「ITエンジニアは稼げる職業だ」——そう言われることは多い。だが、他の専門職と横並びで比べると、その位置づけは少し違って見える。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の2023年データで主要な専門職の平均年収を並べると、最も高いのは医師の1,442.8万円。次いで大学教授977.8万円、大学准教授811.7万円と続く。ソフトウェア作成者(システムエンジニア・プログラマ等)の平均年収は507.9万円で、主要20職種の中ではちょうど中位(11番目)にあたる。
同じ「専門スキルを要する仕事」でも、職種によって年収帯はこれほど違う。本記事では、職種別の年収序列を可視化し、エンジニアの年収が「職種という壁」の中でどこに位置するのか、そしてその壁をどう越えるのかを考える。
NOTE
データは厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の職種別平均年収(2023年・全国平均、推計値)です。きまって支給する現金給与額×12+年間賞与から算出。職種区分や集計対象により水準は変動します。
職種別の年収序列 — 医師を頂点に大きな開き
まず全体像を押さえる。上位は医師(1,442.8万円)、大学教授(977.8万円)、大学准教授(811.7万円)、研究者(670.2万円)、高校教員(614.9万円)。これに続くのがシステムコンサルタント(612.0万円)、薬剤師(578.0万円)、助産師(563.2万円)、建築技術者(559.3万円)、電気工(539.5万円)だ。
ソフトウェア作成者(507.9万円)は看護師(499.3万円)やトラック運転手(467.8万円)の少し上、20職種中11番目に位置する。最上位の医師とは約2.8倍の開きがある。職種を変えるだけで年収帯が2倍以上動くのが、まず確認できる事実だ。
なぜ職種で年収帯が決まるのか — 参入障壁と希少性
職種による年収差の背景にあるのは、参入障壁と希少性だ。医師・薬剤師のように国家資格と長期の養成課程が必要な職種は、供給が制限されるため高い年収が維持される。大学教授・研究者は高度な専門性と長いキャリア形成が前提になる。参入の壁が高いほど供給が絞られ、年収が下支えされる構図だ。
一方でエンジニアは原則として資格を必要とせず、誰でも参入できる。それゆえ供給が増えやすく、平均年収は20職種中11番目という中位にとどまる。だが、資格がないことは弱みであると同時に強みでもある。資格職は参入障壁が高く安定する反面、年収の上限も制度や報酬体系である程度決まってしまう。対してエンジニアは、資格に守られていないぶん下限は低くなりがちだが、その代わり上限が大きく開いている。スキル・専門領域・所属企業の選び方しだいで、同じ「ソフトウェア作成者」という区分のなかでも報酬は大きく変わる。
WARNING
職種の平均年収は「天井」ではなく「中心」を示すにすぎない。ソフトウェア作成者の平均は508万円だが、上流職や高需要領域に移れば年収帯は大きく変わる。実際、同じIT領域でもシステムコンサルタント(612.0万円)は開発職より約104万円高い。
つまりエンジニアにとっての問いは「どんな資格を取るか」ではなく「市場でどう評価される実績を積むか」だ。中位という位置は固定された宿命ではなく、学習と移動で書き換えられる出発点である。
エンジニアが「職種の壁」を越える道筋
職種別の序列を踏まえると、エンジニアが年収を上げる道筋は2つに絞れる。ひとつは、開発職からシステムコンサルタント・アーキテクト・PMといった上流職へシフトすること。データ上もシステムコンサルタント(612.0万円)はソフトウェア作成者(507.9万円)より約104万円高く、同じIT領域内での移動が年収帯を一段押し上げることがわかる。
もうひとつは、高需要・高単価の技術領域(クラウド・データ・セキュリティ等)に専門性を寄せ、希少性で評価を取りにいくことだ。資格職のように制度で守られない代わりに、希少性を自ら作り出せるのがエンジニアの自由度である。
TIP
自分のスキルが「どの職種・どのポジションで、いくらで評価されるか」は、市場に当ててみないとわからない。エンジニア専門の転職エージェントを使えば、現職のスキルセットから狙える上位ポジションと想定年収レンジを把握できる。年収アップの第一歩は、平均値ではなく自分の市場価値を知ることだ。
最上位の医師との2.8倍差のように、職種そのものの壁は動かしにくい。だが同じIT領域の内側でも100万円規模の差がポジション次第で生まれている以上、「職種の壁」は手の届く範囲で十分に書き換えられる。平均値に甘んじず、より評価される職種・領域へ意識的に移っていくこと——それがエンジニアにとっての年収戦略だ。
システムコンサルタントの年収ランキングと比べてみるデータ出典
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(e-Stat 統計データ、2023年)
- 各職種の平均年収は、きまって支給する現金給与額×12+年間賞与から算出した全国平均の推計値(企業規模10人以上)