2022年度の都道府県別医療施設従事医師数(人口10万人当たり)のランキングを分析します。このデータは、各地域で住民がどれだけ医療サービスを受けやすい環境にあるかを示す、最も基本的な指標の一つです。
概要
人口当たりの医師数は、その地域の医療の質と量を測る上で極めて重要です。この数値が高いほど、専門的な医療へのアクセスが容易であり、住民は安心して生活を送ることができます。医師数は、大学医学部の有無や定員、地域の魅力、自治体の医師確保への取り組みなど、様々な要因によって左右されます。特に、西日本の県で多く、東日本の、とりわけ首都圏のベッドタウンで少ない「西高東低」の傾向が長年指摘されています。
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上位県と下位県の比較
上位5県の詳細分析
2022年度のランキングでは、大学医学部を持つ地方の県が上位を占める結果となりました。これらの地域では、大学病院が地域の医療を牽引し、多くの医師を育成・輩出しています。
徳島県
徳島県は、人口10万人当たりの医師数が335.7人(偏差値67.0)で、全国1位です。徳島大学医学部が地域の医療人材の供給源として大きな役割を果たしており、人口規模に対して非常に手厚い医師配置が実現しています。
高知県
高知県は335.2人(偏差値66.9)で2位にランクインしました。高知大学医学部を中心に、へき地医療にも力を入れており、県全体で医師を確保しようという強い意志が感じられます。
京都府
京都府は334.3人(偏差値66.7)で3位です。京都大学と京都府立医科大学という二つの国公立大学医学部を擁し、質の高い医療人材が豊富であることが、この結果につながっています。
長崎県
長崎県は327.6人(偏差値65.0)で4位でした。長崎大学医学部があり、多くの離島を抱える地理的条件から、古くから医師の確保と育成に力を入れてきた歴史があります。
東京都
東京都は324.6人(偏差値64.2)で5位に入りました。多くの大学医学部と最先端の医療機関が集中しており、全国から医師が集まる日本の医療の中心地です。
下位5県の詳細分析
医師数が少なかったのは、首都圏のベッドタウンである県が中心でした。これらの地域は、人口が急増する一方で、医師の養成が追いつかず、また多くの医師が隣接する東京都に通勤していることが、県内の医師不足に拍車をかけています。
新潟県
新潟県は212.8人(偏差値36.1)で44位です。広大な県域に対して、医師を養成する新潟大学医学部だけでは、県内全域の医療をカバーするのが難しい状況にあると考えられます。
千葉県
千葉県は209.0人(偏差値35.1)で45位でした。多くの住民が東京都内に通勤・通学しており、医療も東京に依存する傾向が強いことが、県内の医師数の少なさに影響していると推測されます。
茨城県
茨城県は202.0人(偏差値33.4)で46位です。長年、医学部が県内に存在しなかったことが、医師不足の大きな要因とされてきました。(現在は筑波大学医学群がある)
埼玉県
埼玉県は180.2人(偏差値27.9)で最下位の47位となりました。800万人近い人口を抱えながら、医師数が絶対的に不足しているという、構造的な問題を抱えています。
地域別の特徴分析
社会的・経済的影響
医師数の地域差は、住民が受けられる医療の質に直接影響します。医師が充足している地域では、専門医による診断や治療を受けやすく、待ち時間も比較的短い傾向にあります。一方、医師が不足している地域では、専門的な医療を受けるために遠方の病院まで行かなければならなかったり、救急医療体制が脆弱であったりと、住民は多くの不安を抱えることになります。この「医療格差」は、健康寿命の差にもつながりかねない、深刻な問題です。また、医師不足は、地域経済にも影響を与えます。安心して暮らせる医療環境がなければ、若者世代の定住は進まず、地域の活力は失われていきます。
対策と今後の展望
医師の地域偏在を解消するため、国や自治体は様々な対策を講じてきました。大学医学部の「地域枠」を設けて、卒業後一定期間、出身地の医療機関で働くことを義務付ける制度や、へき地で勤務する医師への手当を厚くするといった取り組みはその一例です。また、埼玉県のように、医師不足が深刻な地域では、医学部の新設も進められています。今後は、こうした取り組みを継続するとともに、女性医師が出産・育児後も働き続けられるような環境整備や、AIなどのテクノロジーを活用した診断支援など、多角的なアプローチで医師の働き方をサポートしていくことが重要です。すべての国民が、どこに住んでいても質の高い医療を受けられる社会の実現に向けて、息の長い取り組みが求められています。
統計データの基本情報と分析
指標 | 値人 |
---|---|
平均値 | 268.1 |
中央値 | 267.2 |
最大値 | 335.7(徳島県) |
最小値 | 180.2(埼玉県) |
標準偏差 | 39.7 |
データ数 | 47件 |
まとめ
2022年度の医師数ランキングは、日本の医療が抱える大きな課題である「医師の地域偏在」を改めて浮き彫りにしました。徳島県や京都府のように、歴史的に医師養成の拠点となってきた地域に医師が集中する一方、首都圏のベッドタウンでは、人口に見合った医師数を確保できていないという構造的な問題が見て取れます。この格差は、一朝一夕に解決できる問題ではありません。医療という、人の命に直結するセーフティネットを、いかに公平に、そして持続可能な形で構築していくか。このランキングは、私たち社会全体に重い問いを投げかけています。
順位↓ | 都道府県 | 値 (人) | 偏差値 | 前回比 |
---|---|---|---|---|
1 | 徳島県 | 335.7 | 67.0 | -0.8% |
2 | 高知県 | 335.2 | 66.9 | +4.1% |
3 | 京都府 | 334.3 | 66.7 | +0.5% |
4 | 長崎県 | 327.6 | 65.0 | +2.7% |
5 | 東京都 | 324.6 | 64.2 | +1.1% |
6 | 岡山県 | 324.0 | 64.1 | +1.2% |
7 | 和歌山県 | 320.9 | 63.3 | +4.3% |
8 | 鳥取県 | 319.9 | 63.0 | +1.6% |
9 | 福岡県 | 312.1 | 61.1 | +0.7% |
10 | 島根県 | 307.6 | 59.9 | +3.5% |
11 | 熊本県 | 302.2 | 58.6 | +1.8% |
12 | 大分県 | 297.9 | 57.5 | +3.8% |
13 | 佐賀県 | 293.6 | 56.4 | +1.1% |
14 | 香川県 | 290.5 | 55.6 | +0.2% |
15 | 鹿児島県 | 288.7 | 55.2 | +1.8% |
16 | 大阪府 | 288.5 | 55.1 | +1.0% |
17 | 奈良県 | 286.8 | 54.7 | +3.5% |
18 | 石川県 | 286.4 | 54.6 | -1.8% |
19 | 愛媛県 | 286.3 | 54.6 | +3.5% |
20 | 兵庫県 | 276.5 | 52.1 | +3.9% |
21 | 広島県 | 272.6 | 51.1 | +2.1% |
22 | 福井県 | 271.2 | 50.8 | +5.2% |
23 | 富山県 | 270.6 | 50.6 | +3.5% |
24 | 山口県 | 267.2 | 49.8 | +2.7% |
25 | 沖縄県 | 266.1 | 49.5 | +3.5% |
26 | 宮崎県 | 260.8 | 48.2 | +2.1% |
27 | 山梨県 | 257.9 | 47.4 | +3.1% |
28 | 宮城県 | 256.3 | 47.0 | +4.1% |
29 | 北海道 | 254.0 | 46.4 | +1.1% |
30 | 秋田県 | 249.8 | 45.4 | +3.0% |
31 | 長野県 | 249.8 | 45.4 | +2.5% |
32 | 栃木県 | 248.4 | 45.0 | +4.8% |
33 | 滋賀県 | 242.2 | 43.5 | +2.5% |
34 | 三重県 | 241.2 | 43.2 | +4.2% |
35 | 山形県 | 239.6 | 42.8 | +4.5% |
36 | 愛知県 | 234.7 | 41.6 | +4.6% |
37 | 群馬県 | 233.4 | 41.3 | -0.2% |
38 | 岐阜県 | 231.5 | 40.8 | +3.1% |
39 | 静岡県 | 230.1 | 40.4 | +4.9% |
40 | 神奈川県 | 223.0 | 38.6 | - |
41 | 青森県 | 220.2 | 37.9 | +3.6% |
42 | 福島県 | 218.7 | 37.6 | +6.3% |
43 | 岩手県 | 218.5 | 37.5 | +5.4% |
44 | 新潟県 | 212.8 | 36.1 | +4.2% |
45 | 千葉県 | 209.0 | 35.1 | +1.6% |
46 | 茨城県 | 202.0 | 33.4 | +4.2% |
47 | 埼玉県 | 180.2 | 27.9 | +1.4% |