三重県の地域プロフィールを数字で覗くと、海の幸を練り込んだ加工品と、うどん文化を支える粉ものが際立って浮かび上がります。総務省「家計調査」の品目別支出データによると、三重県庁所在市(津市)の二人以上世帯は他の魚肉練製品(ちくわ・はんぺんなど)の消費支出額で全国1位を記録し、小麦粉も全国2位、かにも4位という結果でした。家計消費のデータは経済カテゴリ一覧からも横断的に確認できます。
一方で、同じ貝でも「しじみ」の消費支出額は46位とほぼ最下位に沈みます。海に面し漁業が盛んな県でありながら、なぜ淡水の貝だけがこれほど支出されないのでしょうか。この記事では4つの品目データから三重の食卓の輪郭を描き、海と粉が交差する食文化の理由を探ります。
NOTE
本記事のデータは総務省「家計調査(品目別支出額)」2024年、都道府県庁所在市(三重県は津市)における二人以上世帯の1世帯あたり年間支出額です。全国順位は47都道府県庁所在市の比較によるものであり、県内他地域の消費実態とは異なる場合があります。
他の魚肉練製品 — 全国1位2,460円、伊勢志摩の練り物文化
三重県は他の魚肉練製品(ちくわ・はんぺん・さつま揚げなど、かまぼこ以外の練り製品を指す品目)の消費支出額で全国1位、2,460円を記録しました。2位の静岡県(2,453円)とはわずか7円差で、事実上の首位争いです。3位は福島県(2,293円)、4位は岐阜県(2,250円)と続き、いずれも沿岸部から内陸まで幅広い県が並びます。
三重が上位に来る背景には、伊勢志摩沿岸の練り物文化があります。松阪市や伊勢市周辺では地元の漁港で水揚げされたエソやグチなどの白身魚をすり身にした練り製品が日常的に食卓に上る土地柄で、スーパーの練り物コーナーの品揃えも豊富です。おでんや煮物の具材として通年で消費される点も、支出額を押し上げる要因と考えられます。最下位は沖縄県(496円)で、三重の約5.0倍の開きがありました。
小麦粉 — 全国2位912円、伊勢うどんを支える粉文化
小麦粉の消費支出額でも三重県は912円で全国2位につけました。1位は隣県の岐阜県(1,042円・全国1位)で、3位福岡県(900円)、4位長野県(857円)が続きます。三重・岐阜という中部圏の隣接県が上位を占める形です。
三重には郷土料理「伊勢うどん」があり、極太麺を柔らかく茹でてたまり醤油ベースのタレで食べる独自のうどん文化が根付いています。家庭で麺を打つ習慣や、粉物の惣菜・お好み焼き類を作る頻度が高い地域性が、小麦粉の家庭消費を押し上げている可能性があります。最下位の山梨県(482円)とは約2.2倍の差で、他の食品ほど格差は大きくありませんが、粉文化圏としての三重の輪郭がうかがえます。
かに — 全国4位2,819円、鳥取・福井には及ばず
かにの消費支出額は三重県が2,819円で全国4位でした。上位は日本海側のズワイガニ産地が独占しており、1位鳥取県(5,610円)、2位福井県(5,502円)が三重の2倍近い支出額を記録しています。3位は奈良県(2,865円)で、三重とはわずか46円差でした。
三重は鳥取・福井のような日本海側のブランドがに産地ではありませんが、志摩半島の答志島などで水揚げされる地がになど、太平洋側でもかに食文化は根付いています。上位2県が突出する一方、三重・奈良を含む3位以下は僅差の混戦で、地域ブランドの強さがそのまま支出額の差になっている構図が見えます。最下位は沖縄県(181円)で、鳥取とは31.0倍の格差がありました。
しじみ — 46位92円、海の県が淡水の貝で沈む理由
海産物では上位に立つ三重県ですが、しじみの消費支出額は92円で46位とほぼ最下位です。1位は宍道湖のしじみ漁で知られる島根県(1,943円)で、三重の約21.1倍。2位茨城県(1,084円)、3位青森県(863円)と、いずれも汽水湖や大河川の産地が上位を占めています。
しじみは宍道湖(島根)、涸沼(茨城)、十三湖(青森)のように特定の汽水湖・河口域に漁場が集中する食材です。三重県内には伊勢湾や英虞湾など内湾はあるものの、しじみ漁が地場産業として定着した大規模な産地がありません。三重の食卓が「伊勢志摩の海の幸」に強く寄っているのは事実ですが、それは外洋・内湾の魚介類が中心であり、汽水域特有の貝類文化とは別の系統にあることが、この最下位という結果から読み取れます。
WARNING
ここで扱う数値は消費「支出額」であり、消費「量」ではありません。地元で自家消費・贈答される練り製品やかにが多い場合、支出額には反映されず実際の食文化の厚みが過小評価されている可能性があります。また、個別の品目として集計されない伊勢うどんや松阪牛は、本記事の家計調査品目には含まれていません。
三重の食卓を貫くもの
三重の4品目を並べると、1つの軸が浮かび上がります。それは「海の恵みを加工して日常に取り込む力」と「粉もの文化の強さ」という2つの顔です。他の魚肉練製品とかにが示すのは、伊勢志摩沿岸で獲れる魚介を練り物や鍋物として食卓に頻繁に取り入れる習慣です。一方で小麦粉の高順位は、伊勢うどんに代表される粉食文化の存在を裏付けています。
同じ「食卓を貫く軸」を持つ県として、鳥取の食卓はかに・梨がいずれも全国上位という単一産地の強さで貫かれており、三重の「海の加工品+粉もの」という二重の軸とは対照的です。また小麦粉の消費量の地図では、うどん県のイメージだけでは説明できない粉文化圏の広がりが指摘されており、三重もその一角を占めています。
しじみだけが際立って低いのは、この2つの軸のどちらにも当てはまらない食材だからです。海産の加工品でも粉ものでもない汽水域の食材は、三重の食文化の外側に位置していると考えられます。
TIP
三重のように「海の幸」と「粉もの」という異なる系統の品目が両方上位に来る県は珍しく、単一の名産(かに・りんごなど)に依存する県より食文化の幅が広いと読めます。1つの県を見るときは、上位品目が同じ系統(魚介・農産物・粉物など)に偏っているか、複数系統にまたがっているかを確認すると、その土地の食生活の多様性が見えてきます。
まとめ
- 他の魚肉練製品は全国1位2,460円。2位静岡県(2,453円)とは僅差の首位
- 小麦粉は全国2位912円。1位は隣県の岐阜県(1,042円)で中部圏の粉食文化圏を形成
- かには全国4位2,819円。1位鳥取県(5,610円)・2位福井県(5,502円)の日本海側ブランド産地には及ばず
- しじみは46位92円。1位島根県(1,943円)の約21.1倍差で、汽水湖産地を持たない三重の弱点が浮き彫りに
データ出典
総務省統計局「家計調査(品目別)」2024年、都道府県庁所在市(三重県:津市)二人以上世帯の1世帯あたり年間支出額。e-Stat(政府統計の総合窓口)経由で取得したデータをもとに集計しています。