,770.6万円)と最下位の神奈川県(136.1万円)の間には約20倍の格差が存在します。この格差は単なる統計上の違いではなく、地域経済と住民生活に深刻な影響を与えています。主な要因は、産業構造の違い、消防体制の密度格差、建物の防火設備普及率の差、地理的条件による消防アクセスの違いです。
経済的影響として、火災保険料の地域間格差拡大、企業の設備投資における防災コスト増加、地域経済への火災被害の波及効果が挙げられます。
社会的影響として、住民の防災意識格差の拡大、地域間での安全性に対する不平等感、企業立地選択への影響が挙げられます。
対策と今後の展望
東京都と神奈川県の成功要因である高密度消防配置と厳格な防火規制は他地域でも参考となります。特に住宅用火災警報器の設置促進と防火建築物の普及が効果的です。
地域特性に応じた対策として、工業地帯では大型工場での自衛消防組織強化と防災設備投資促進、農業地域では大型農業施設への火災警報システム導入支援、山間部では消防署と住民による初期消火体制の連携強化が求められます。
今後の重要課題として、地域間格差の縮小には、消防体制の標準化と防災技術の普及が不可欠です。特に過疎地域での消防力維持と大型施設での予防対策強化が急務となります。
統計データの基本情報と分析
統計的特徴の分析
2022年度の建物火災損害額(建物火災1件当たり)データの統計的特徴を分析すると、以下の傾向が確認できます。
平均値と中央値の比較では、全国平均は588.5万円です。平均値が中央値を上回っており、茨城県や宮崎県などの上位県が全体の平均値を大幅に押し上げている「右に歪んだ分布」を示しています。
分布の歪みについては、データの分布は右に歪んでおり(正の歪度)、多くの都道府県は平均以下の損害額となっています。
外れ値の特定では、茨城県(2,770.6万円)と宮崎県(2,703.0万円)は明らかな上側の外れ値として、他県から大きく離れた値を示しており、これらが外れ値として分布全体に影響を与えています。また、神奈川県(136.1万円)は明らかな下側の外れ値として識別されます。
四分位範囲による分布の特徴では、第1四分位数(Q1)と第3四分位数(Q3)の間に中央の50%の都道府県の建物火災損害額が収まっていることを示しています。
標準偏差によるばらつきの程度では、都道府県間のばらつきが非常に大きいことを示しています。これは、地域ごとの産業構造や建物構造の違いが複合的に作用している結果です。
まとめ
2022年度の建物火災損害額(建物火災1件当たり)ランキングでは、茨城県が2,770.6万円で1位、神奈川県が136.1万円で47位となりました。
地域格差は約20倍に達し、産業構造と消防体制が主要決定要因です。工業地帯の大型施設が上位県の損害額を押し上げ、都市部の防火体制が効果的に損害を抑制しています。
消防アクセスと初期対応が被害規模を大きく左右し、防災投資の地域間格差が安全性の不平等を生成しています。
成功事例の横展開により改善余地が大きく存在します。
継続的なデータ監視と地域間での連携強化により、全国的な火災減少につながります。各地域は自らの特性を踏まえた防火対策の強化が急務です。