愛媛県の海面漁獲量は約7.4万トンで全国10位です。北海道の約85万トンと比べると11分の1ほどしかありません。ところが漁業産出額で見ると、愛媛県は全国3位(912.9億円)まで順位を上げます。北海道(3,000.1億円)にこそ及びませんが、漁獲量で前にいた長崎県(974.2億円)に肉薄する水準です。「どれだけ獲るか」ではなく「何を育てるか」が、水産業の稼ぎを決める時代に変わりつつあります。この記事では漁獲量・養殖収獲量・産出額の3つの軸を重ねて、どの県が「量で勝つ県」でどの県が「単価で勝つ県」なのかを読み解いていきます。
海面漁獲量ランキング──北海道85万トンが全国3割を占める
まず「どれだけ獲るか」の海面漁獲量(2023年)を見ます。1位は北海道で約85万トン、2位の長崎県(約29.3万トン)を3倍近く引き離しています。3位以下は茨城県(約26.2万トン)、宮城県(約18.0万トン)、静岡県(約14.5万トン)と続きます。上位はサンマ・スケトウダラなど沖合・遠洋漁業が盛んな北日本と、巻き網漁業の拠点を持つ太平洋側の県が占めます。
下位は奈良県・埼玉県・群馬県・山梨県・長野県と、いずれも海に面しない内陸県が並びます。これらの県は海面漁業の調査対象にほとんど該当しないため、ゼロまたはわずかな値になります。漁獲量ランキングは「沿岸を持つかどうか」「沖合漁業の基地を抱えるかどうか」という地理条件がほぼそのまま順位に反映される指標だといえます。逆に言えば、この地理条件だけでは説明できない順位の動きが出てくれば、そこに養殖という別の力学が働いていることになります。
NOTE
海面漁獲量は「天然の水産物をどれだけ獲ったか」を示し、いけすなどで育てた養殖収獲量は含みません。漁獲量と養殖量は別の統計として集計されるため、両方を並べて初めて県の産業構造が見えてきます。
海面養殖収獲量ランキング──広島・宮城・愛媛が上位に割り込む
次に「どれだけ育てたか」の海面養殖収獲量(2023年)を見ると、景色が一変します。1位は北海道(約11.4万トン)で変わりませんが、2位に広島県(約9.2万トン)、3位に宮城県(約8.9万トン)、4位に愛媛県(約6.2万トン)、5位に兵庫県(約6.2万トン)が入ります。漁獲量ランキングでは中位以下だった広島県や愛媛県が、養殖では一気に上位へ躍り出ます。
品目を見ると構造の違いが鮮明です。広島県はカキ、宮城県はカキとワカメ、愛媛県はマダイ、熊本県(7位・約4.8万トン)はノリやアサリ、佐賀県(9位・約3.8万トン)はノリと、それぞれ得意品目に特化しています。漁獲量では14分の1の差があった愛媛県が、養殖では北海道の半分超まで迫る点に注目してください。養殖は内湾や穏やかな海域があれば成立するため、沖合漁業の基地を持たない瀬戸内・九州の県でも上位を狙えるのです。これが、漁獲量だけでは測れない「もう一つの水産業」の輪郭になります。
47都道府県の海面養殖収獲量ランキングをもっと見る漁業産出額ランキング──金額にすると養殖県が浮上する
最後に「いくら稼いだか」の漁業産出額(2016年)を重ねます。1位は北海道(3,000.1億円)で変わりませんが、2位以下の顔ぶれが動きます。2位は長崎県(974.2億円)、そして3位に愛媛県(912.9億円)、4位に鹿児島県(762.5億円)、5位に宮城県(759.9億円)が入ります。
愛媛県は漁獲量では10位でしたが、産出額では3位まで上昇します。鹿児島県も漁獲量16位から産出額4位へと大きく順位を上げています。理由は単価です。愛媛県のマダイ、鹿児島県のブリ・カンパチといった養殖魚は、サンマやイワシのような大量に獲れる多獲性魚に比べて1キロあたりの価格がはるかに高くなります。同じトン数でも、養殖の高単価品目を抱える県のほうが金額ベースでは上位に来るわけです。つまり「漁獲量の順位」と「稼ぎの順位」がずれる最大の要因は、養殖という選択そのものにあります。
WARNING
産出額は2016年、漁獲量・養殖収獲量は2023年と年次が異なります。順位の比較は「量の指標」と「金額の指標」の構造差を読むためのものであり、同一年での精密な対応ではない点に注意してください。また相関が見えても、養殖が原因で稼ぎが増えたと断定するには品目別の単価分析が必要です。
漁業就業者数ランキング──減る担い手と、養殖が選ばれる理由
「育てる漁業」が広がる背景には、担い手の減少があります。漁業就業者数(2023年)は北海道が約2.0万人で1位、2位の長崎県(約9,208人)の2倍以上です。3位は青森県(約6,855人)、4位は宮城県(約5,242人)と続きます。
注目したいのは、就業者数の上位と養殖・産出額の上位が必ずしも一致しない点です。たとえば青森県は就業者数3位ですが、産出額や養殖では上位に入りません。逆に広島県は就業者数18位(約2,672人)ながら養殖収獲量2位です。少ない人数で高い収獲量・産出額を生むのが養殖型の県の特徴で、これは養殖が漁獲漁業よりも計画的な生産と省力化に向くことを反映しています。担い手が細っていく局面で、限られた人手から付加価値を引き出せる養殖へ重心を移すのは、地域経済として合理的な選択といえます。
TIP
漁獲量・養殖量・産出額・就業者数の4つを横に並べると、県の戦略が読めます。北海道のように全方位で強い県、愛媛・広島のように養殖の単価で稼ぐ県、長崎のように量で稼ぐ県──同じ「水産県」でも勝ち筋はまったく異なります。
まとめ──「量」より「単価」が水産業の稼ぎを決める
海面漁獲量・養殖収獲量・産出額・就業者数の4軸から、日本の水産業の地域構造を整理します。
- 漁獲量(2023年)は北海道85万トンが圧倒的で、内陸県は海面漁業の対象外でゼロ
- 養殖収獲量(2023年)では広島・宮城・愛媛が上位に割り込み、漁獲とは別の序列が生まれる
- 産出額(2016年)では愛媛が漁獲10位→3位、鹿児島が16位→4位へ浮上。高単価の養殖魚が効く
- 就業者が減るなか、少人数で付加価値を生む養殖へのシフトは構造的に続く
水産業の全体像は漁獲量ランキング・漁業産出額ランキング・農林水産カテゴリから、各県の事情は北海道や愛媛県の地域ページから掘り下げられます。
データ出典
- 農林水産省「漁業・養殖業生産統計」(海面漁獲量・海面養殖収獲量 2023年、漁業産出額 2016年、漁業就業者数 2023年)
- e-Stat 経由で整備(社会・人口統計体系ほか)