都道府県別建物火災損害額(建物火災1件当たり)ランキング(2022年度)
サマリー
2022年度の建物火災1件当たり損害額は、茨城県が2770.6万円で全国1位、神奈川県が136.1万円で最下位となり、約20倍の格差が生じています。この指標は地域の防災体制の実効性と建物構造の実態を示す重要な指標です。地方では工場・倉庫火災の影響が大きく、都市部では密集市街地での小規模火災が多い傾向が明確に表れています。
概要
建物火災損害額(建物火災1件当たり)は、建物火災による総損害額を火災件数で割った平均値を示しています。この指標は地域の建物規模、産業構造、防災設備の充実度を総合的に反映する重要な指標です。
なぜこの指標が重要なのか?
- 防災政策の実効性評価:地域の火災予防対策と初期消火体制の効果を客観的に測定
- 経済損失の地域格差把握:産業構造と建物特性による被害規模の違いを明確化
- リスク管理の基礎データ:保険料設定や防災投資の優先順位決定に活用
全国平均は657.4万円で、最大値と最小値の差は2634.5万円に達しています。
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上位5県の詳細分析
茨城県(1位)
茨城県は2770.6万円(偏差値89.1)で全国1位となっています。鹿島臨海工業地帯を中心とした大規模工場が多数立地し、製造業の事業所数は全国上位レベルです。
- 石油化学コンビナートでの大規模火災リスク
- 倉庫・工場の延床面積が大きく損害額が高額化
- 消防署と工場間の距離が遠い地域での初期対応遅れ
宮崎県(2位)
宮崎県は2703.0万円(偏差値87.9)で2位にランクインしています。農業・林業関連の大型施設と食品加工工場が多く、畜産業の規模拡大により施設の大型化が進んでいます。
- 大型畜舎や農業倉庫での火災による高額損害
- 食品加工工場の設備価値の高さ
- 山間部での消防アクセスの制約
広島県(3位)
広島県は1699.0万円(偏差値69.9)で3位となっています。瀬戸内工業地域の製造業集積と造船業の大型施設が損害額を押し上げています。
- 自動車産業関連の大型工場施設
- 造船所や重工業施設での高額設備損害
- 沿岸部工業地帯での化学工場火災リスク
秋田県(4位)
秋田県は1487.0万円(偏差値66.1)で4位です。石油精製施設と大型農業施設、木材加工工場が損害額の主要因となっています。
- 石油関連施設での大規模火災発生
- 米どころとしての大型農業施設
- 豪雪地帯での消防活動の制約
鳥取県(5位)
鳥取県は1283.8万円(偏差値62.5)で5位となっています。電子部品製造業の工場集積と農業施設の大型化が影響しています。
- 精密機械工場での高価値設備損害
- 大型園芸ハウスでの火災被害
- 人口密度の低さによる初期消火対応の遅れ
下位5県の詳細分析
神奈川県(47位)
神奈川県は136.1万円(偏差値41.9)で最下位となっています。都市部の住宅密集地で小規模火災が多く、消防体制の充実により被害が最小限に抑えられています。
- 住宅火災中心で1件当たり損害額が少額
- 消防署の密集配置による迅速な初期対応
- 防火建築物の普及率の高さ
東京都(46位)
東京都は187.2万円(偏差値42.8)で46位です。全国最高レベルの消防体制と防火規制により、火災1件当たりの損害が大幅に抑制されています。
- 厳格な防火基準による被害抑制効果
- 24時間体制の高密度消防配置
- 耐火建築物の圧倒的普及率
鹿児島県(45位)
鹿児島県は223.9万円(偏差値43.5)で45位となっています。住宅火災と小規模事業所火災が中心で、大型工場の立地が限定的です。
- 農業中心の産業構造で大型施設が少ない
- 住宅火災の早期発見・消火体制
- 離島部での小規模火災が多数を占める
徳島県(44位)
徳島県は249.0万円(偏差値43.9)で44位です。中小規模の製造業中心で、大型工場火災のリスクが相対的に低くなっています。
- 繊維・食品工業中心の中小規模事業所
- 山間部での住宅火災が損害額を抑制
- 地域密着型の消防体制による迅速対応
愛媛県(43位)
愛媛県は251.6万円(偏差値44.0)で43位となっています。造船業や化学工業があるものの、防災対策の充実により損害が抑制されています。
- 重工業での防災設備投資の効果
- 住宅火災中心の火災発生パターン
- 瀬戸内海沿岸部での消防連携体制
地域別の特徴分析
関東地方
関東地方は軒並み下位にランクインし、特に神奈川県(47位)、東京都(46位)が最下位グループです。高密度な消防配置と厳格な防火規制により、火災1件当たりの損害額が全国で最も少なくなっています。
- 都市部の防火建築物普及率の高さ
- 24時間体制の消防署密集配置
- 住宅用火災警報器の設置率90%超
九州・沖縄地方
宮崎県(2位)が上位にランクする一方、鹿児島県(45位)は下位となり、地域内格差が顕著です。畜産業の大型施設を持つ県では損害額が高く、住宅火災中心の県では低い傾向があります。
中国・四国地方
広島県(3位)の工業地帯と、愛媛県(43位)、徳島県(44位)の中小規模産業地域で大きな格差が見られます。瀬戸内工業地域の重工業集積が損害額に大きく影響しています。
東北地方
秋田県(4位)が上位にランクし、石油関連施設と農業施設の大型化が要因となっています。豪雪地帯特有の消防アクセスの制約も損害拡大の一因です。
社会的・経済的影響
最上位の茨城県(2770.6万円)と最下位の神奈川県(136.1万円)の格差は約20倍に達しています。この格差は単なる統計上の違いではなく、地域経済と住民生活に深刻な影響を与えています。
地域間格差の主要因
- 産業構造の違い(重工業vs住宅中心)
- 消防体制の密度格差
- 建物の防火設備普及率の差
- 地理的条件による消防アクセスの違い
経済的影響
- 火災保険料の地域間格差拡大
- 企業の設備投資における防災コスト増加
- 地域経済への火災被害の波及効果
社会的影響
- 住民の防災意識格差の拡大
- 地域間での安全性に対する不平等感
- 企業立地選択への影響
対策と今後の展望
効果的な取り組み事例
東京都と神奈川県の成功要因である高密度消防配置と厳格な防火規制は他地域でも参考となります。特に住宅用火災警報器の設置促進と防火建築物の普及が効果的です。
地域特性に応じた対策
- 工業地帯:大型工場での自衛消防組織強化と防災設備投資促進
- 農業地域:大型農業施設への火災警報システム導入支援
- 山間部:消防署と住民による初期消火体制の連携強化
成功事例の展開 広島県では重工業企業と消防署の連携による予防査察制度の充実により、大型施設での火災予防効果を上げています。秋田県では農業施設向けの防火対策補助金制度により損害軽減を図っています。
今後の重要課題 地域間格差の縮小には、消防体制の標準化と防災技術の普及が不可欠です。特に過疎地域での消防力維持と大型施設での予防対策強化が急務となります。
統計データ分析
平均値(657.4万円)と中央値(521.5万円)の差は135.9万円で、上位県の高額損害が全体平均を押し上げています。分布は明らかに右に偏っており、少数の県で極めて高い損害額を記録しています。
分布の特徴として、茨城県と宮崎県が外れ値的に高く、これら2県が全体の統計値に大きな影響を与えています。第1四分位(378.9万円)から第3四分位(835.2万円)の範囲に多くの県が集中し、標準的な損害額は400-800万円程度です。
標準偏差(572.5万円)は平均値に対して大きく、地域間のばらつきが非常に大きいことを示しています。これは産業構造の違いと消防体制の格差が複合的に作用している結果です。
四分位範囲による分析では、上位25%の県(835.2万円以上)と下位25%の県(378.9万円以下)の格差が約2.2倍となっており、中間層でも相当な差が存在します。
まとめ
2022年度の建物火災損害額分析により、以下の重要な知見が得られました:
- 地域格差は約20倍に達し、産業構造と消防体制が主要決定要因
- 工業地帯の大型施設が上位県の損害額を押し上げ
- 都市部の防火体制が効果的に損害を抑制
- 消防アクセスと初期対応が被害規模を大きく左右
- 防災投資の地域間格差が安全性の不平等を生成
- 成功事例の横展開により改善余地が大きく存在
継続的なデータ監視と地域間での