「ソフトウェアエンジニアとして年収を上げたいなら、やっぱり東京だろう」——IT人材の求人も給与水準も東京に集中している、という直感は多くの人が共有しているはずだ。ところが厚生労働省「賃金構造基本統計調査」の2023年データを都道府県別に並べると、その直感は裏切られる。ソフトウェア作成者の平均年収が最も高いのは京都府の608.4万円。東京都は571.7万円で6位にとどまり、頂点ではない。最下位は沖縄県の402.6万円で、トップとは約1.5倍の開きがある。
本記事では、なぜ頂点が東京ではないのか、その「平均値」というデータの読み方を軸に、地域の年収格差がどこから生まれるのかを読み解く。
NOTE
データは厚生労働省「賃金構造基本統計調査」のソフトウェア作成者(システムエンジニア・プログラマ等を含む職種区分)の平均年収です。きまって支給する現金給与額×12+年間賞与から算出した推計値で、企業規模10人以上の事業所が対象。あくまで事業所所在地ベースの平均であり、個々人の年収レンジの広さは反映されません。
ランキングの全体像 — 京都と沖縄で約1.5倍、東京は6位
1位は京都府(608.4万円)、最下位は沖縄県(402.6万円)で、その差は約1.5倍。注目すべきは上位の顔ぶれだ。京都・愛知(596.5万円)・栃木(586.7万円)・大阪(584.5万円)・岐阜(579.9万円)と続き、東京は6位(571.7万円)。「大都市圏の中心」だけが上位を占めるわけではなく、製造業や研究開発の集積地が並ぶ。
なぜ東京がトップではないのか — 「平均値」が映さないもの
IT求人の数では圧倒的な東京が、平均年収では6位に沈む。ここで効いているのが「平均値」という指標の性質だ。賃金構造基本統計調査の数値は事業所単位の平均であり、スタートアップから大手SIerの下請けまで賃金水準の異なる事業所が大量にある県では、平均が中位に引き寄せられやすい。東京の平均が中位に近いことは「東京では稼げない」を意味しない。1,000万円超の高年収エンジニアも多数いる一方で、低賃金の事業所も多く、両者が均された結果にすぎない。
WARNING
京都・愛知・栃木が上位に来る理由を「大手メーカーや研究開発拠点が多いから」と断じるのは、本データだけでは裏付けられない**[仮説]**だ。検証には県別の産業構成データとの突き合わせが必要になる。本記事で確実に言えるのは「どの県に住めば自動的に高年収になるか」ではなく、「地域の賃金水準には構造的な差がある」という事実までにとどめておく。
額面だけでなく生活コスト(特に家賃)まで考慮すれば、順位はさらに入れ替わる。額面6位の東京は家賃が全国最高水準で、手取りベースでは順位が下がりうる。
県別の平均給与(全産業)と比べてみる全国平均は13年で約1.3倍に — 相場が動く局面の含意
地域差と並んで見逃せないのが時系列の変化だ。ソフトウェア作成者の全国平均年収は、2010年の380.1万円から2023年の507.9万円へと約1.3倍に上昇した。とりわけ2019年(405.2万円)から2020年(470.9万円)への伸びが大きく、DX需要とエンジニア不足を背景に市場価値が底上げされてきた。
この上昇局面には、地域差とは別の含意がある。相場が上がり続けるとき、転職市場の提示年収は現職の昇給ペースを追い越しやすい。昇給が年数千円〜数万円のあいだに、外の相場は年数十万円単位で動くこともある。つまり長く同じ職場にとどまるほど「自分の給与」と「いまの市場価値」の差が静かに広がる。これは能力の問題ではなく、相場が動いているのに自分の値札を更新していないことから生じるズレだ。地域の相場も現職の給与テーブルも、本人のスキルとは別の「環境要因」にすぎない。年収レンジやリモート可否で求人を絞り込めるエンジニア特化の転職エージェントなどを使えば、上がった市場価値が自分の額面に反映されているかを客観的に確認しやすくなる。
まとめ — 年収は「地域の相場」に縛られているか
- 1位は京都府608.4万円、東京都は571.7万円で6位。「IT=東京が一番稼げる」という直感は2023年データでは成り立たない
- 最下位は沖縄県402.6万円、トップとの差は約1.5倍
- 上位は京都・愛知・栃木・大阪・岐阜と、必ずしも大都市圏の中心に偏らない
- 平均値は分布の中心を示すだけで、額面と手取り(家賃考慮後)の順位はさらに入れ替わる
- 全国平均は13年で約1.3倍に上昇。相場が動く局面ほど、額面が市場価値に見合っているかを確認する意味は大きい
データ出典
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(e-Stat 統計データ、2010〜2023年)
- ソフトウェア作成者の平均年収は、きまって支給する現金給与額×12+年間賞与特別給与額から算出した推計値(企業規模10人以上)