2023年、交通事故100件あたりの死傷者数は、三重県と佐賀県で128.8人と最も多く、高知県では109.9人と最も少ない結果となりました。この指標は、単なる事故の発生件数ではなく、「一度の事故がどれだけ深刻な結果を招きやすいか」を示すものです。数値が高い地域は、重大事故のリスクが高いことを意味し、道路環境や運転行動に潜む危険性を浮き彫りにします。
概要
交通事故100件当たりの死傷者数は、交通事故の「質」を評価する上で重要な指標です。この数値が高いことは、速度が出やすい道路環境であったり、シートベルトの非着用率が高かったり、あるいは多重衝突事故が発生しやすいといった、事故が起きた際に被害が拡大しやすい要因があることを示唆します。全国平均は119.4人ですが、地域によってその深刻度には大きな差が見られます。このデータは、各地域がどのような種類の事故対策に重点を置くべきかを考える上で、重要な手がかりとなります。
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上位5県の詳細分析(事故の深刻度が高い)
1位:三重県、佐賀県
三重県と佐賀県は128.8人と、同率で全国ワースト1位となりました。三重県は、名阪国道など速度が出やすい上にカーブや勾配が多い幹線道路を抱え、重大事故が発生しやすい環境にあります。佐賀県は、見通しの良い平野部の道路で速度超過による事故が多発する傾向があり、一度の事故で多くの死傷者を出しています。
3位:福岡県
福岡県は127.9人で3位。九州の交通の要衝であり、都市高速道路網が発達しています。交通の流れはスムーズな一方、合流部などでの多重事故が発生しやすく、一度の事故で被害が拡大するリスクを抱えています。
4位:長崎県
長崎県は127.1人で4位。坂道やカーブが多い独特の地形が、運転の難易度を上げています。見通しの悪いカーブでの対向車との衝突や、坂道での追突事故などが、被害を大きくする要因と考えられます。
5位:静岡県
静岡県は126.7人で5位。日本の大動脈である東名・新東名高速道路が県内を横断し、長距離トラックなど大型車両の交通量が非常に多いのが特徴です。大型車が関わる事故は、必然的に被害が甚大になる傾向があります。
下位5県の詳細分析(事故の深刻度が低い)
47位:高知県
高知県は109.9人と、全国で最も事故の深刻度が低い結果となりました。県民一人ひとりへの粘り強い交通安全教育や、危険箇所の地道な改善活動が実を結んでいます。地域コミュニティによる高齢者への声かけなども、重大事故の防止に繋がっています。
45位:東京都、愛媛県
東京都と愛媛県は111.5人で同率45位。一見すると意外ですが、東京都は交通渋滞が常態化しており、物理的に速度が出せないことが、事故の被害を軽微なものに留めている最大の要因です。愛媛県は、地域に根差した交通安全活動が活発であることが、この結果に繋がっています。
44位:宮崎県
宮崎県は112.9人で44位。比較的交通量が少なく、穏やかな道路環境が、重大事故の発生を抑制していると考えられます。県民ののんびりとした気質も、安全運転に寄与しているのかもしれません。
43位:岡山県
岡山県は113.6人で43位。交通量は少なくありませんが、県警が主導する「ももたろう作戦」など、ユニークで効果的な交通安全キャンペーンが、ドライバーの意識向上に繋がっています。
社会的・経済的影響
交通事故100件当たりの死傷者数が多いということは、その地域で発生する事故が、より深刻な人的被害と経済的損失をもたらしていることを意味します。死亡や重傷に至る事故は、被害者本人とその家族の人生を一変させるだけでなく、長期的な医療費や介護費、そして労働力の喪失といった形で、社会全体に重い負担を強います。
この指標が高い地域は、救急医療体制への負担も大きくなります。事故現場での救命活動から、病院での高度な治療、そしてリハビリテーションに至るまで、多くの医療資源が必要とされます。事故の深刻度を下げていくことは、人命を守ることはもちろん、持続可能な医療・社会保障制度を維持する上でも極めて重要な課題です。
対策と今後の展望
事故の深刻度を下げるためには、ドライバーの行動に直接働きかける対策が有効です。シートベルトとチャイルドシートの全席着用の徹底は、最も基本的かつ効果的な対策です。また、速度超過や飲酒運転といった危険運転に対する取り締まりの強化も欠かせません。
道路環境の改善も重要です。事故が多発する「魔の交差点」の構造を改良したり、中央分離帯を設置して対向車線へのはみ出しを防いだりすることで、正面衝突のような最も悲惨な事故を減らすことができます。今後は、車両側に搭載された先進安全技術と、道路インフラ側の情報を連携させる「ITS(高度道路交通システム)」の活用が、事故の深刻度を劇的に下げる鍵として期待されています。
指標 | 値人 |
---|---|
平均値 | 119.9 |
中央値 | 119.7 |
最大値 | 128.8(三重県) |
最小値 | 109.9(高知県) |
標準偏差 | 4.7 |
データ数 | 47件 |
まとめ
2023年の交通事故100件当たりの死傷者数ランキングは、単なる事故件数だけでは見えてこない「事故の質」という側面を明らかにしました。三重県や佐賀県のように、一度の事故が大きな被害に繋がりやすい地域がある一方で、高知県や東京都のように、様々な要因から被害が比較的小さく抑えられている地域もあります。このデータは、私たちが目指すべき交通社会が、単に事故が少ないだけでなく、「万が一事故が起きても、誰もが命を落とさずに済む社会」であることを示唆しています。
順位↓ | 都道府県 | 値 (人) | 偏差値 | 前回比 |
---|---|---|---|---|
1 | 三重県 | 128.8 | 69.1 | +1.6% |
2 | 佐賀県 | 128.8 | 69.1 | -1.7% |
3 | 福岡県 | 127.9 | 67.1 | +0.2% |
4 | 長崎県 | 127.1 | 65.4 | -0.8% |
5 | 静岡県 | 126.7 | 64.6 | -0.3% |
6 | 熊本県 | 126.1 | 63.3 | +0.6% |
7 | 岐阜県 | 125.3 | 61.6 | +1.5% |
8 | 大分県 | 125.3 | 61.6 | +0.3% |
9 | 山梨県 | 124.2 | 59.2 | -1.4% |
10 | 群馬県 | 123.8 | 58.4 | +0.2% |
11 | 宮城県 | 123.5 | 57.7 | +2.8% |
12 | 滋賀県 | 123.5 | 57.7 | -2.8% |
13 | 香川県 | 123.2 | 57.1 | +2.8% |
14 | 茨城県 | 122.9 | 56.4 | -1.1% |
15 | 奈良県 | 122.7 | 56.0 | +2.3% |
16 | 岩手県 | 121.8 | 54.1 | -0.5% |
17 | 沖縄県 | 121.8 | 54.1 | +1.2% |
18 | 栃木県 | 121.0 | 52.4 | - |
19 | 千葉県 | 120.8 | 51.9 | +0.1% |
20 | 山口県 | 120.5 | 51.3 | +2.3% |
21 | 青森県 | 120.0 | 50.2 | -1.1% |
22 | 徳島県 | 119.8 | 49.8 | -0.3% |
23 | 山形県 | 119.7 | 49.6 | +1.7% |
24 | 埼玉県 | 119.7 | 49.6 | +0.8% |
25 | 長野県 | 119.7 | 49.6 | +0.6% |
26 | 和歌山県 | 119.5 | 49.1 | -0.8% |
27 | 広島県 | 119.2 | 48.5 | -0.3% |
28 | 秋田県 | 118.7 | 47.4 | -0.8% |
29 | 福島県 | 118.7 | 47.4 | +0.8% |
30 | 愛知県 | 118.7 | 47.4 | +0.3% |
31 | 鳥取県 | 118.3 | 46.6 | +0.3% |
32 | 北海道 | 118.2 | 46.4 | +0.9% |
33 | 兵庫県 | 118.0 | 45.9 | -1.2% |
34 | 神奈川県 | 117.8 | 45.5 | +1.5% |
35 | 福井県 | 116.9 | 43.6 | +0.7% |
36 | 大阪府 | 116.5 | 42.7 | -0.6% |
37 | 京都府 | 116.2 | 42.1 | -0.7% |
38 | 新潟県 | 115.8 | 41.2 | -0.8% |
39 | 石川県 | 115.8 | 41.2 | +1.4% |
40 | 島根県 | 114.9 | 39.3 | +3.3% |
41 | 鹿児島県 | 114.3 | 38.0 | +2.0% |
42 | 富山県 | 113.9 | 37.1 | -0.5% |
43 | 岡山県 | 113.6 | 36.5 | +0.2% |
44 | 宮崎県 | 112.9 | 35.0 | +0.3% |
45 | 東京都 | 111.5 | 32.0 | +0.3% |
46 | 愛媛県 | 111.5 | 32.0 | -0.9% |
47 | 高知県 | 109.9 | 28.6 | - |