「医師の年収は、どこで働いてもそう変わらないだろう」——そう思っていると、データに裏切られる。2023年の賃金構造基本統計調査をもとにした医師の平均年収を都道府県別に並べると、1位と最下位で約1.98倍もの開きがあるのだ。
1位は沖縄県の1853.8万円。最下位は意外にも北陸の石川県で935.4万円。全国平均は1442.8万円なので、石川県は平均より500万円以上も低い。さらに「医師が稼ぎやすそう」なイメージのある大都市が必ずしも上位ではなく、鹿児島が46位、和歌山が44位と、地方でも下位に沈む県がある。
この記事では、医師年収の都道府県格差がどこで生まれているのかを、47都道府県の実データから読み解く。
NOTE
ここでの「医師の年収」は、賃金構造基本統計調査の「きまって支給する現金給与額×12+年間賞与」で算出した推計値です。勤務医を中心とした給与所得が対象で、開業医の事業所得は含みません。標本調査のため、医師のように母数が少ない職種では年ごとの変動が大きい点に注意が必要です。
医師年収ランキング TOP10 と最下位(2023年)
まず2023年の上位10県と最下位を見てみよう。全国平均は1442.8万円だ。
| 順位 | 都道府県 | 平均年収(万円) |
|---|---|---|
| 1 | 沖縄県 | 1853.8 |
| 2 | 北海道 | 1783.6 |
| 3 | 群馬県 | 1766.4 |
| 4 | 福島県 | 1706.1 |
| 5 | 青森県 | 1681.6 |
| 6 | 鳥取県 | 1673.8 |
| 7 | 山形県 | 1644.1 |
| 8 | 富山県 | 1598.6 |
| 9 | 愛知県 | 1597.0 |
| 10 | 高知県 | 1596.4 |
| … | … | … |
| 47 | 石川県 | 935.4 |
上位を眺めると、沖縄・北海道・青森・福島・山形といった北日本の県、群馬・富山・鳥取・高知といった地方県が並ぶ。三大都市圏で唯一トップ10に入ったのは**愛知県(9位・1597.0万円)**だけで、東京都は14位(1520.6万円)にとどまる。上位は「医師が集まりにくい地方」に偏っているのが第一の特徴だ。
医師の平均年収ランキングをもっと見る最下位グループの顔ぶれ — 北陸・南九州が沈む
格差のもう一方の端、最下位5県を見てみよう。
| 順位 | 都道府県 | 平均年収(万円) |
|---|---|---|
| 43 | 岐阜県 | 1188.2 |
| 44 | 和歌山県 | 1185.5 |
| 45 | 茨城県 | 1079.3 |
| 46 | 鹿児島県 | 1060.1 |
| 47 | 石川県 | 935.4 |
最下位は石川県(935.4万円)。隣接する富山県が8位(1598.6万円)と上位なのに、石川県だけが突出して低いのは興味深い。また、九州の鹿児島県が46位(1060.1万円)に沈む一方、同じ九州の沖縄県は1位、福島・山形などの東北は上位——と、「地方だから高い/低い」では説明しきれないばらつきがある。
なぜこうした差が生まれるのか。背景として考えられる構造的な要因を整理する。
TIP
医師の給与は「需要と供給のバランス」で決まる側面が大きい。医師が集まりにくい地域ほど、自治体や病院が高い報酬を提示して人材を確保しようとする。逆に、医師の供給が安定している地域では給与で競争する必要が薄くなる。
[仮説] 医師確保インセンティブ説:沖縄(離島医療)、北海道(広域・へき地)、青森・福島・山形(東北の医師不足地域)が上位に来るのは、医師を呼び込むための高額な報酬・手当が反映されている可能性がある。検証には、各県の医師偏在指標や地域手当の支給実態との突合が必要。
[仮説] 標本変動説:賃金構造基本統計調査は標本調査であり、医師は母数が少なく給与の幅も広い。石川県(47位)が突出して低い、隣の富山県(8位)が高い、といった隣県間の大きな差は、単年の標本の偏りを含んでいる可能性がある。検証には複数年の平均値や中央値での比較が必要。
いずれも本データ単独では断定できない仮説であり、医師偏在指標や年齢構成、複数年の傾向と組み合わせた検証が求められる。
大都市は高くも低くもない — 中位に散らばる
「医師として稼ぐなら大都市」という直感はどうか。三大都市圏の主要県を並べると、上位独占でも下位独占でもなく、中位を中心に散らばっていることがわかる。
- 愛知県:9位(1597.0万円)
- 埼玉県:11位(1594.7万円)
- 東京都:14位(1520.6万円)
- 神奈川県:18位(1493.0万円)
- 大阪府:34位(1323.8万円)
- 千葉県:38位(1295.8万円)
愛知・埼玉・東京は上位寄り、大阪・千葉は下位寄りと、同じ「大都市圏」でも結果はまちまちだ。医療機関も人口も全国最大の東京都が14位という結果からは、「医療資源が豊富=医師個人の年収が高い」という単純な関係は成立しないことが読み取れる。
WARNING
賃金構造基本統計調査は標本調査であり、医師のように母数が少なく給与の幅が広い職種では、年ごとの順位変動が大きくなります。単年の順位だけで「この県は常に高い/低い」と断定するのは禁物で、複数年の傾向で見るのが安全です。
まとめ
- 1位は沖縄県1853.8万円、最下位は石川県935.4万円で、その差は1.98倍(全国平均1442.8万円)。
- 上位は沖縄・北海道(1783.6万円)・群馬(1766.4万円)・福島(1706.1万円)・青森(1681.6万円)など北日本・地方に偏る。
- 最下位は石川47位、鹿児島46位(1060.1万円)、茨城45位(1079.3万円)と、地方でも下位に沈む県がある。
- 大都市圏は愛知9位・東京14位・大阪34位・千葉38位と中位に散らばり、「医療資源の豊富さ」と年収は一致しない。
- ただし標本調査ゆえ年変動が大きく、隣県間の大差(富山8位 vs 石川47位)は[仮説]の域を出ない。複数年・医師偏在指標との突合が今後の課題。
データ出典
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(2023年)。きまって支給する現金給与額×12+年間賞与で年収を推計。e-Stat 経由で整備したデータをもとに集計。