「在宅で働くのが当たり前になった」と感じている人と、「うちの地域にそんな働き方はない」と感じている人がいます。この感覚の差は、気のせいではなく、データにはっきり出ています。
2022年の就業構造基本調査によると、テレワークを実施した人の割合は、東京都で39.8%でした。働く人のおよそ4割が在宅勤務を経験しています。一方、最も低い秋田県は6.4%にとどまります。その差は約6.2倍で、同じ国の同じ時期の調査とは思えないほど開いています。
この記事では、テレワーク実施率が6倍も違う理由を、単なる「都会と地方」では片付けずに掘り下げていきます。鍵を握るのは情報通信業がどこに集まっているかであり、さらに「テレワークが進んだ県は副業も盛んなのか?」という直感を、データは意外な形で裏切ります。
NOTE
ここでいうテレワーク実施率は、有業者のうち2022年にテレワーク(在宅勤務・モバイルワーク等)を実施した人の割合。総務省「就業構造基本調査」(2022年)に基づく。コロナ禍を経た直後の調査であり、その後の出社回帰の動きは反映していない点に注意。
テレワーク率ランキング:上位は首都圏、下位は東北・南九州
上位の顔ぶれは予想どおりで、東京39.8%・神奈川30.0%・千葉23.9%・埼玉21.7%と、首都圏4都県が一気に並びます。5位は大阪19.7%、6位**愛知18.1%**と三大都市圏が続きます。
注目したいのは「上位グループのなかでの落差」です。1位東京の39.8%と2位神奈川の30.0%だけで約10ポイントの差があり、3位以下は20%台前半に急落します。テレワークは大都市圏のなかでも東京だけが突出している構造が見えてきます。
一方、下位は東北と南九州に集中しています。最下位の**秋田6.4%**を筆頭に、**島根7.1%・青森7.2%・鹿児島7.6%・高知7.6%**と、7%前後の県が固まっています。上位の東京と比べると、在宅で働ける人の割合は7分の1以下です。なぜこれほど明確に「上は首都圏、下は東北・南九州」と分かれるのか。次の章で産業構造から読み解いていきます。
テレワーク実施率の47都道府県ランキングをもっと見る6倍差の真因は「情報通信業がどこにあるか」
なぜここまで差がつくのでしょうか。最も説明力が高いのは、テレワークしやすい仕事そのものが、どこに存在するかという産業構造の問題です。
在宅で完結しやすい代表格はIT・情報通信業ですが、この業種は極端に東京へ集中しています。経済センサスによる情報通信業の事業所数を見ると、東京都は22,591所で全国1位です。2位の大阪府6,152所、3位の神奈川県4,032所を大きく引き離しています。
対して下位県では、事業所そのものが極端に少なくなっています。テレワーク最下位の秋田県は情報通信業の事業所が316所(39位)、テレワーク46位の島根県も264所(42位)しかありません。事業所数の最下位は佐賀県の218所で、東京とは実に100倍を超える開きがあります。テレワーク率の上位・下位が、そのまま情報通信業の集積の上位・下位とほぼ重なるのです。
情報通信業の事業所数ランキングを見るこの「ほぼ重なる」を散文だけで語ると印象論に見えてしまうので、47都道府県を1枚の散布図にして確かめます。横軸に情報通信業の事業所数(対数目盛)、縦軸にテレワーク実施率をとると、点群は左下から右上へきれいに伸びていきます。両者の相関係数(対数変換後)は約0.84で、統計的にはかなり強い正の相関です。
図の右上に1点だけ離れて位置するのが東京都です。事業所数22,591所・テレワーク率39.8%と、両軸ともに突き抜けた外れ値で、東京が「テレワーク先進」というより「情報通信業の一極集中」の帰結であることが視覚的にわかります。一方、左下に固まる秋田・島根・佐賀などの点は、事業所数が少ないほどテレワーク率も低いという関係をそのまま描いています。点の散らばりが直線状に並ぶほど、「在宅でできる仕事が地域にどれだけあるか」がテレワーク率をほぼ説明していることになります。
TIP
「テレワークできるかどうか」は本人の意欲より、勤務先の業種と、その業種が地域に存在するかどうかでほぼ決まる。情報通信業の集積マップとテレワーク率のマップは、上位・下位ともにほぼ重なる。在宅勤務を前提に移住先を選ぶなら、まず狙う県にどんな産業があるかを確認したい。
つまり「東北の人は在宅勤務をしたがらない」のではなく、在宅で完結する仕事の受け皿が地域にほとんどないのです。これが6倍差の構造的な背景です。逆に言えば、テレワーク率は「その県のホワイトカラー・IT産業の厚み」を映す鏡でもあります。
WARNING
情報通信業の事業所数とテレワーク率は強く重なるが、これは「相関」であって因果の証明ではない。事業所数は2014年の経済センサス、テレワーク率は2022年と調査年が8年離れている。年次差と、事業所数(規模を問わない件数)という指標の性質を踏まえると、両者の重なりは「テレワーク可能な仕事の地理的偏り」を示す傍証として読むのが妥当。
「テレワーク先進県は副業も盛ん」は本当か:データが裏切る直感
ここで一つの仮説が浮かびます。「在宅で柔軟に働ける県では、副業に取り組む人も多いのではないか」──時間と場所の自由が副業を後押しする、という直感です。ところが、データはこの直感をきれいには支持しません。
副業実施率の1位は、テレワーク率では8位の**京都府で7.8%でした。テレワーク1位の東京都は副業では2位の6.6%で、首位を譲っています。一方で、テレワーク46位の島根県は副業率では6位(5.6%)**と上位に食い込んでいます。
この副業率の上位5県を見ると、京都・東京こそ並ぶものの、長野・和歌山・鳥取といった、テレワーク率では中位以下の県が顔を出します。テレワーク率の上位を首都圏が独占していたのとは、明らかに違う顔ぶれです。下位5県も宮崎・大分・青森・静岡・福岡と、テレワーク下位とは一致しません。同じ「柔軟な働き方」でも、上位・下位の地図がここまでずれること自体が、両者を別の現象として扱うべき証拠になっています。
WARNING
テレワーク率と副業率の順位は一致しない。テレワーク最下位の秋田県は副業率でも39位(4.2%)と低いが、テレワーク下位の島根県は副業率が上位というねじれが起きている。両者を単純に「柔軟な働き方」として束ねると実態を見誤る。[仮説] 副業率の高さは在宅勤務よりも、農業・自営業など兼業しやすい産業構造を反映している可能性がある。検証するには産業別就業者構成との突き合わせが必要で、本記事のデータだけでは断定できない。
副業率の最下位は**宮崎県の3.4%**で、テレワーク率(34位8.8%)と同様に下位ではあるものの、順位はずれています。テレワークと副業は「柔軟な働き方」という言葉でまとめられがちですが、駆動する要因が異なる別々の現象と見たほうが実態に近いといえます。在宅勤務はその業種が地域にあるかどうかで決まり、副業は兼業しやすい産業構造に左右される、という別々の論理で動いているのです。
副業実施率の都道府県ランキングを見るテレワーク格差は「デジタル格差」でもある
テレワーク率の地図は、突き詰めると情報インフラを使う仕事がどこにあるかの地図と重なります。在宅勤務が広がった県は、IT産業・ホワイトカラー職が厚く、通勤を前提にしない働き方への移行余地が大きかったといえます。
この差は単なる利便性の問題にとどまりません。在宅勤務ができる県は、育児・介護と仕事の両立、Uターン人材の受け入れ、通勤時間の削減といった面で構造的に有利になります。テレワーク格差は、**今後の地域間の人材獲得競争にそのまま効いてくる「デジタル格差」**でもあるのです。
地方移住を検討するなら、住環境や家賃だけでなく、「その県で在宅前提の仕事に就けるのか」を産業データで確かめておきたいところです。各県の働き方の土台は、労働・賃金カテゴリのランキングや都道府県プロフィールから横断的に確認できます。
まとめ
- テレワーク実施率は東京都が39.8%で最も高く、秋田県が6.4%で最も低い結果でした。その差は約6.2倍です(2022年・就業構造基本調査)。
- 上位は東京・神奈川・千葉・埼玉の首都圏4都県が独占し、なかでも東京だけが突出して高い水準でした。
- 下位は東北・南九州(秋田・島根・青森・鹿児島・高知)に集中し、7%前後で固まっています。
- 6倍差の真因は産業構造でした。情報通信業の事業所数は東京22,591所に対し佐賀218所で、テレワークしやすい仕事の受け皿そのものが偏在しています。
- 「テレワーク先進県=副業も盛ん」は誤りでした。副業率1位は京都(7.8%)で東京は2位、テレワーク下位の島根が副業率6位に入るなど、両者は別々の要因で動いています。
IMPORTANT
テレワーク率は「働き方の自由度」を測る指標であると同時に、その県のIT・ホワイトカラー産業の厚みを映す。地方創生や移住政策を考えるうえで、在宅で完結する仕事をどう地域に増やすかが、デジタル格差を縮める鍵になる。
データ出典
本記事のデータはe-Stat(政府統計の総合窓口)を基に作成しています。