大分県の食卓を数字で覗くと、まず目に飛び込んでくるのが干ししいたけです。総務省の家計調査(品目別)によると、大分県庁所在市の二人以上世帯が1年間に干ししいたけへ使う金額は731円で、全国47都道府県のうち堂々の1位です。乾物という地味な品目で全国トップに立つ県は珍しく、これは偶然ではありません。
さらに目を引くのが焼肉です。全国2位の15,270円という支出額は、1位の高知県(21,768円)に次ぐ水準で、全国平均を大きく上回ります。そして麦焼酎の本場らしく、焼酎の支出額も全国4位(8,199円)につけています。乾物・炭火焼き・蒸留酒という一見バラバラな3品目をつなぐと、大分の食卓には「豊後の山と海の恵みを、じっくり乾かし、じっくり焼き、じっくり醸す」という一本の軸が浮かび上がります。この記事では、家計調査の実データから大分の食文化を3つの角度で読み解きます。
NOTE
この記事のデータは総務省統計局「家計調査(品目別)」2024年、都道府県庁所在市(大分県は大分市)の二人以上世帯の年間支出額です。世帯単位の平均支出であり、県民1人あたりの消費量そのものではありません。
干ししいたけ — 全国1位731円、乾物大国の底力
大分県は干ししいたけ消費支出額で全国1位(731円)です。2位の鹿児島県(672円)、3位の新潟県(656円)を抑えての首位で、最下位の高知県(全国47位・101円)とは実に7.2倍の開きがあります。
この背景には、大分県が乾しいたけ生産量で全国トップクラスを誇る産地であるという事実があります。県の中山間部、とくに大分市・佐伯市・豊後大野市などの原木林ではクヌギやコナラを使ったほだ木栽培が盛んで、冬場の乾燥した空気と寒暖差が良質な干ししいたけを育てます。産地であることは「消費量が多い」ことと直結しませんが、生産地の近くでは流通量が多く価格も手頃になりやすいうえ、椎茸を煮しめや雑煮の具として日常的に使う調理文化が根付いています。地元で採れたものを地元で食べる、というシンプルな構図が支出額の首位を支えていると考えられます。
焼肉 — 全国2位15,270円、豊後牛が支える炭火文化
焼肉の支出額で大分県は全国2位(15,270円)です。首位の高知県(全国1位・21,768円)には及びませんが、3位の岡山県(13,915円)を上回る水準で、全国平均を大きく引き離しています。最下位の兵庫県(全国47位・3,943円)とは3.9倍の差がついています。
大分県には「豊後牛」というブランド和牛があり、県内では焼肉店や精肉店で地元産牛肉が手に入りやすい環境が整っています。また大分市を中心に焼肉店の店舗密度が高いとされ、家族での外食や自宅での焼肉パーティーが日常的な食習慣として定着していることがうかがえます。九州は全体的に焼肉文化が強い地域ですが、大分はその中でも突出した支出額を記録しており、干ししいたけと同様に「地元の食材を、地元の調理法で楽しむ」志向が焼肉にも表れていると読み取れます。
焼酎 — 全国4位8,199円、麦焼酎発祥地のプライド
焼酎の支出額は大分県が全国4位(8,199円)です。首位の宮崎県(全国1位・14,008円)、2位の鹿児島県(10,138円)、3位の熊本県(8,796円)と九州勢が上位を独占するなかで、大分もそれに続く一角を占めています。最下位の宮城県(全国47位・3,179円)とは2.6倍の差です。
大分県は麦焼酎発祥の地として知られ、日田市の三隈川流域や県内各地に歴史ある蒸留所が点在します。米や芋の焼酎が主流の他の九州県とは異なり、大分は麦焼酎という独自のポジションを持ちながらも、九州全体の「焼酎を日常的に飲む」文化圏にしっかり組み込まれています。焼肉に合わせて焼酎を飲む、という食卓の組み合わせも想像に難くありません。
WARNING
この記事の数値は「支出額」であり「消費量」ではないため、単価が高い商品を少量買う県と、単価が安い商品を多く買う県を同列に比較できない点に注意してください。また、大分名産として知られる「かぼす」や「関あじ・関さば」は家計調査の個別品目として集計されていないため、この記事では扱っていません。
大分の食卓を貫くもの
干ししいたけ・焼肉・焼酎という3つの品目に共通するのは、「素材をそのまま活かす、手をかけた食文化」という軸です。乾物としてじっくり乾燥させた椎茸、炭火でじっくり焼く豊後牛、じっくり蒸留した麦焼酎——いずれも時間をかけて素材の味を引き出す調理・加工法が根底にあります。派手さはなくとも、地元の恵みを丁寧に扱う姿勢が、家計調査という淡々とした数字の中にも滲み出ています。
同じように県固有の食文化を数字で読み解いた記事として、麦焼酎文化圏の隣県熊本の食卓や、焼酎首位県宮崎の食卓もあわせてご覧ください。九州各県の違いを比べると、大分の「乾物と炭火」という個性がより際立ちます。
TIP
大分の3品目のうち、干ししいたけだけが唯一の全国1位です。焼肉・焼酎は僅差の2位・4位にとどまっており、「首位は乾物、準位は肉と酒」という並びは、大分の食文化が派手な嗜好品より地道な保存食・加工食品に強みを持つことを示唆しています。乾しいたけの生産地としての厚みが、消費行動にもそのまま表れている点が興味深い発見です。
まとめ
- 干ししいたけ消費支出額は大分県が全国1位(731円)、最下位の高知県(101円)とは7.2倍差
- 焼肉消費支出額は大分県が全国2位(15,270円)、1位の高知県(21,768円)に次ぐ水準
- 焼酎消費支出額は大分県が全国4位(8,199円)、九州勢が上位を占める中での一角
- 3品目に共通するのは「素材をじっくり手をかけて活かす」大分の食文化の軸
- 経済カテゴリ一覧では大分以外の都道府県の家計調査データも比較できる
データ出典
総務省統計局「家計調査(品目別)」2024年、都道府県庁所在市(二人以上世帯)。e-Stat(政府統計の総合窓口)経由で取得。