物価補正で逆転する県の豊かさ

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「1人当たり県民所得」のランキングで東京がダントツ1位なのは周知の事実です。しかし、東京の物価は全国で最も高い。同じ576万円でも、東京で暮らすのと群馬で暮らすのでは「買えるもの」が違う。そこで本記事では、名目所得を物価で割った「実質購買力」で47都道府県を並べ替えます。

NOTE

「県民所得」は県全体の所得を人口で割った指標であり、個人の年収や手取り額とは異なります。雇用者報酬・財産所得・企業所得を合算した「県の経済力÷人口」です。本記事の計算式は 実質購買力 = 名目県民所得 ÷ 消費者物価地域差指数 × 100 です。

名目の県民所得ランキング──東京576万円で圧倒

1人当たり県民所得 上位10・下位10 出典:e-Stat 県民経済計算

1位は東京都の576.1万円。2位の愛知県(359.7万円)に200万円以上の大差をつけています。3位の茨城県(343.8万円)、4位の静岡県(331.4万円)、5位の栃木県(330.7万円)と続き、意外にも首都圏のベッドタウンである神奈川県は10位(319.9万円)にとどまります。

下位に目を向けると、47位は沖縄県の225.8万円。東京との差は350万円、約2.6倍の格差です。

しかし、このランキングには落とし穴があります。物価が違うのです。東京の物価指数は104.0、群馬は96.2──同じ1万円で買えるモノの量が約8%も違います。

実質購買力ランキング──物価補正で浮かぶ本当の実力

実質購買力ランキング(物価補正後) 出典:県民所得は [e-Stat 県民経済計算](https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0000010103)(2021年度)、物価指数は [e-Stat 消費者物価地域差指数](https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0000010212)(2024年)

物価で補正した実質購買力で並べ替えると、順位が変動します。

東京都は名目576.1万円→実質553.9万円に目減りするものの、他県との差が大きすぎて1位は揺るぎません。2位の愛知県(実質366.7万円)も、物価の安さ(98.1)が効いて名目とほぼ変わらない位置を維持しています。

注目すべきは**群馬県です。名目11位から実質8位へ3ランク上昇**。物価指数96.2は全国最安で、名目318.7万円が実質331.3万円に膨らみます。同様に**長野県(**名目24位→実質21位、+3)、**新潟県(**名目26位→実質23位、+3)も物価の安さで実質順位を押し上げています。

逆に大きく順位を下げたのが神奈川県。名目10位から実質16位へ6ランクダウン。所得319.9万円に対して物価指数103.3が重く、実質購買力は309.7万円にとどまります。北海道も名目32位→実質37位(-5)と、高い物価(101.9)が所得の低さに追い打ちをかけています。

都道府県マップ

実質購買力 都道府県マップ 出典:県民所得(2021年度)÷ 物価地域差指数(2024年)× 100

マップで見ると、**東海・北関東の色が濃い(**購買力が高い)のが目立ちます。愛知・茨城・栃木・静岡・富山──これらは「所得がそこそこ高い+物価が安い」という組み合わせで、実質的な暮らしやすさでは大都市圏を上回ります。

一方、沖縄・北海道は色が薄い。所得が低いうえに物価も全国平均を超えるため、実質購買力で見ると二重に不利な構造です。

47都道府県の1人当たり県民所得ランキングをもっと見る

県民所得の推移──2020年の落ち込みから回復途上

1人当たり県民所得の推移(全国平均) 出典:e-Stat 県民経済計算

全国平均の1人当たり県民所得は、2011年の298.9万円から2018年の338.8万円まで緩やかに上昇しました。しかし2020年にコロナ禍で313.3万円に急落。2021年は333.0万円まで回復していますが、2018年のピークには届いていません。

この10年間の伸び率は約11%。一方で消費者物価指数は同期間に数%上昇しており、実質ベースの所得増はさらに小幅です。「賃上げ」が叫ばれる背景には、この緩慢な所得成長があります。

所得と物価の関係──相関はあるが例外も多い

1人当たり県民所得 x 消費者物価地域差指数 出典:県民所得は e-Stat 県民経済計算(2021年度)、物価指数は e-Stat 消費者物価地域差指数(2024年)

散布図で所得(横軸)と物価(縦軸)の関係を見ると、**右上に東京・神奈川(**高所得×高物価)、**左下に宮崎・鹿児島・群馬(**低所得×低物価)が位置し、一定の正の相関があります。

しかし例外が重要です。

  • 右下エリア(高所得×低物価):愛知・茨城・栃木・富山・滋賀などが集まるゾーン。ここが実質購買力で最も有利な都道府県群です
  • **左上エリア(**低所得×高物価):沖縄・北海道・山形が該当。所得が低いのに物価が高く、実質的に最も厳しい地域です

大阪府は意外にも物価指数99.3と全国平均以下。首都圏(東京104.0・神奈川103.3・千葉101.2・埼玉100.3)に比べて物価面では暮らしやすいと言えます。

費目別の物価格差──住居費が地域差を決めている

「物価が高い」と一口に言っても、費目によって地域差の大きさはまったく違います

住居費の格差が圧倒的です。東京都の住居物価指数は127.2に対し、最も低い岐阜県は81.3。約1.56倍の差があります。この差は、食料(沖縄106.7 vs 長野95.8、約1.11倍)や光熱・水道(北海道119.6 vs 大阪87.0、約1.37倍)を大きく上回ります。

費目最高(県)最低(県)倍率
住居127.2(東京)81.3(岐阜)1.56倍
教育125.1(大阪)78.8(富山)1.59倍
光熱・水道119.6(北海道)87.0(大阪)1.37倍
食料106.7(沖縄)95.8(長野)1.11倍
総合104.0(東京)96.2(群馬)1.08倍

注目すべきは教育費の地域差。大阪府が125.1で全国最高、富山県が78.8で最低と、住居に匹敵する格差があります。私立学校の学費や塾代が都市部で高いことが背景にあります。

住居費と教育費──この2つが、都市部と地方の「暮らしのコスト」の違いを最も大きく左右しています。

TIP

総合物価指数では東京104.0と群馬96.2の差はわずか8ポイントですが、住居だけに絞ると東京127.2 vs 岐阜81.3で46ポイントの差。「何にお金がかかるか」を費目別に見ることで、移住の判断材料が変わります。

消費者物価地域差指数の詳細ランキングを見る

まとめ

「県民所得ランキング」は最もよく引用される経済指標のひとつですが、物価を考慮しないと実態を見誤ります。

本記事の分析から見えたポイントを整理します。

  1. 東京は名目・実質ともに1位だが、22万円分の「目減り」がある。576.1万円の名目所得は物価補正後553.9万円に。物価指数104.0の代償は小さくない
  2. 北関東・中部が実質の勝ち組。茨城・栃木・愛知・富山・群馬は所得水準と物価安のバランスが良く、実質購買力の上位を占める
  3. 神奈川は名目10位→実質16位と最大の下落幅。首都圏の高物価が所得を相殺する典型例
  4. 沖縄・北海道は「低所得×高物価」の二重苦。実質購買力では全国でもっとも厳しい地域
  5. 住居費の地域差が最大。東京の住居物価指数127.2に対し岐阜は81.3。住む場所を変えるだけで生活コストが劇的に変わる

移住や転職を考えるとき、名目の年収だけでなく「その地域の物価で何が買えるか」を意識することが、本当の豊かさにつながるのではないでしょうか。

データ出典

本記事のデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)を基に作成しています。

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